第3話(二)

(……なんだこれ)


「間宮くん、いっぱい食べてくれて嬉しいわぁ。真純ったら、あんまり食べないし、食にこだわりないしで、作りがいないんだもの」

「すごくおいしいですよ、お母さん。また食べに来たいなぁ」

「えぇ、本当に? ぜひまた来て欲しいなぁ」

 ……………。

 母親はなぜか五割ほどテンションが高い。間宮に至っては、初めて見るような、そつのない笑顔で受け答えしている。

 誰よあんたら……。

 二人の会話を聞きながら、黙々と出されたハンバーグに格闘しているが(いつもは和食なのに)、通常モードの自分がバカに思えてくる。わざとらしく会話に参加した方がいいんか。

「ごちそうさまでした。おいしかったです」

「そう? 良かった~。間宮くん、先にお風呂入っちゃって」

「いいんですか?」

 こっちの存在は無視され、会話が進んでいく。

 ……なんか、もう。

(勝手にして)


 * * *


 自分のベッドの横に来客用の布団が敷かれている。母親が整えたようだが、勝手に部屋に入るのはやめて欲しい。

 一緒に部屋に入った間宮は、さっきからこっちの呼び掛けに応えない。

(めんどくさいな)

 なんだよ、母親にはあんなに愛想良かったくせに。

 ムッとしたが、俺は間宮に返してもらった鞄を引き寄せて、

「間宮、課題やった? 今からやる?」

 駄目もとで言ってみたら、「うん」と答えが返ってきた。少しホッとして、テーブルに教科書とか広げる。間宮も向かい合って、筆記具など持ってきた鞄から出した。

 無言の中課題を終わらせ、手持ち無沙汰から予習復習までやって───、

 何やってんだろうと思う。

(─────真面目か)

 確か───俺ら付き合ってる───はず……?

 眉を寄せて虚空を見上げていると、間宮が片付け始めた。終わったのかと目にとめて、時計を見る。

「少し早いけど、もう寝る?」

「うん」

 返事をして、間宮が布団に入り込む。自分もベッドに上がって明かりのリモコンを手に取った。

「電気消すな」

「うん」

 暗くして、布団にはまだ入らずベッドの上に座って、低い位置で横になる間宮を見下ろした。こっちに背を向けているが、まだ寝ていないと思っている。クーラーがきいていて部屋は涼しい。暗くはしたが、月明かりで真っ暗ではなかった。

 ───しばらく見下ろして、俺は意を決して口を開いた。

「……………しないの?」

 ガバッと、間宮が起き上がって俺を見上げた。びっくりしたように、目を大きくしている。

 その慌てぶりに気分を良くして、俺はもう一度聞いた。

「しないの……?」



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