第9話 障害を越えて

小学校での演奏が大成功に終わり、雅史と神子の周りには新たな風が吹いていた。子どもたちへの演奏をきっかけに、二人は音楽を通じて多様な世代に影響を与えることができると確信していた。しかし、この成功が新たな課題をもたらすことになる。


ある日、二人は地域の福祉施設から、高齢者への演奏会の依頼を受けた。演奏会の企画自体は歓迎だったが、雅史は自分の吃音による挨拶や進行が障害となることを心配していた。これまで以上に多くの人々と直接対話する機会が増えることで、彼の不安は増すばかりだった。


神子は雅史のこのような悩みに気づき、二人で話し合うことにした。「雅史さん、大丈夫。あなたの音楽はすでに多くの人の心を動かしている。言葉に詰まっても、それがあなたらしさだよ。私たちの音楽には、言葉以上の力があるから。」


神子の言葉に勇気づけられた雅史は、自分の障害を受け入れ、それを乗り越える決意を新たにする。福祉施設での演奏会では、二人はこれまでとは違うアプローチを試みることにした。演奏の合間に、雅史は簡単な挨拶や曲の紹介を行うのではなく、神子が進行を担当し、雅史は音楽によって自身の感謝や思いを表現することに集中した。


演奏会当日、高齢者の皆さんは二人の演奏に心から喜び、曲の一つ一つに深く感動している様子だった。特に、雅史が心を込めて弾いたメロディは、高齢者たちに懐かしさや温かな感情を呼び起こし、彼らとの間に深い絆を築いた。


演奏会の後、施設の職員からは「皆さんにとって、とても特別な一日になりました」と感謝の言葉を頂き、参加した高齢者の方々からも直接、温かい言葉をかけられた。雅史は、吃音という障害が自分の音楽活動を阻むものではなく、むしろ自分自身と向き合い、成長するためのきっかけになっていることを実感した。


「神子さん、僕たちの音楽が、こんなにも人と繋がる力を持っているなんて…」演奏会が終わった後、雅史は感慨深く言った。


「うん、音楽は言葉を超えて、心と心を繋げるんだね」と神子も笑顔で応えた。

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