信念の飛翔、アイドレ

『背面部パーツ、パージします』


「おおお前何つったぁ?!」


 ルプスの声に続き、ルプスの乗っているユニットコンテナの背面部のパーツが、装甲共々丸々剥がれ落ちる。


 ———もちろん、ルプスは風に晒されることになるのだが。


「おいこれぇっ?! どうなってんだよ、大丈夫なのか、イド!」


『大丈夫です。私が保証させていただきます。

 ———何せ、機械は裏切らないものですから。






 ……フテラモジュール、魔力同調開始。アイドレ、フテラ、指揮権を私に譲渡』


『ルプス! ちょっと大変かもだけど、今は僕を信じてほしいんだ、お願いだから!』


「ああそうさ、言われなくてもわかってる!……承認だ、行くぞっ!」


『えっ———本当かいっ?!』




 背面のスラスターを失い、ただ落ちゆくのみになったアイドレ。

 しかしそれを追う、1つの機影があった。


『双方座標定義。アイドレの位置調整は不可能なため、フテラモジュールの調整によるドッキングプランへ変更。


 新装備追加……オペレーティング・システムの調整を行います』


 イドの言葉と共に、より明るくなるアイドレ内部。

 正面のディスプレイには、それはもう、100を超える数の無数のウィンドウが湧き出続けていた。


「———っ、いつ終わる?! いつまで俺は、この風に晒され続ければいい?!」


『わかんない!……けど、僕は———それでも、必ず迎えに行くっ!


 だから———待ってて、ルプスッ!』



「……っ」


 魔女の声を聞くと共に、ルプスはその腿に握り拳を作る。


 ———だがしかし、どうもそれは怒りの意味ではない。もっと込み上げた、何か別の感情によるものだった。



「ああ……分かった。

 信じてやるぞ、だから早くしろよ、わがままさんよっ!」


『…………っ、ああ!

 言われなくても、すぐにそこに行ってやるさ、ルプスッ!』


 空中にて相見える2機。

 フテラはその機首を開き、そこからは、魔女の白い髪が風に流れ続けていた。


『バーニア再噴射、相対速度計算……完了。

 今です、ルプス様』


「ああ———エンゲージッ!」

『エンゲージィッ!』



 そのまま、フテラの機首は、アイドレのユニットコンテナに接続され———、



 A.utonomous

 A.irframe

 C.ontrol-and

 I.ndirect-thought

 C.ontrol-integration



      +F. T. E. R. A.

 

 Operating

 System


『アタッチメントモジュール、フテラ、調整終了。OS同調、魔力機関……拒絶反応微弱。許容範囲です。


 フテラ・アイドレ、出れます』


 画面に表示されたのは、その『フテラ』と称された、アイドレのバックパックと……それに関するコマンドの一覧だった。



「っ!」


 しかし、もう真下には地面が。


『ルプスッ!』


「———っ!」


 そう、合体したのは、フテラモジュールの機首とユニットコンテナ。

 その機首に乗っていたのは、


「……来たか、魔女……っ!」


「……っあ、ああ! キミのためにわざわざ来てやったさ!


 そろそろ、キミが死にそうで、泣きべそでもかいてるかと思ってねっ!


 どうだい? やっぱり僕がいないと、しっくりこな———」


「そうだな。やっぱりお前がいないとしっくりこない。……俺には、お前みたいな奴が必要だったのかもしれない、って思ってな。


 さて、行くぞ———フテラ・アイドレェッ!」


「……ルプス……」



 ルプスは操縦桿に取り付けられているボタンを素早く押し、そのコマンドを入力する。

 ルプスが初めに入力した一連のコマンドは、フテラモジュール起動のものだった。



「ようやく、満足に飛べるな、アイドレ———っ、


 ———飛べよぉぉぉぉおおおおおっ!!!!」



『飛翔滑走翼、展開します』


 その叫びと共に、満を辞してその赤き翼は開かれた。


「ぃいっけぇぇえええっ、アイドレェェエエエエッ!!!!」


 魔女の雄叫びと共に、アイドレは再度空中へと舞い上がる———。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る