要望

「……まあいい。2つ目だ。

 この機体……アイドレを修理しろ。燃料も積んで、いつでも発進できる状態にしてほしい」


『もしあたしたちが、その機体に細工を施したら———』

「お前を殺す」



 ……即答だった。




『……いい返事ね、続けましょう。

 次の要望は何?』


「お前らの所属と、ここがどこなのかも教えろ。そして、あそこで何をしたのかも全て吐け」


『所属は……スルーズ。貴方が何者なのかは知らないけれど、あたしたちは言われた通りに明かしておくわ』



「スッ……スルーズ……やはりか……っ!


 つまりお前は、スルーズの部隊……サレード隊の3番隊長、S-3、アーデルハイト……そう言いたいわけか!」


 言動と言い、その手に作った握り拳といい、その存在はルプスにでも分かるほどに強大なものだったらしい。


『ええ、そうよ。御名答。

 言わなくても分かると思うけど、ここはスルーズ領の一角、ミュンスター』


『ミュンスター……西大陸北部に存在する街です。3年前に襲撃が起き、それ以降のデータはありません』


「……っ、要望の4つ目だ。


 この俺を……アイドレから降ろさないでほしい」


 その質問に対し、アーデルハイトは疑問を示す。


『そんなに、その子のことが大切なの?』


「ああ大切だ。まるで自分のことのように大切だ」


 ———自分のことだった。


『そう、なら分かったわ。つまり貴方は、そこにいながら、あたしたちと会話を交わす、と。そういうことでいいわね?』


「ああ。


 ……最後の要望だ。1日3回、ここにいる人間が生活できる量の食料を補給しろ。……最低限で構わない」


『ええ。


 ……それだけ?』


「それだけだ」


 ———その要望は、とても敵を人質にとっているとは思えないほどに、最低限のものでしかなかった。


『じゃあ、こちらから1つ……質問、いいかしら』


「……」


 ———沈黙は肯定の意と見做す。アーデルハイトの個人的な信条だった。


『貴方たち、所属は何? その……アイドレ?……は、一体どこの機体なの?』


「所属はない。独立傭兵だ。

 アイドレは……魔術世界から拝借させてもらった」


『へえ、魔術世界から』


「拝借、の意味は、言わなくとも分かろう」


 アーデルハイトは興味深そうに、頬に手を当てながら不敵ににやけた。






『……そう言えば貴方———、






 ?』




 その言葉に、ルプスは一瞬にして反応し。

 しかして、反応したその時、既に決着はついていたように思われる。


「っ!」


 いつの間にか、接近されていたのか分からない。


 ルプスは珍しく、完全な不意を突かれた。


 ———それこそ、まさにでも使ったかのように。



「ごっ……はっ……!!」


『あら……ごめんなさい、ついうっかり、』


 ルプスが見下げたその腹には、確実に……布を纏った女の膝が。


『腕が……滑ってっ!』


 腹に最大級の肘打ちを喰らったルプスが動けるはずもなく。

 そのまま、女の———アーデルハイトの一撃に、なす術もなく敗北してしまった。





『仲間はちゃんと、返してもらうわよ。


 ……でも貴方……どこかで見たことがあると思ったら……







 やっぱり出稼ぎに来てたのね———ルプス』



 女は、ルプスとどうやら旧知の仲らしかった。……それが唯一の、不幸中の幸いと言えるものだろうか。

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