第5話(五)
早めにチェックアウトして、地下鉄に乗った。
通勤ラッシュには合わなかったが、なかなかのこみ具合だった。座れなかったので間宮とドア側に立った。
「……もう少しこんでたらな」
間宮が隣でぽつりと呟いた。
「なんで?」
あんま人多いの嫌だなと思っていたので不思議に思っていると、
「公共の場で真純とくっつけるチャンスだったのに」
「……なんだそれは」
呆れて脱力してしまう。くっつくも何もさっきまで散々抱き合ってたのにこれ以上どうしろっていうんだ。まだ身体に違和感があって……まだ後ろに間宮のが入ってる感じがして、動きがぎこちない。
「……身体……辛い?」
身を屈めて耳元で間宮がささやいた。カッと顔が熱くなる。いろいろ思い出したのを振り払うようにわざとふてくされたように吐き捨てた。
「……うるさいな」
「平気って言わないとき真純ほんとに辛いんだよね。寄りかかっていいよ」
「って、お前ただイチャつきたいだけだろ」
「それもあるけどー」
えへへーと顔を緩めて間宮が肩を引き寄せた。
「っ、おい!」
びっくりする俺の背後で女の子のきゃっとかん高い声が上がった。───俺らに上がったモノじゃないと思いたい。
「地元じゃないところで真純といられるの嬉しくて」
間宮はご満悦だ。こっちはお前のせいで本調子じゃないのに……と思ったが、嬉しそうなのに、ま、いっかと思う辺り自分でもどうかしてる。
とりあえず疲れていたので間宮に体重を預けた。
「───あ、次でおりるよ」
目を閉じていると間宮が声を掛けた。降りかけに───。
「彼女すごく美人ー」
「ねー」
女の子の声が聞こえたが───、
(俺のことじゃないよな……)
彼女ってなんだ、心の中でツッコミながら間宮に促された。
* * *
「……スタジオ?」
行き着いた場所を見て、俺はぽかんとした。
「間宮のいとこって何やってんの?」
建物が密集する一角を確認して、スタジオだなここ。と思った。
「アクセサリーのデザイナーやってんだけど……ここに来てって言われたんだけど……、ごめん、真純。先に謝っておくね」
「は?」
さらにぽかんとしてると、
「あ、着いたのね」
建物から女の人が出てきた。
───すらりとした背の高い(俺より)きれいな人だった。なんとなく顔立ちが間宮と似通っていた。
(美人だな)
じっと見てると、その人もじっと俺を見た。
「はじめまして。真純くん。浜田天音です」
さらりとあいさつして中に促される。後に続いてこじんまりとした空間に通された。機材もあったりして手狭な感じだった。
「で、真純くん」
「? はい」
浜田さんはいくつかある段ボールを開けながら俺に声を掛けた。
「脱いで」
「……はっ?」
突然の物言いに目を丸くした。
「とりあえず脱いで」
「何言ってんだよ! って何言ってんですかっ? これ何? 間宮!」
間宮に助けを求めたが、間宮は静かに目を反らした。……おい!
「いいから早く。時間ないから」
「説明なく意思を通そうとするの血筋なのかよ! どういうことか言って!」
「いいからいいから」
「ぎゃああああ!」
───剥かれた。
気付くとなにやら化粧させられ、頭から布を掛けられ、空間に座らされた。なにやらアクセサリーを持たされ、浜田さんはカメラを構えシャッターを切り始める。
(……なにこれ)
───どゆこと……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます