完結話:「―装脚機の淡々―」

「……け゜ぁっ……!?こ゜かぁ……っ!?」


 王城の正面城門の向こう、その地上地面の一点に。

 総指揮官用の座席より叩き転がり落され、おかしな悲鳴を漏らしてウネウネと藻掻き転げる、魔帝軍総指揮官の上級魔族の体があった。

 手足は壊れた人形のようにすべてが在ってはならない方向へ捩じれ、その強靭な肉体はしかしそこかしこが砕け、多数の骨が折れ砕け、内臓破裂も引き起こしている。

 上級魔族はその亜人魔族の強靭な肉体の影響で、装脚機の衝突を受けても奇跡的に生きながらえ――いや、即死する事ができなかったのだ。


「……ァ……ぁ……!?」


 しかし、どれだけ強靭な精神力なのか。上級魔族はそれでも藻掻き足掻く事を止めず、その視線を動かして闇魔竜の方向をまず見る。

 そしてその眼に映ったのは。

 その何者をも退けるはずの皮膚に、胴にしかし大穴を開けて。地面に沈み絶えた闇魔竜の慣れ果て。

 そしてその上でそれを踏みつけ、まさに勝者として君臨する。正体不明の鋼鉄の怪物の巨体であった。


「かぁ……ァ……!」


 見えた光景にその内心で驚愕しつつも、しかし上級魔族は未だに足掻く事を諦めない。

 そして視線を動かしその眼に捉えるは。眼前の少し先で、突然の事態に驚き困惑し、その体を寄せ合う少年王とエルフの少女達。

 そうだ、三人を捕まえ肉の盾として、正体不明の敵等の行動を封じるのだ。

 そう企み。上級魔族はその三人の体をまず手中に確保すべく。藻掻き這い進むための一腕を、伸ばそうとした――


 ――しかし。唐突に響き上がった無数の破裂音が。そして合わせ、上級魔族の体を襲った衝撃と痛覚が、それを阻み叶わぬものと終わらせた。


「ぁ゜っ――」


 上級魔族のその大きな体に、胴に背に。そして後頭部、脳天に走り襲ったのは。その体に喰らいつき、そして貫く無数の打撃貫通の衝撃。

 そしてそれが、上級魔族がこの世で感じた最期の感覚となった。

 一瞬、その体をビクリと跳ね上げた上級魔族は、しかし次には糸の切れたように地面へと沈む。

 そして出来ていた、脳天後頭部を始め体中の穴――弾孔から、その血を噴き出し垂れ流し地面を汚す。

 目に見えての、死――この王都に魔の手を伸ばした、魔帝軍団総指揮官の上級魔族の最期であった――




「――決まりだ」


 その上級魔族の亡き果てた姿に。

 向こう頭上、少し離れた位置より、透る声でのそんな淡々とした一言が降り注ぐ。

 それは果てた闇魔竜の死体の上に君臨する、89AWVの機体砲塔上のコマンダーキューポラ上。

 そこに半身を這い出して、静かな眼で眼下を見降ろす。他ならぬ髄菩の、今は端麗ながらも愛らしい姿があった。

 その腕に構えられるは、その今の姿身体に似合わぬ物騒な得物――〝17式11.43mm機関けん銃〟。戦車や装甲車輛、そして装脚機に登場する隊員の自衛用に開発された、.45口径弾を用いる自衛用火器。

 今しがたに上級魔族を死へと追いやったのは、その17式機関けん銃による。それを用いての髄菩の手による射撃投射に他ならなかった。

 髄菩は外部の観察掌握のために砲塔上に出た直後に、眼下にその上級魔族の姿を。未だ足掻き、企み動く気配様子を見止め。

 その阻止。合わせて今作戦では、特別敵指揮官級の確保拘束は指示されていなかったことから。迷わず行われた投射行動であった。


「――降車、展開しろッ!」


 その直後に。髄菩のすぐ前眼下、操縦席後方にタンデムで並ぶ随伴搭乗隊員用のハッチから、随伴空挺チームの彗跡二尉が這い出し。命ずる声を張り上げると同時に、機体胴体を飛び降りて行く。


「行くっしょッ!」


 さらに機体後方よりも乗降扉が荒々しく開かれ。随伴搭乗していた奈織等が、飛び出す勢いで降車。周辺へ展開して確保すべく機体を降りて、さらには闇魔竜の巨大な亡骸の上を、駆け下り滑り降りて行く。


「――ミッションコンプリートだ」


 その様子光景を眼下に見て。

 そして同時に機体の足元で沈んだ、大穴を開けた闇魔竜の巨体をまた一目見降ろしてから。

 髄菩はまた淡々とした口調で、そう一言を発して見せた――




「……いったい……なにが……?」


 美麗な少年王と、その妻と義妹のエルフ少女達は。その体を寄せ合いながらも、状況を飲み込み切れずに困惑していた。

 抗える者など居ないはずの闇魔竜が、しかし向こうで果て沈み。眼前では恐ろしい上級魔族の総指揮官が、無残な姿で絶え転がっている。そして周囲では、帝国兵の残兵達が大混乱に陥っているではないか。


