第37話 こんなシナリオなんて放棄して今すぐにでも帰りたいって思うのはきっと正しいはず。




 今いる場所は多分敵がいないエリアだと思う。

 でもそれはつまり、前と同じように、この先を抜けたら化け物空間が待っているということだろう。

 なぜそんなところにいかなくちゃならないんだ。

 何が『水精霊ウンディーネの導き』だよ。

 絶対にこれ『水精霊ウンディーネの拷問』の間違いだろ。

 行きたくないからな。


[スキル『拷問レベル1』を獲得しました。]


 そんな物騒なスキルいらねぇよ!

 あとうっせぇ!


 妙に沙耶が浮かれてやがるし。

 何なんだよ。嫌な予感しかしないんですが?


「……ねぇ、やっぱり帰らね? 俺なんか悪寒してきたんだけど……と言うことで俺は帰…」


「いや、行こうよ〜〜」


「……ですよね……はあ。」


 結局、強引な沙耶の圧に負けて俺は先に進むことになってしまった。

 とはいえ、どっちにしろこの先に進まないと俺は死ぬので、結局来ることになっていたに違いない。

 全く、理不尽が過ぎるぞ。


「うわぁ~〜綺麗……」


「ハイハイ、ソウデスネ」

              

 ここに敵がいなかったらどれだけ良かったことか。

 そうしたら俺もこの景観を楽しめただろう。

 まるで外にいるような感覚に陥る景色に、あちこちに流れる滝。

 地面に広がる薄い水面に辺りの景色とうっすらとした光が反射して確かに幻想的と言えるだろう。

 でも俺はそれ以上にこの空間の異質さと恐ろしさに怯えていた。


 だって明らかに二つのピラミッドの間に丸い玉?みたいなものが挟まって、そこを変な環が回っている物体? みたいなのがあちらこちらに徘徊? しているし。


[スキル『徘徊レベル1』、『回転レベル1』を獲得しました。]


 ……


 しかも明らかに殺意高めの魔法をこちらに放ってくる。

 しかも何故か氷の攻撃。

 ここって水精霊メインのところだよね?

 明らかに氷で攻撃してきてるんですが?


[スキル『氷結レベル1』を獲得しました。]


 ………


 あと、あれって絶対精霊とかじゃないでしょ! 何かの機械だって!

 どう考えてもそうとしか考えられない形状してるじゃんか!


[違います。あれは『結晶集合体クラスター』と呼ばれる精霊の形態の一種です。同属性の微精霊が集合した際に系譜の異なる精霊が集まったり、違う属性の精霊が混入することによって変化する形態の一つです。また、水の精霊にはしばしば氷属性を併せ持った精霊が生まれてきます。よって水属性の精霊の『結晶集合体クラスター』においては高確率で氷属性の魔法を保有しています。]


 一々説明しなくていいから。

 叡智ポンコツさん、黙ってようね?

 できるよね? 


 ……あのさ。面倒なことを聞くけどさ、ここってユニークモンスター現れないよね?

 俺またあんな面倒なことはやりたくないんだけど。


[現空間において、確認されたユニークモンスターは2体です。同様にネームドモンスターも2体確認しました。]


 ……帰りたい。

 いや、待てよ? 敵を倒すのは全て沙耶に任せておけば普通に良くないか? だってあのデカブツ倒したのだって結局のところ沙耶なわけだし。わざわざ俺が戦う必要はないのでは?

 ……でもなぁ、そうすると俺も沙耶に殺されかねないっていう不安が出てくるんだよな……

 やっぱり現実なんてクソゲーじゃないか。


 だってあのステータスに暴れられたら収集がつかなくなりそうだし。


[スキル『暴虐レベル1』を獲得しました。]


 …………


 それに、沙耶はそもそもやらかすことが前提みたいな生命体だし。


 はあ。俺がやるしかないのか?


