二重の罪

織宮 景

第1話 少年の顔

 私は何の変哲もない女子中学生……。

 自分で言った手前、変哲な奴とはどのような特徴をしてるんだろうか疑問に思った。アインシュタインとかかな。彼は変哲の塊だったんじゃないか。だってあんなに賢いのに舌出して馬鹿アピールしてるんだから相当変哲だったろ……それしか知らない。もっと身近にいる変哲な奴の方が分かりやすいかな。

 クラスメイトの夏帆ちゃんとかはいつも蟻の巣が入っているゲージを学校に持ってきて眺めている。前に「それ面白いの?」って尋ねたら、「ならあんたがいつも書いてるポエムって面白い?」って聞き返された。その瞬間、恥ずかしくなって教室を飛び出した。まぁ授業が始まったら帰るんだけど。

 淳二くんはいつも右腕に包帯を巻いてる。手の傷が痛そうだったから「保健室に行った方がいいんじゃない?」って聞いたら、「下界の者が安易と触れるでない。触れればお前も混沌に飲まれるぞ」と言われた。でも体育の授業で触ったことあったんだけどね。

 2人とも私からしたら変哲な奴だ。でもそれは私の見解であって、他の趣味や専門的知識がある人からしたら2人は普通と言われるかもしれない。

 他の人からしたら私も変哲なのかな。


「そんな風に考えたんだけど、どう思う?」

「うーーーん。つまりアオハルかな」

「えっ?どういうこと?」

「いつもは触れさせてもらえない彼の手を触れたことで始まる恋……!徐々に厨二という病から脱皮していく彼にときめく紗世!」

 今話している彼女はクラスメイトの祐奈。相当なラブコメを読み漁っており、よく相談事をするが、すぐに恋愛話に発展させる。これも変哲だ。公園のベンチに座って話している私達をあくびをしながら見つめる黒猫。自分も猫に釣られたのか、それとも祐奈の返答に呆れたのか、あくびをする。前回、相談事をした際、「私の話をちゃんと聞いてほしい」と言ってみたことがある。祐奈の返答は「ならあたしのラブコメの感想も真剣に聞いてよ」だった。飽きるほどラブコメの話を聞かされていつも疲れているのでもうこりごりだ。


 2人で話した後、いつものように各々の道に別れて家に向かっていた。

「皆さーん!集まってくださーい!」

 帰路の途中、町内会の人が炊き出しを行っているところを見かけた。ご飯を配っているのは町内会に入っている喫茶店のお姉さん。店にはよく家族で行っている。お姉さんの前には錆色や鼠色の服を来たホームレスの人が数十人も並んでおり、お姉さんからご飯をもらっている。その様子を立ち止まって観察しているとお姉さんと目が合い、軽くお辞儀する。今までも何回か下校中に炊き出しの様子を見たことがあったが、今日は違和感があった。

(列に小学生くらいの子が並んでる?)

 このホームレス達が並んでいる列に場違いな背の低さの子供が並んでいて目を疑った。間違って並んだんじゃないかと思い、ご飯を受け取るのかを確認するまで炊き出しを見ることにした。ついに少年の順番まで周り、お姉さんと軽く話した後、炊き出しのご飯を受け取っていく少年の姿を見た。振り返った少年の顔はどこかに消えてしまいそうな憂鬱な表情で、人形のように白い肌だった。最後まで炊き出しを観察してから喫茶店のお姉さんに話しかけにいった。

「お姉さんこんにちは」

「あら、紗世ちゃん。こんな時間までいたの?お母さん大丈夫?」

「よく門限破ってるのでこれぐらい大丈夫です」

「悪い子ねぇ〜。で、ここまでいてくれたけど何かお姉さんに聞きたいことでもあったの?」

「さっきの列に小学生くらいの子供がいましたよね。あの子ってどこかのホームレスのお子さんなんですか?」

 質問すると、言いづらそうに一瞬私から目線を逸らして思いつめた表情になるお姉さん。

「あの子ね。私もそうなのかなって思って、親が誰かを聞こうと思ったのだけれど、『探さないでくれ』って言われちゃってまだ聞けてないの。あの子のこと知ってる?」

「知らないです。遠くから見てて炊き出しに子供がいるのおかしいなって思ったんで聞きました」

 私がそう言うと、残念そうに肩を落とすお姉さん。あの子を知らないのは事実だけど申し訳なくなってくる。

「ありがとう。あの子はまた後日私が直接聞いて、ご両親探してみるから紗世ちゃんは安心して」

 お姉さんは私がこの件に関して気にしないようにしている。しかし、家に帰ってもあの儚い目をした少年の顔が忘れられなかった。

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