setteiの墓場

岡野まぐろ

もしも異世界人が転移してきたら……(狂盗市の場合) 1319字

 ここは地球。っぽい星、恥丘。

 恥丘では最近異世界から転移してきた異世界人が独自のコミュニティを築きあげ地方都市を侵食しようとしていた。

 若き愛国の青年・国士愛徒こくし あいとが住む狂盗くるっとる市もまた異世界人の増加に悩まされていた。

 異世界人は土地の習俗に馴染もうとせず異世界の文化を決して捨てなかった。

 異世界人は容姿体格に優れ高度な知識を併せ持つ好戦的な種族だ。

 恥丘人のメスは牧歌的な恥丘人よりも異世界人との交配を望み愛徒の元を去った恋人もそのうちの1人だった。

 異世界人は次第に数を増やし労働を始め土地を取得して狂盗市を住み慣れた異世界に似せてテラフォーミングする計画を実行に移そうとしていた。

 狂盗市の現状に危機感を抱いた愛徒はネット上に情報を拡散し恥丘人から広く同志を募った。

 そして集った数人の仲間と共に愛徒は自警団を組織し狂盗市の夜警を開始する。

 時を同じくして異世界人は恥丘の各国首脳と密談し技術と情報を供する見返りに恥丘での永住権を手に入れようとしていた。

 その後狂盗市は政府保護直下の異世界人特別区に指定され愛徒達の夜警は反乱行為であると異世界人側市民から誹られ始める。

 異世界人に故郷を奪われ追い詰められた愛徒は異世界人コミュニティに単身乗り込み異世界人の指導者との会談を求めるが警察に阻止され逮捕されてしまう。

 全てを失い悲嘆に暮れる愛徒。

 失意の愛徒が留置場の房で偶然出会ったのは一見恥丘人と見紛う異世界人の少女・ミンナであった。

 純異世界人2世のミンナは異世界人の習俗に染まる事ができず恥丘文化に傾倒したのを異端と見倣されコミュニティから追放されたのだ。

 愛徒は初めミンナへの憎悪を剥き出しにするが会話を続けるうちにミンナが他の異世界人とは違う事に気付いて警戒を解き心を許し始める。

 ミンナが愛徒に語る異世界人の歴史。

 それは異世界人は元いた世界では弱き民であり故郷を追われて恥丘に辿り着いたというのだ。

 弱き者が新天地で強くあろうと励んだ結果が先住の民を虐げ追い出す歴史の再生産であるとミンナは愛徒に哀しげに語った。

 ミンナが恥丘の習俗に染まったのは己の属す異世界人の行いを恥じ先住の民恥丘人に溶け込み恥丘人として生きて死にたかったからと。

 ミンナと心を通わせた愛徒は服役後自ら作った自警団を解散し一狂盗市民として生きて行く決意を固める。

 異世界人が舵を握り急速に発展を遂げ田園風景が近未来都市へと変貌していく狂盗市。

 その変化に心を掻き乱されながらも愛徒は異世界人が主導する新事業の末端として働き始める。

 愛徒の所属企業の異世界人CEOの隣には愛徒のかつての恋人の姿があったがその瞳が愛徒を捉える事は二度と無かった。

 一日の労働を終えた愛徒は新型路面電車の座席に疲れた体を沈ませる。

 愛徒は考える──異世界人が転移してきてからこの星に何か変化はあったのか?

 ──いいや結局のところ支配種が異世界人に取って代わっただけで何も変わらない──多少飯が美味くなり給料が若干上がっただけだ。

 愛徒が帰宅するとおかえりと迎えたのはエプロン姿ではにかむミンナだった。

 ミンナと指を絡ませて愛徒は眠りに就く。

 明日も今日と同じ日常が続いていく。

 過去にはもう戻れない。

 それでも俺達はこの町で生きて行く。

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