第6話

 サジルスの婚約者ケイトリア――婚約破棄予定だがまだ成立していない――が追随する。


「下位貴族のご令息様に、ご自分たちの食事の後片付けをさせることもできますわよ。ふんぞり返って食事の準備も後片付けもお茶の支度もさせていることは有名ですわ」


 ここは学園の食堂であり、人数も座席数も物凄い数である。なので、自分の食事は自分でテーブルに運び、食事の後はそこここにある返却カウンターに置くことになっている。返却カウンターの脇には茶器とワゴンが用意されており自分たちのテーブルまでワゴンで茶器を持ってきて自分たちでお茶を淹れる。

 メイドたちは生徒が離れた後のテーブル拭きや返却カウンターの食器を台所へ運ぶなどをしている。


 現に、ケイトリアたちは着席したエトリアにお茶を淹れている。それはエトリアが王女だからではなく、セイバーナたちと相対したことへの労いの気持ちからである。エトリアも時にはみなにお茶を淹れている。


 サジルスは公爵子息であることを笠に着て下位貴族令息たちに給仕をさせていた。レボールもテリワドもそれを受け入れている。

 サジルスも公爵家をひけらかすようになったのは二年生になってからである。


 サジルスは嫌味を言われたことが納得いかないと頬をピクピクさせる。


「「「何度もご注意申し上げましたのにねぇ」」」


 ヘレナたちは声を揃えた。


 離れたテーブルに座る生徒たちや人垣を作って様子を窺っている生徒たちから男子生徒たちへ失笑が漏れた。後方の人垣から黄色い笑い声も聞こえた。その人垣はほぼ女子生徒で、後程八つ当たりをされたくない男子生徒たちは近寄ってこない。 


 エトリアは優しく微笑む。


「ええ。みなさんでこちらへいらしたのですもの。そちらの五・に・んの総意だと認識しておりますわ。皆様の陳情。お聞きしましょう」


 優しく微笑んだエトリアの視線は男子生徒四人の後ろにいる小柄で華奢で金色の瞳を怯えて潤ませ水色の髪を揺らしている女子生徒へ向けられた。


「それで? ヨネタス卿。二つ目の願いとは何かしら?」


「それは……」

「言わないでっ!」


 水色の髪の少女がセイバーナの袖を引いて叫ぶ。


「言いなさい」


 エトリアが静かに威圧した。笑顔に潜む迫力はさすが王族と言わざるを得ない。


「はい。リリアーヌ嬢を虐めるのを止めていただきたいのです」


 水色の髪の少女は膝から落ちた。この少女が五人目の者である。


「リリアーヌさん? とは、どなたのことかしら?」


 エトリアは同席のヘレナたちに聞いた。ヘレナたちは知らないと首を振る。


「ヨネタス卿。どなたのことを仰っているのかわからないわ」


「あの……。この子です。こちらにいらっしゃる皆様に悪質な虐めを受けていると……」


 セイバーナは自分の足元に蹲る少女を示した。


「それなのに……それなのになぜ、エトリア王女殿下方はリリアーヌをご存知ないのですか?」


 セイバーナは不安で泣きそうになっていた。


「なぜと言われても……。ねぇ?」


 エトリアがヘレナたちに確認すれば三人は大きく頷いた。


 エトリアは立ち上がる。アロンドはもちろんタイミングよく椅子を引く。エトリアがこれでもかと目を細めた。


「わたくしたちが虐め? 本気で仰っているのかしら?」


 男子生徒四人は震えあがった。


「ホヤタル卿。証人は?」


「っ!! おりま……せん」


 レボールは口をパクパクさせた後ゴクリと唾を飲み込み、エトリアの問に答えた。


「オキソン卿。証拠は?」


 テリワドは頭を抱えて下を向いたまま答える。


「あ、あ、あ、ありりりませせせん」


「ツワトナ卿。わたくしたちは何をしたのかしら?」


 サジルスは首を左右にぷるぷると振った。


「何もしておりまっせんっ!」


 エトリアは『五人からの陳情だと受け取る』と宣言している。だから男たち三人にも質問したのだが、返ってきた答えはお粗末なものだった。

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