 そして何より、それ等を成し遂げて見せた正体不明の鋼鉄の怪物の存在。


 怒涛の状況の変化に、その思考が追い付かないのも無理は無かった。


「――ほいっ、ゴメンっしょっ!」


 しかし唐突に。

 半ば茫然としていた少年王が、背後より柔らかくも強引に押し倒されたのはその時であった。


「ひわっ!?」


 唐突のそれに、少年王はその美麗な美少年顔に似合ってしまっている、可愛らしい悲鳴を上げてしまい。そして地面に伏せさせられる。


「え!きゃッ!?」

「ひぁっ!?」


 そして夫の、義兄の姿と声に一瞬驚いた二人のエルフ少女も。次には同じように柔らかく押し倒され、そして驚きの声を上げると共に地面に伏せさせられた。


「な、なに……っ!?」


 慌て驚きながらも、状況を把握しようとする少年王。

 気付けば彼の体には、なにか重みのある衣服上衣の被せられた感覚が在り。そしてそれを挟んで何者かが覆いかぶさっている。


 ――それこそ、少年に覆いかぶさり庇う形態を取った。空挺隊員の奈織であった。


「少し我慢をっ!」


 他には彗跡二尉と、選抜射手の切れ者な容姿の一等陸士が。同じくエルフの少女達を伏せさせつつ、その前に横にそれぞれの配置で展開していた。

 奈織は少年王達の元へと駆け寄りその身柄を確保。安全のために伏せさせたうえで、防弾チョッキをその体に被せ、そして自らの身で庇いつつカバー行動を取ったのだ。


「お嬢ちゃん、ちっと我慢してねーっ!」


 奈織は、自身の身体の下に挟んだ少年王に。しかしそんな一言を降ろす。


「お、お嬢ちゃん……?わっ!?」


 その呼び名に。合わせて、防弾チョッキ越しにも消えずに伝わりくる、何か柔らかい物体の感覚――奈織の今は豊満な乳房のそれに、少年王は多分に困惑したが。

 直後にそれは、響き上がった破裂音に遮られた。


 奈織がその腕に構える20式5.56mm小銃 IARの射撃を、その役割に要求される〝制圧射撃〟を開始したのだ。

 困惑の渦中にあり、烏合の衆と成り果てて統率のない動きを見せる帝国兵達を。近場の目に付く端から狙い撃ち、またすかさず狙い撃ち。

 〝的確に狙う制圧射撃〟を、その確かな腕で実行して見せる奈織。


 さらに、少年王達の身柄を確保した奈織等の、若干離れた前方端では。

 機関銃手である稜透三曹が、遮蔽物にその担当火器の7.62mm機関銃 M240Gを三脚で据えて簡易な機関銃陣地となり。固まる帝国兵達に向けての掃射行動を開始。

 その猛々しい射撃音を上げて注がれる掃射に浚えられ、帝国兵達は片っ端から弾かれ沈んでいく姿見せた。


 彗跡二尉は、少年王達のお守を奈織と一等陸士に任せ。

 自らは前に出て、機関銃からは隙となっている別方へ配置しフォロー。愛用のカービンタイプの20式5.56mm小銃を構え、戦闘行動へと入る。


 そして選抜射手の一等陸士は、極めて冷静な様子で。

 構えた7.62mm狙撃銃 HK417を用い。脅威度の高いと判断される敵を見極め、残酷なまでの手際で一撃を叩き込んでいく。


「……ちょ、貴方……!いい加減にしてくださいましっ!この私を……!」


 その一等陸士の身体の下より、透る声でしかし不服そうな抗議の声が上がったのはその時。

 それは一等陸士の上体と片腕の下にされ、まるでクッションのように地面に敷かれる状態となっている第二王女のエルフの少女からのもの。

 戦闘下の安全上の措置ではあったのだが、少しプライドの高い嫌いのある第二王女には、その現状は大変不服なものであったのだ。


「――大人しくしていろ」

「!」


 しかし、その要求を向けた一等陸士から返ったのは。その今は端麗な女の姿へ性転換している彼女(彼)からの、尖り刺すまでの眼と一言。

 戦闘下の現状で。一等陸士にとっては危機回避と敵排除こそ最優先事項であり。そのためにはエルフの少女が自分の下敷きになっていようが、そしてその身分が第二王女であろうが知った事では無かった。

