第24話 継父と母親

継父と母


「夏菜子さんあんま無理しないで今日は帰りなよ

顔色悪いじゃないか

清掃会社に勤める夏菜子は

「大丈夫です」

と言い張る

清掃会社のおばちゃん達は

一人で息子を育てる夏菜子に

心配の目を向ける


「分かるけどあんたが病気したら息子ちゃんもこまるだろ、今日は帰り」

そういうと栄養剤を手渡す

丸いおばちゃんも痩せこけたおばちゃんも心配してくれる


「どうしたんですか❓」


このIT会社の社長がトイレに来てワイワイ話すオバチャンの話に混ざってくる


「ありゃまー社長さん

トイレは掃除終わりましたよ

ドーゾドーゾ」


「いやいやどうしたんです

偉く賑やかですケド」

すると二重あごをした元気の良いオバチャンが


「この人夏菜子さんっていうんですけどね、シングルで子供育てるんですけど具合悪いのに帰らないんですよ」

夏菜子は下を向いたまま か細い声で

「すみません」

と言った


すると西尾社長は

「あーなるほど、倒れられてもウチが困ります、シッカリ治して来てください僕が送りますよ、トイレ行ってくるので待っててください」


「いえ、自転車なので1人で大丈夫です」


「何言ってんのこんなフラフラしてるのに送ってもらい」


「で、デモご迷惑おかけしてしまいます」

夏菜子は汚れた服のまま車に乗せて貰うのは抵抗があった


「じゃあ救急車呼ぼうか」

お節介なおばさん達は

ボサボサな髪を1括りした化粧っ気もない度の厚いメガネを掛けた夏菜子を脅してくる


「そんな救急車だなんて🚑」



「ほら社長来たよ」

社長は慌てた感じでバタバタと駐車場へ駆け出していきながら

「車回して来ます直ぐきますから」

そう言うと中庭を走って行った、銀杏木が黄色い落ち葉を敷き詰めて柊の白い花が独特のいい香りを流している。


人のいい社長はピカピカの黒塗りの高級車に乗って現れた


おばちゃん達は

「はぁ〜カッコイイ」

とため息をつく


ふくよかなおばちゃんは

「社長私が具合悪くなったら送ってくれます?」

とニヤニヤしながら聞いて来る


「はい約束しますよ皆さんのおかげで気持ちよく仕事

出来てるので必ず送ります」

と言った。夏菜子は申し訳なくて車に乗り込む前に

「ホントホントに大丈夫ですから」

と胸の前で手をブンブンとふった


「何言ってんだいソォレイッー」

車のドアを開けおばちゃん達は勢いで夏菜子を押して座らせドアを閉めた!

そして連携プレーの様に西尾は車を走らせた

「あの子夜は料理屋で働いてるんだよ

きっとあんまり寝てないんじゃないかね可哀想に」

子供を1人で育てる苦労を経験したおばちゃん達

叩けば埃が出るおばちゃんも何人かいる。そんなおばちゃんたちだから分かる苦労もある


西尾はナビに夏菜子のアパートを入れてすすむ


夏菜子はつい眠さが勝ち居眠りをしていたその間

西尾達也はコンビニにより弁当と隣の薬局で疲れに効く栄養剤とあかぎれに効く塗り薬を購入した


夏菜子を起こして

「着きましたよ」

と言った

夏菜子はハッとして目を覚まし無礼を詫びた


「良く眠ってましたね

起こしたくなかったけど

私も仕事があるんで」


夏菜子は益々申し訳なくなったり恥ずかしい気持ちが入り混じり

何度も謝った

「ホントにありがとうございました」

と頭を下げた時夏菜子の度の厚いメガネがポロリと落ちた

西尾達也は夏菜子を見て驚いた広瀬アリ〇によく似ていた


「アッア」夏菜子は慌ててメガネをかけた

見られてしまった事に気付き

ぼーっとしてる西尾を見て


「アハハ꜆꜄꜆

昔から良く似てるって言われて間違えられるんです

あんなに元気で明るい広瀬さんとは性格は似ても似つかないんですけど」


「それでメガネを?」


夏菜子はコクンと頷いた



「夏菜子さんは夏菜子さんでいいじゃないですか」

西尾はコンビニ袋を手渡し


「シッカリ食べて下さい

元気にならないとオバチャン達と対等にやり合えませんよ彼女達は元気すぎますからねꉂꉂ‪ハハハハハハハハハハハッッッッ」

そう大笑いをして言うと

「お大事に」

と言って車を出した。

夏菜子は何度もアタマを下げていた



「おカミさん」

すっかり元気になった夏菜子は夜の小料理屋

、味道楽にいた

「どうしたの夏菜ちゃん」



「あのうお願いがあって」

店の入口の、のれんをくぐると椿の硬いツボミと山茶花や色とりどりのコスモスがいけてあった。


「今日も見事に綺麗ですね」

夏菜子はウットリと花を見る


「ありがとう夏菜ちゃん

花も喜ぶわ、で何かお願い事?」


「はい実は」

夏菜子は2、3日前のことを話した

「それでお礼がしたくて

おカミさんに焼き菓子教えて欲しいんです」


「まあまあまあ夏菜ちゃん

その人が気になるのね

いいわよアメリカ仕込みの私が教えてあげる」


「いえ、気になるってのは

違いますケド՞」モジモジ


「分かりやすいわね」

顔を真っ赤にした夏菜子を

おカミの美織は微笑ましく見た、旦那と死別した子持ちとはいえ、まだまだ20代の夏菜子は若い、やり直すチャンスは多々あるし幸せを掴んでほしい、いいお相手が現れたのなら暖かい家庭を作ってほしい

