LAST HOPE
てぃ
「プロローグ」
昨日、今日。そして、明日──
人々の営みは変わりなく、連綿と続いていくと思われた。
だが、それは人々が勝手に思い描いた根拠のない夢想に過ぎなかったのである。
──その日、大陸全土が前触れなく
時は正暦1335年。世界の中央にある"
*
……初夏の日差しの中、片手でひさしを作り、船の
彼は島影が見えたとの水夫の声に
前方を
今はまだ拳大の大きさにしか見えないが、もうじきすればもっとはっきり、大きく見えてくるだろう。
もう少ししたら船室の
「おはようございます、ダイブさん!」
「おう。おはよう──」
もっとも若い水夫──といっても、少年とは同年代だが──父親を見かけるなり、挨拶している。黒髪の
その父、ダイブは水夫の少年と軽い世間話程度に言葉を交わした後、船の舳先へ、息子の方にゆっくりとやってくる。
「おはよう、ランパート。島が見えてきたんだってな」
「おはよう。まだまだ遠いけどね……でも、島だって言えるくらい、はっきりとした大きさにはなったよ」
「ほう。その島、迷ってなけりゃスワロー島だな。スフリンク領スワロー島……」
「……そこから本土まではどれくらい?」
ランパートが父親に尋ねる。
「1時間だ。……といっても、単純な距離の話じゃない。砂時計と
「実際にはもっと近いってこと?」
「そういうことだ」
そう聞いて、ランパートの表情が硬くなる。……いよいよか。背筋をほぐすように動かしながら、前方の島を
「……なんだ? 今更、怖気づいたのか?」
すると、ダイブが冗談めかして笑いかける。
息子には航海初日に
「そんなんじゃないよ」
「ほー、そうか──」
「ローウィン! おい、ローウィン!! 起きたなら、ちょっと来てくれ!」
「うるせぇなぁ……ローウィンなら、ここに二人いるぞ! どっちだよ!!」
「ローウィンっつったら、お前だろうが! ぶつくさ言ってないでとっとと来いよ!!」
「うるせぇなぁ……しょうがねぇ、ちょっと行ってくる」
「分かった。父さ──」
──その時! 船が何かに激突したかのように、船体が大きく揺れた!
そのあまり強い揺れに立っていられず、そこかしこで膝をついたり、転倒した者も多かった。
ダイブも立て直すと、さっきまで怒鳴っていた船長の方へ歩み寄りながら──
「なんだってんだ!? こんなところで
「そんなヘマするかよ! そもそも──」
だが、じゃれ合うような二人の口喧嘩はそこで中断された。
──状況は想像以上に深刻だった。派手な音をたてて
それも一つや二つではない、甲板の後部から巻き付き、船体そのものを締め付けて破壊しようとしていた!
「……ダイブ! 丸腰か!?」
「残念ながらな!」
「武器は部屋か!? さっさと取りに行け、ついでに息子も閉じ込めとけ! 部屋には手斧もある!」
「悪い、少し任せた!」
「気にすんな! ……野郎ども、さっさと引き剥がすぞ!」
ダイブは
ランパートは突然の出来事にただただ
……そうして、下層の寝泊りしていた船室に到着するとランパートを部屋に残し、ダイブは愛用の両手剣を持って甲板に上がろうとする。
「いいか、ランパート……扉の横に手斧があるだろ。いざとなったらそいつを使え。どういう風に使えとか具体的に言ってやれないのはもどかしいが、とにかく、上手くやれ。生き残ることを一番に考えろ。まずいと思ったなら部屋を飛び出してもいい。とにかくだ。とにかく、生き残れ。……親より先に死ぬんじゃないぞ」
「……父さん!」
「なんとかするさ……なんとかな!」
部屋の扉を乱暴に閉める。
……今までなんとかなってきた。今もこれからも、なんとかなる。
ダイブは遺言じみた言葉を残したが当然、死ぬつもりなど毛頭なく笑顔で息子の元に帰るつもりでいた。
*
「──悪いな、待たせた!」
ダイブは
「……斬れねぇな、クソが!」
剣で殴りつけた後は、大袈裟に後ろへ
ダイブが斬りつけた箇所は裂けて傷口から青い血が噴き出していた。確かに裂けているが、切り込めたというほどの手応えはない。ましてや切断には程遠い。
……ダイブは昔に退治した
この
「ダイブ、やれそうか!?」
船長が彼のところへ走り寄ってきた。
その手には
水夫たちが鉈やら手斧やらを駆使して撃退しようとしているが、それも効果的とは言えなかった。
「ダメだな……切れそうにないし、第一、俺の技とは相性が悪い」
「そうか、お前の剣でもダメか……歯がゆいな、何本か切り落とせれば引き剥がせると思ったんだが……」
「俺も海の怪物がこんなに厄介とは思わなかった。せめて弱点でもあればな……」
「こいつはおそらく腕の色からして蛸の化け物だ。だとすりゃ、目と目の間……人間で言えば、鼻筋あたりか。
「……やるか、ジョージ」
「しゃあねぇ。やるか……」
──二人の男は即断即決した。
ジョージは船長としてその場の水夫たちに指示を出し、後事についても言い含めておく。そして、両名とも手に
彼らは決して死に急いだのではない。生き延びるために最善を尽くしたのだ──
*
……ここまでの話は、過去の出来事だ。現在はそれより五年後。正暦1340年。
当初は薄い
そして、物語はここから始まる──
*****
<プロローグ・終>
※この話は「魔術師と剣のひらめき」本編の名目上は外伝、実際は相互に補完し合う裏表の関係になります。本編と違い、ある男が復活しなかった為に狂い始めた世界。世界崩壊を食い止める為に魔物と戦い、奔走する……というようなストーリーになるはずです。多分。
・「瘴気について」※課題の捕捉
前述の通り、設定は「魔術師と剣のひらめき」と共通としています。瘴気についても同じです。本編第5話で説明していますが、抜粋すると──
「では、魔孔に突入する前に把握するべきもの……それは第一に、色だ。瘴気は目に見えるが瘴気の色、濃さというものは個々によって一律ではない。安全に近いものは白く薄く、逆に危険性の高い魔孔といえばその瘴気も
……説明に少しノイズもありますが要は"色"がつき、濃くなっていくと危険が増す、という設定なんです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます