第四十三話 奇襲計画



 魔族の露店が多く立ち並んでいた大通りを進み、中心部分に近付いた頃、俺の前に二つ目の城壁が現れた。一つ目の――“ゼルトザーム”の外側にある城壁よりは小さいが、そこそこ立派な城壁だ。

 なんとなく予想していたが、“ゼルトザーム”は平民と貴族の居住区を城壁で隔てられているようだ。

 

 ……ただ、意外にもここを警備している魔族はまったく居なかった。それどころか城壁魔門も開けっ放しにされている。魔族にとっては、平民とか貴族を隔てる壁に必要性を感じていないのかもしれない。

 

 門をくぐると、平民の居住区とは打って変わって、いかにも貴族が住んでいそうな豪邸ばかりが建っていた。いわゆる貴族街というやつだろう。


 貴族街にあるヨーロッパ風の豪邸はどれも非常に美しく、見ていて飽きないもので、観賞したかったが……。今、わざわざ時間を割いてやることでもなかった。一目見れただけで、満足しておくべきだろう。

 俺は後ろ髪を引かれながらも貴族街を通り抜けた。



 

  

 寄り道をしなかった俺は、夕方になるまでにゼルトザーム城に辿り着いた。ゼルトザーム城の庭園の木にひとまず隠れ、見上げるようにして城を睨み付ける。


 ここに、玲瓏れいろうのカエルレウムがいる。

 

 俺は、そっと音をなるべく立てないように気をつけながら、唾を飲み込んだ。やはり緊張する。魔将とかを相手にするのとは違い、覚悟がいるからだ。出来れば、戦闘前にカエルレウムに気付かれることなく、姿を一目見ておきたい。どう考えても勝てそうにないなら、俺は逃げる。


 …………逃走ルートも今から確認しておくか。



 

 

 今の自分の力と四天王の力、どちらが上回っているのかは……正直分からない。はっきり自分の方が強いとは言い切れないのだ。予想では同じぐらい……だと思っているが、どうにも不安になる。

 もちろん、俺は正面から戦いに行く気はさらさら無い。少しでも有利な条件で戦闘を始める為に、俺は奇襲するつもりでいる。

 

 奇襲は、村にいた頃に魔物によくやっていたので、俺は経験者なのだ。

 当たり前かもしれないが、経験上――奇襲は相手が油断してくれる程良い。

 俺のオススメは相手が寝ている時である。前世でも、暗殺は大抵寝ている時に行う、と相場は決まっていた。

 魔物が睡眠をとっている時を狙って、奇襲を仕掛けた時は高確率で成功したので確定だ。


 魔族が睡眠が必要なのかどうかも街の通りで、転がって昼寝している奴も何匹かいたので、魔族に睡眠が必要なのはまず間違いない。

  

 カエルレウムが昼寝でもしてくれれば助かるんだが……まぁ夜まで待つ必要がある。

 ――日が暮れるまでに準備を済ませて、夜寝てる時に始末することになりそうだ。

  

 さて――とりあえず城の端の方から侵入して、城にいる魔族の話でも、盗み聞きすることから始めよう。  

 最低限の目標は、カエルレウムを一目見ることと、使っている部屋を知ることだ。

 俺は、村の近くの森で気配を消して狩りをしていた時のことを思い出しながら、気配を消して、今まで以上に慎重になりながら、ゼルトザーム城へと入った。


 


―――――――――――――――――――― 



 

 悲しいことに――

  

 


 他の準備は完了したが、肝心のカエルレウムを寝室で奇襲を掛けるのはリスクが高いと分かったのだ。 


 

 

 

 城の中は魔将だらけで、一般兵の魔族はほぼ居なかった。そんな中、魔将四匹が集まって大量の死体を持ち運んでいたので、盗み聞きしたところ、計画を揺るがす、とんでもないことが分かったのだ。


 その話は――四匹の内の、豹のような雌の魔将が他の魔将に尋ねたことで、始まった。

 

「私、丁度寝てたんだけど、この沢山の人間死体って、昨日の夜に侵入した人間のものらしいけど、強かったの?」

 

「……かなり、な。だが、カエルレウム様のお手を患わせる必要もない。我々魔将で充分対応出来た」


「なんか、帝国の伝説的な暗殺組織だったらしいぞコイツら。帝国繁栄の邪魔になる人間を影ながら消してきたとかなんとか。拷問しても、中々口を割らなくて大変だったって聞いた」


「伝説の暗殺組織か。納得だ。

 まさか……土魔法で地中を掘り進んで、城の真下まで侵入するとはなぁ。地中にいた魔族の兵士が少なかったといえ、応援を呼ぶ間もなく、消されていたらしいし、人間も偶には強い個体がいるもんだ」


 他三匹の魔将は、豹の魔将にそれぞれ返答し、その後も話は続いた。


 そして――――

  

「あぁそういえば、拷問で吐いた情報によると、カエルレウム様を寝室で暗殺しようとしていたらしいぞ」


「……おっかないことするわね。そんなことをしても意味ないのに……怒りを買うだけよ」

 

「本当に哀れな奴等だ。カエルレウム様の用心深さを知らないとは、な」


「……恐ろしく強い上に用心深い――人間はなんで降伏しないんだろうな。勝ち目なんて無いだろ。馬鹿なのか?」


「まったくだ。聞くところによると……カエルレウム様は、寝室でも気を抜かないらしい。武器を握ったまま寝たり、寝室自体に何らかの魔法を仕掛けていると聞くしな」


 暗殺者が寝室で暗殺を試みていたことを話した情報通っぽい魔将が、カエルレウムの寝室の噂について言及。それを聞いた他の三匹も苦笑した。


 ……これを聞いて、俺は寝ている時に攻撃するのを止めた。 


 なんだよ……武器を持って寝てるって。しかもトラップみたいなのを仕掛けているとか。駄目じゃん。……寝室は罠だ。


 計画がボツになった俺は困り果て――――もはやヤケクソ気味に城のを見つけ。そこで暗殺することに決めた。

 

 ……正直、そこは、攻撃を仕掛けてはいけないタブーな場所だとは思うが、まぁ名声を求めている訳でも、真剣勝負がしたい訳でもない、と俺は自分を説得した。


 こんな場所で攻撃したのは、未だかつて恐竜ぐらいしかやったのはいないのではないだろうか。

 

 戦いは相手の嫌がることをするのがいいって聞くが――その条件には思いっきり適していると思う。少なくとも、俺はこの場所で攻撃されたら、嫌だし。対応出来るか分からない。



 




 

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