「ねえ! この子超かわいい! 家で飼っていいかな?」


[スキル『飼育レベル1』を獲得しました。]


 ……………


 いや、どこがだよ。

 少し周りよりちっちゃいだけの機械もどきじゃんか。

 あと、それ沙耶の両親が決めることだから。


「俺に聞かれてもなぁ。でも多分駄目って言われるぞ。やめとけ」


 沙耶に向かって氷魔法の『氷槍アイスランス』を連射してるあたり、絶対にやめておいたほうがいい。

 かなりレベルが上がった俺でさえかなりダメージを受けそうな攻撃だ。

 これは魔防がありえないくらい高い沙耶だからできる芸当だろう。

 つまり他の一般人から下手したら死人が出るレベルだ。

 ……こんなに攻撃してくるやつのどこが可愛いんだよ。

 沙耶ってセンスまで狂ってたのかよ。

 沙耶がそんなこと言って俺たちが立ち往生をしている間にいつの間にか大量の機械もどきに囲まれていた。


[スキル『包囲網レベル1』を獲得しました。]


 ………………ふざけてる?


 こんな事してる場合じゃない、よな。

 あーあ。なんでこんな目に遭うのか……


「……取り合えず囲まれたわけだし沙耶、戦おう」


「え〜〜もうちょっとこの子撫で撫でしたいのに……」


「そんなことをいつまでも言ってたら俺が死ぬ。それだけはヤダ。理解した?」


「……習くん、お願い! 何もしないのもあれだし、防御魔法は展開しておくから! 『千層障壁サウザンド・バリア』~~」


 は? 丸投げ?

 流石にそれはないだろ……


 マイペースが過ぎるぞ! クソがよ……


[ユニークモンスター『アクア・エレメンタル・ガーディアン』に発見されました。]

[該当モンスターがマスターと個体名:三倉沙耶に敵対しました。]


 ……クッソなんでこの期に及んでユニークモンスター!?

 マジかよ。逃げ場ないのかよ! 理不尽極まりないな、おいっ!

 クソ。風魔法でとりあえず周りの機械を吹っ飛ばす!


[称号『魔巣窟モンスターハウスの踏破者』の効果が発動しました。]


「全く……詠唱なんてもの恥ずいからしたくなかったのに!

。…………『気墜噴流ボレアス・バースト』!」


 長っ! それに恥ずかしすぎて死にそう………

 こういうのを穴があったら入りたい気分っていうのか……よーく理解したよ。嫌なほどに。

 でもなぁ……奥にめっちゃ強いだろうやついたしなあ……多分あれがユニークモンスターだろ?使わざるを得ないよな……

 ……ユニークってそんな簡単に出てきていいものなの?

 感覚がよくわからなくなってきた。


[システムメッセージです。ユニークモンスター『アクア・エレメンタル・ガーディアン』への攻撃を確認しました。]

[エクストラクエスト『水精の守護者』が発生しました。] 


 え?

 マジで? ……でもあっちは気づいてたしな……

 ……沙耶は……まだ氷の攻撃を受けながら撫でてる。


「沙耶、マズいことになったから助けてくれ! 頼むから!」


「防御魔法強めるからこれでオッケー? 『虹耀宮アルカンシェル』~~」


 すると、虹色の結界が展開された。

 それにさっき枯渇しかけた魔力がみるみるうちに回復し始めた。

 つまり俺だけ戦えと、そういうことか。


[スキル『魔力再生レベル1』を獲得しました。]


 お前は話しかけんな。


「あくまでも丸投げってわけね! このクッソ!」


 これじゃあやること反復魔法訓練とあんまり変わらないじゃないか。

 ……まあ死ぬよりはマシか。

 

 ……死ぬよりマシとか本当に俺狂ってきてるな!

 それよりも手伝わないとかマジでクソかよ。危機感皆無かよ。


 ……本当に皆無だった。

 多分俺が声掛けなかったら防御魔法すら張ってないだろうな……

 なんだろう。責めたいのに責めきれない。……タチが悪すぎる。

 そこまで一大事と思ってもいないっぽい。……はあ。

 ……そういえば沙耶って危険察知とか知能系のスキル一つもなかったな。

 大体の人はみんな最低限持ってるのに。


 それに世界の仕組みもおかしい!

 攻撃したからクエスト始まるとか鬼ですか?

 敵対されてて逃げ場もなかったら攻撃するしかなくない?

 本当に頭おかしいんじゃないの?


 ……本当にシナリオとかどうでもいいから早く帰らせてよぉ………

 はあ。理不尽だよ! 全く!



_______________


 作者です。

 次回、再び主人公には精神的負荷をかけます。


 また今回の話について、称号の効果が発動する前に主人公のクラスターに対する呼び名が機械もどきから機械に変わっていますが、ただの動揺表現なので気にしないでください。

 悪しからず。

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