第30話 これにて会議は終わる。


「改めて自己紹介しよう……学問を司る男神、ダムラだ」


学問を司る神様だから人間に紛れて教師なんてやっているのだろうか? ダムラという神様としての真名を聞いても、武先は武先と感じる。俺は浅川のほうを見る。


「ちなみに浅川は、何を司ってるんだ?」


「わたし? ……ふふっ、わたしはね……愛と勇気! そして友情! それらを司る女神だよ!」


「なんだその頭に餡子詰めてるヒーローみたいなの……」


今一瞬あのオープニングが流れて来たじゃないか……。武先が生徒会室の扉を閉め、生徒会長の席にどかっと座った。


「なにやら部活動の予算で悩んでいるらしいな」


「リアサから話を聞いたんですか?」


「ああ、だいたいの事情は聞いた、俺は感心したぞ、お前が執行の仕事をしっかりやっているようでな」


「俺は仕事はちゃんとしますよ」


「そうか……で、男子水泳部と女子テニス部の為、他の部の予算を削りたいみたいだな」


「はい、ただ削るといってもむやみやたらに削るわけにもいかず……武先生に相談しようと思ったんです」


リアサが空いている椅子に座りながら言う。


「ああ、聞いた限りお前たちの考えは悪くない、ただ勘違いしているようだから言っとくぞ? お前たちが削ろうとしている部活はどこの部も例年のように予算を余らせてる。なら、別に交渉せずとも容赦なく予算は削っていい」


「でも、部活動生から批判が出ませんか?」


優女が危惧しているのは勝手に予算を削ったことによる部活動生の不満だろう。


「それもまた勘違いしているみたいだが……大抵の部活動生は部の予算で悩んだりしない。予算について考えるのは顧問の仕事だ」


確かに、俺は部活動に入部した経験がないからその感覚がわからなかったが、ただの高校生である部活動生が、部活の予算を憂いながら活動しているとは思えない。予算を気にするのは直接お金を管理する、生徒会役員ぐらいだろう。


「だいたいの運動部の顧問は、毎月の予算を使い切るためにいろいろやってる。あるだろ? 大会の終わりに顧問が差し入れにアイスや飲み物を買ってくること、あれは生徒に対する労いの意味もあるが、本当は少し余った予算を削るのが目的だ」


「「「「……?」」」」


「お前ら誰一人として部活動の経験がないのか……」


「ということはこの悩みを目安箱に入れたのは男子水泳部と女子テニス部の顧問ということかしら……」


「なんじゃないか? 俺も例年生徒会の予算では悩まされる。あまり大きなイベントを興せば予算が足りない、でも何もしなければ予算が余る、ほんと面倒だ……はあ……」


武先が盛大にため息を吐いた。だいぶお疲れのよう。武先がいつから生徒会の顧問をしているのか知らないが、他の部に比べて気苦労が絶えないだろう。それも俺達が生徒会に入るまでは役員がリアサ一人だったのだ。武先の負担は大きかっただろう。


「そう言う話ならなぜ武先生はわたしたち生徒会に差し入れを持ってこないのかしら?」


「えっ、今まで一度も持ってきたないの?」


リアサの疑問に浅川が続く。


「面倒だったんじゃないの? 武先、わたしに自分は生徒思いだって言ってたのにね」


優女が武先に「ね?」と語りかける。それを受けて武先は「なにを言ってるんだお前らは?」といった顔を浮かべた。


「毎年生徒会の予算はカツカツだ。お前らへの差し入れを買う金はない」


「それなら自腹を切ればいいだけじゃないですか。一回ぐらいお菓子でも買ってきてもバチは当たりませんよ」


「青木兄、俺がそこまで太っ腹に見えるか?」


「見えない……」


「だろ? 俺は自分の為に金を稼いでるんだ。他人に使うぐらいならクビにするぞ?」


「なんてパワハラなんだ……でもそうか、武先にせがめばこの生徒会をやめられるのか……」


優女が武先の目の前に移動して両手を合わせかがみ込んだ。


「武先、わたしにフォーティーゼロのアイス買って♡」


それを見て俺も優女の隣に並ぶ。


「武先、俺に本を十冊ほどプレゼントして欲しいな☆」


俺達のお願いを聞き武先の頬がぴくぴくとひくついた。


「一応説明しておきますが……そこの二人にとってはクビ=仕事をしなくていいとなるので、その脅しは逆効果を招きますよ」


リアサの説明を聞き武先が頭痛を堪えるように頭を押さえる。


「なにしてるの二人とも……」


浅川はドン引きしていた。お前らにプライドはないのかとでも言いたげだ。優女はわからんが少なくともこの場の俺に置いては武先にお願いすることに躊躇いはない! プライド? なにそれ必要? 俺は別にこの生徒会で仕事がしたいわけじゃないのだ。むしろ仕事をやらなくてもいいということにかけて、プライドを発揮してみせよう。だから武先、俺をクビにしてえ♡


「青木兄妹の考えはわかった、俺も大人だ、少しぐらい様子見がてら今後は差し入れをしようじゃないか……」


「「なら!?」」


「だが仕事はやれ。お前らを簡単にやめさせるわけないだろう」


「クソッたれ! これだから仕事は嫌いなんだよっ」


「そんな~、わたし放課後はゆっくりアニメ観賞してたいのに~」


「お前らを怠けさせると将来が心配になるな……」


当分生徒会はやめられそうにないな。残念だ……。気を取り直して俺と優女はさっきまで座っていた席に戻る。


「まあとりあえず、予算を削ることは別に気にしなくていい、ただお前たちが考えたアイデアはいいと思うぞ? 文芸部も漫画研究部も手芸部も話を聞けば喜ぶだろう」


「ならこのことことを武先生から各部活動の顧問に伝えて貰えませんか?」


「それは構わないが……図書室の先生と布地の回収についてはお前らにも働いてもらうからな」


リアサのお願いにそう答える武先。これから少し忙しくなるな。


「布地の回収は各担任の先生方にホームルームで呼びかけて貰いましょう」


「図書室の先生には誰が交渉に行く? 全員で行っても迷惑なだけだろ」


俺が聞くとリアサが一瞬俺を見た後、武先に視線を向ける。


「わたしと武先生の二人で行くわ」


「面倒だが行くか……リアサは明日の昼休み時間を取っててくれ、図書の先生には俺から話があることを伝えとく」


「わかりました」


こうして俺達の予算案については決着がついた。いや、まだ完全に終わったわけじゃないんだけどね? 布地をわざわざ学校に持ってきてくれる生徒がいるかわからないうえ、図書室の先生との相談もうまくいくかは現時点ではわからない。けれど、何とかなるだろう。俺はそんな軽い期待を覚えた。

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