第23話

 若者は王城から自分の屋敷へ戻ってくると小さな離れに居を移されていた。

 王家を侮辱した罪で国外追放となったのだ。翌日には小さなカバン一つ持たされ家に迎えに来た小さな馬車に乗るように促される。両親も弟も見送りはない。


 国外追放になると飯は出されず馬車で寝泊まりし弱った体になった頃国境が曖昧な森や砂漠に捨てられることになっていると聞いた。若者はこんなカバンも役にたたないのだろうなと思った。


 しかし、一日目の夕方に降ろされたのは小さいながらに宿屋だった。護送官と縄で繋がれることもなく、簡素ではあるが飯も出され、水浴びもでき、護送官と同部屋だがベッドで寝た。


 それが四日目になると自分だけが馬車の中でのんびりしていることに罪悪感を覚え、護送官と馭者を代わることを提案した。護送官は罪人であるはずの若者を疑うことなく、『ありがたいよ』と言って馭者台を若者に任せた。


 八日目に着いた国境の街はとても大きくて、国境の門を越えた隣国の街もとても大きかった。ここに置き去りにされても仕事に困ることはないのではないかと、若者は国外追放という自分の罰に疑問を持った。しかし、護送官は目的地はまだ二十日ほどかかると言う。


『そうか。国外追放とはいえ国境付近で僕の遺体を見られるわけにはいかないのだろう』


 若者は語学がとても達者で国境を越えた街でも不便は感じなかった。


 そして、この街からまた護送官が変わった。国が変わったためだろうと若者は考えた。

 前任者から若者の話を聞いていたらしく、馭者台交代はすぐに了承してもらえた。


 野宿の時もあった。護送官が寝ずの番をする。


『とても申し訳ないが、僕が馬車ごと逃げることを考えたら寝るわけにはいかないのだろう。僕はちゃんと寝て明日の馭者は受け持とう』


 翌日に護送官を馬車で寝かせ若者は馭者台に座る。男二人のなんとも快適な旅となった。


 馭者を若者と護送官とで交代しながらの旅であったため護送官のいう目的地まで十六日で到着した。


「ここだ」


 護送官に促されて若者が馬車から降りた場所は小さな村の簡素だがこの村一番だと思われる建物の前だった。


「今日中に宿のある街まで帰りたいからワシはもう行く。馭者を交代してくれたおかげで帰りはのんびり進められるよ。体に気をつけてな」


 馬車が出立すると同時に建物の扉が開いた。


「おお! お前さんがセナかっ! バーノンから聞いているよ。随分と早い到着だなぁ。これからよろしくな」


「バーノン?」


「そうか、名前じゃわからんか。バーノン・ベイドルン侯爵。ここベイドルン侯爵領のご領主様だ。俺はこの村の管理を任されているモナタス。って言っても何もできないんだけどな。ガハハハ!」


「セイ……セナです」


 先程モナタスに呼ぼれた名前を言った。護送官たちにもそう呼ばれていたのですぐに返事ができた。


「バーノンからセナは優秀だから書類仕事を任せても大丈夫だって言われている。あ、俺はバーノンと友達だから、領主様だけど名前呼びを許されているんだ。お前さんは、侯爵様と呼ぶんだぞ」


「はい」


「准男爵の子息にしては丁寧だし礼儀も弁えていそうだな。俺より元貴族らしいや。俺も昔は子爵子息だったけど今はただのモナタスだ」


 准男爵は数が多すぎて氏を言ってもわからないので、モナタスはわざわざ聞いてこない。准男爵の次男三男ともなれば家を出て当然であり、村の文官や町の憲兵になることがほとんどだ。つまりは、幼少期に少しばかり勉強する機会が貰える平民という扱いである。


「はい。モナタスさん。ご指導よろしくお願いします」


「ガハハハ! ご指導はできねぇが案内ならしてやれる。今日のところは仕事場とお前さんの部屋の案内だな」


 若者が降り立ったこの建物はこの小さな村の役所であった。

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