 一等陸士はその一言と視線で第二王女を人刺しすると、また照準行動に戻り。直後には狙撃銃からまた発砲音を響かせる。


「は……はぃ……♡」


 そんな刺すまでの一等陸士にそれに。

 第二王女たる己に、それまでは向けられることなど無かった類のそれに。彼女は心射抜かれ奪われ、一撃で堕とされてしまっていたのだが。

 それもまた別の話。



 それから。彗跡率いる空挺チームと、髄菩機の89AWVからの火力投射によって、正面城門周りの魔帝軍は順次排除され。

 さらには闇魔竜と上級魔族の総指揮官という、二つの大事な核を失った魔帝軍軍団は。見る見るうちにその勢い、抵抗の減少を見せ。

 そして突入して来た空挺団の中隊。さらには街の各所より、空挺団各隊や装脚機の応援も駆け付け合流し。


 正面城門の、魔帝軍の籠城陣地は完全に制圧。

 そして程なくして、王都全体は防衛隊の手により、完全に掌握された――




 王都上空を、轟音を轟かせて飛行隊が――戦闘機の二機編隊が飛び抜けて行く。

 王都奪還作戦の止めに到着した、航空防衛隊の第1航空団臨時隊のF-2ADV戦闘機であった。


「――」


 そのF-2ADV編隊の姿を。

 髄菩は89AWVの砲塔上で。今も美少女のものであり、軽量装甲戦闘服7-型に包まれるボディースーツ姿のワガママな身体を。魅せるように流して座りつつ、仰ぎ見ていた。


 髄菩機の89AWVは、沈んだ闇魔竜の巨体を背後に。

 現在は城門前の一角で待機状態に入り、その脚と主機を休めている。

 周辺では第1空挺団や合流した第54戦闘団主力の隊員等が、急かしく騒々しく、各作業行動のために動き回っている。


「髄菩。装脚機ってのは、難儀な立ち位置と役割だな」


 そんな髄菩へ、眼下足元より声が掛かる。

 声の主は機体の操縦手ハッチ上で、その今は悪魔娘っぽく変貌している姿を這い出して見せている、操縦手の藩童からのものだ。

 ちなみにその横には、機体胴体上に座って砲塔の正面装甲に背を預ける、薩来の姿もある。


「うん?」


 それに髄菩は、緩慢にその意図を尋ねる声を返す。


「特段堅牢さに優れるわけじゃない、飛んで舞って回れるわけでもない。だが今回のように、その両方を期待される時がある」


 淡々とだが、どこか気だるげな色を込めて言葉を寄こす。

 その藩童の視線が向く向こうでは、奮戦健闘の結果その役割を立派に果たしたが、代償として行動不可能に陥った、闘藤機の90MBWの姿が見え。

 到着した回収車や隊員等と一緒に、中隊長の闘藤等がその回収作業に難儀しつつも当たっている姿光景が見える。


 髄菩機98AWVの脚元では、応援に駆け付けた髄菩等の直接の上官等が。各種調節に、そして何より今回の被害を確認してのものだろう、顔を難しくしている様子も見える。

 今回は後方に回っていた、髄菩機89WAVの本来の機長であり髄菩の上長でもある三等陸曹。今はイケメン美女に性転換している隊員が、今後の処理調整の内容を言葉にして。

 それを聞いた白髪ロリータ幼女が、その大変に愛らしい顔に似合わぬゲンナリした顔を浮かべている。

 幼女の正体は、髄菩等の所属する装脚機隊の隊長であり、そしてやはり今のそれは男性より性転換した身であり。その正体は腹が出てハゲ散らかした、うだつの上がらないオッサンだ。

 最も、面影の欠片も無い美幼女へ性転換したと言うのになお、そのうだつの上がらなさは消え切らず。今は残念な美幼女っぷりを醸し出していたが。


 そんな見える各光景。

 おそらく藩童の言葉はそんな光景を、そして今回の作戦戦闘を顧みて。少しの複雑さを考えてしまった上のものなのだろう。


「――それだけの、可能性を有しているって事だ」


 しかし髄菩は。少し考えた後にそんな一言を返す。


「成し遂げられる可能性があるからこそ、機体を向けられる。そして――自分等は今回、それを成し遂げてやった」


 続け、そう紡ぐ髄菩。それに薩来と藩童は視線を上げて向ける。


「遠慮なく、誇ってやれ」


 そして、いつもの変わらぬ淡々とした皮肉気な口調に。しかしどこか自身を含めた、そんな声色の声で、一言を紡いで見せた。


「珍しいな、お前からそんな前向きな言葉が聞けるなんて」

「フフ――不気味」


 そんな髄菩の言葉に。しかし藩童はその悪魔娘顔を悪戯っぽく作って揶揄う声を返し。

 薩来は相変わらずの気味の悪い笑いでの一言を、ボソッと零し寄こす。


「放って置け」


 それに、またいつもの端的で投げる様な言葉で一言を返す髄菩。


「ともあれ。一つ、作戦完遂だ――――」


 そして髄菩は、そんな淡々ながらも確たる一言を。言葉にして紡いだ――――




――作戦完遂――




――――――――――


お疲れ様です。

ここまでのお付き合いありがとうございました。


当お話は、「オリキャラをTSさせてロボット歩行戦車に乗せて活躍させたい」。

という欲望が唐突に沸いて、衝動で始めたものでした。

当初の想定の倍かかったという計画性の無さ。本当に申し訳ない。


そして「弥栄堂」さんの「装脚戦車の憂鬱」に影響され、意識するどころかもうほぼモロパクリの域の代物となりました。あの空気演出をオリキャラにやらせたかったんです。

また、「リング・オブ・レッド」とかにも影響を多分に受けております。


飯つめて炊いて食ってたもし。



後は登場人物、メカ設定を上げて完結とします。


本当にありがとうございました。

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