旅立った旦那さんも夏菜子と息子が気がかりだったろう

祝福してくれるに違いない

情のあつい美織のグスンと言う鼻音は夏菜子にもきこえていた。


その日から仕事が終わると

おカミさんは焼き菓子の作り方をミッチリと教えてくれた



夏菜子は駐車場で西尾をまった、その両手にはシナモンの香りのする焼き菓子が抱えられていた


駐車場の方へ1台の高級車が入って来た

ハッと夏菜子は胸を踊らせる久しぶりに花柄のワンピースを着て髪を巻いた

しかしメガネはつけたまま

「あのー」と言いかけたが

夏菜子は口をつぐむ


社長は秘書の夢叶を伴っておりてきた

夏菜子はハッとして思わず横付けされていた車の後ろにパッとかくれた。


「社長これからご飯行きません」夢叶の可愛らしい声が

駐車場に響いた

「そうだな腹減ったな

今日の取引粘られたし

参った参った!寿司でも行くか」


「はーい賛成

回らないお寿司で!!」


「じゃあ残りの資料早く

作ってしまうゾ」

2人は仲良さげにエレベーターに乗って消えて行った。


夏菜子は凄く落ち込んでしまう

「おカミさんがせっかく教えてくれたのに」

渡せなかった焼き菓子を見て

夏菜子は申し訳なさに泣けてきた

ちょっと可愛いからってなんの事はない社長のまわりには

沢山可愛い子はいるんだ 私なんか気にも止めてないのだろう、夏菜子は自惚れていた事を反省した

しかも亡くなった夫を裏切ろうとしたことを悔いた

そう思うと息子さえ裏切る事になると思い込み罪深さに夏菜子の目からは涙が溢れた


「もう夢を見るのはやめよう

冬華の為だけに生きよう」

そう思いながら重い足をあげた。

彼の車のボンネットの上に焼き菓子を置いて

"ご迷惑じゃなかったら

受け取って下さい"

と書いて焼き菓子をおいた



「夢叶行くぞ」

「はーいお兄ちゃん」

2人は走りながら駐車場に現れた

「アレなんかあるよ!」

夢叶は不思議そうに見る

「警備に誰が置いたか確かめてもらいましょう」

その紙袋を見て夢叶は叫んだ

「これ味道楽の焼き菓子だワ中々手に入らないものよ」


「このお店ねホテルの板長していた大将がやってて奥さんはアメリカ帰りのパテシェよ評判が良くていつもいっぱいで入れないの

予約も受付ないから早く行かないとはいれないのよ」


「へぇーそうか

予定変更して行ってみるか」

「入れないとおもうけど」

夢叶はあんまり気がすすまない

入れないなら待つまでだ達也は不満そうな夢叶を車に乗せて味道楽へと車をはしらせた





水曜日で土日ではなかった為か10組待てば入れそうだったそうして1時間待ってようやく達也と夢叶は入店出来た

「いらっしゃいませ

ようこそ」

おカミの美織が着物で迎え入れる山茶花の生花の先にケーキがポツンポツンとガラスケースの中に残っていたがパッパとスタッフが持って行って

ガラスケースは空になった


「ほらすぐ売れちゃうのよ」

夢叶はプーっと頬をふくらませた。

個室に案内された達也は

「この焼き菓子はここのですか?」

美織は焼き菓子の中を見て驚いた

「どこでこれを?」

美織が聞くと事の次第を夢叶が説明した


「これは夏菜子ちゃんが大事な人に作った焼き菓子です私が指導して焼きましたあなたは夏菜子ちゃんをご存知ですか?」

達也は頷いた

そして美織は夏菜子の素性を達也に話したお節介と思ったが美織はそうしたかった

いつも暗い顔をしてはいるが「お客様の前では笑顔で、お食事にウチを選んで来てくださって時間とお金を落としてくださるお客様が朝から夜まで働いた大事なお金よ

笑顔でお迎えしないとうちではスタッフとしてやとへないわよ」

そう言って笑顔の練習をさせてきたそんな話をした


次の朝達也は夏菜子のアパートまで行き自分の気持ちを伝えた

焼き菓子が嬉しかった事

ずっと気になっていた事

付き合って欲しい事

そうして冬華の母親と西尾達也は三年をかけて愛をはぐくんだ

冬華は高校入学する前に西尾冬華になった。

それ以来不自由な生活から抜け出し第一希望の高校、医大へと進んだ、学費の心配もなくよく笑う様になった母親を見て新しい家族に深く感謝をし、この家族が困ったことがあれば今度は俺が守ると誓った。

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