第8話:「衝突」

 作戦調整を終えた後、髄菩等各員は各装脚機に戻り準備を開始した。


《――各機、確認するぞ》


 起動した各装脚機の機内に、中隊長の闘藤の美麗な声が響き届く。

 実行される事となった作戦はこうだ――


 空挺団第1普通科大隊主力と、そしてその援護に入る闘藤機の90MBWが。魔帝軍の闇魔竜を中心とする籠城陣地と正面から交戦、その注意を引く。

 その間に、髄菩機の89AWVと芹滝機の93AWVで編成される別動隊が、街の区画を迂回。王城を囲う城壁の内の、防御が薄く弱い場所を狙い突破。

 城壁内より闇魔竜の背後を突き、一撃を叩き込む。


 単純明快だが、その分接触する抵抗も多いプランだ。


《正面は当機に任せて置け。アンヴィルゲート、迂回路の突破口を抉じ開けてやってくれッ》

《アンヴィルゲート、了解ッ》


 闘藤からは自身の役割を担う心意気が。そして芹滝機に任せる言葉を続けて紡ぐ。

 芹滝機の93AWVは、迂回路を先行して突破口を開く役割を担当する。

 それを受け、芹滝から端的で明快な了解の返答が返る。


《そして、エンブリー。必殺の一撃を叩き込んでやれ》


 そして髄菩機に寄こされたのは、そんな言葉。

 髄菩機の89AWVは闇魔竜の背後を取って、その止めを刺す一撃を担う。そして89AWVにはそれに適した装備火器があった。


 ――13式150mm打撃貫通点火弾。


 89AWVの砲塔側面に装備される、79式対舟艇対戦車誘導弾の発射機。それを利用しての発射を可能とした、点火撃発式の特殊弾。


 これを叩き込む事が、89AWV。髄菩等の役割だ。


「――エンブリー、了」


 寄こされた任される言葉に、髄菩機の89AWVの機長席で、髄菩は端的に返す。


「貧乏クジを引かされたモンだ」


 そして答えた直後には、各計器類他の操作で調整準備を行いつつ。同時に当てられた任務役割をボヤき、淡々とそんな言葉を紡ぎ零した。


「――えーっ、主役に大抜擢じゃんよっ。《センター、髄菩ぴ》、的なっ?」


 そんな髄菩に、背後からおちゃらけた声が聞こえたのはその時だ。

 髄菩が背後をシート越しに見れば。その背後、89AWVの機体胴体後部に存在する、おせじにも広いとは言えない空間に。その空間と砲塔部との連絡口から姿を覗かせる、先程の金髪白ギャル空挺隊員の奈織が居た。


 89AWV及び派生の93AWVは歩兵戦闘車の流れを汲む装脚機であり。その機体には必要な操作搭乗員3名の他に、4名の随伴歩兵(普通科隊員)を搭乗させることが可能であった。

 内訳は、操縦手の背後にタンデムで1名。機体胴体後部の隊員用空間に3名が搭乗可能だ。


 そして、これよりの敵陣の突破無力化作戦に伴い。髄菩機と芹滝機にはそれぞれ随伴支援として、空挺団第1普通科大隊の第1普通科中隊よりピックアップされた、4名1組の普通科チームが搭乗随伴していたのだ。


 なんの因果か、奈織がその一名であった。

 奈織曰く「やっぱ運命っしょっ、アゲアゲ・タクティクス装脚栗毛!的な?」、だそうだ。

 語呂が悪いと思ったが、髄菩はそれを無視した。


 後部隊員用スペースにはさらにその奥には。同じく今先に会った奈織から「りょーちん」と呼ばれていた。本名は稜透りょうとうというらしい機関銃手の褐色美人三等陸曹と。

 さらに長めの黒髪ショートが似合う、静かでしかし尖る様相居ずまいの美少女。選抜射手の一等陸士が隊員用シートに座している。


「奈織陸士長、リラックスしてるのはいいが、あまりお気楽過ぎても困るぞ」


 その奈織に向けて、今度は反対の機体胴体前方側より声が上がり聞こえた。

 それは透き通る、人を魅了するまでの声。

 髄菩が振り向き見れば、砲塔の前方下側。今に説明した操縦席とタンデムの隊員用座席より。

 その顔を覗かせる、今の声の主である美少女の姿があった。


 鮮やかな青色みかかった、少し長めの綺麗な髪が映える17歳前後程の美少女。しかし纏う迷彩服3型改と記されるワッペンや階級章が、その美少女が空挺団の二等陸尉であることを示していた。


 美少女は奈織等の小隊の小隊長であり、今回にあっては髄菩機に随伴する4名チームのリーダーを。そして突入部隊の監督を務める立場存在の隊員であった。

 ちなみに、最早お約束だが。

 現在髄菩機に登場している計7名は、髄菩等はもちろん今の小隊長までが。狭い機内への登場の都合から、その全員が本来は男性である身体から女性へ性転換しており。

 機内は姦しいどころの騒ぎでは無い様相を彩っていた。


「心配ご無よーですから、〝すっきゅん〟二尉!むしろ臨戦態勢は万事オッケー完了済みっしょ!」


 その忠告の言葉を寄こした二尉に、しかし奈織は変わらぬ調子で。準備万端を示すサムズアップを《>▽<》な顔と一緒に寄こしてみせる。

 ちなみに〝すっきゅん〟とは、二尉の名字である彗跡すいせきを弄った愛称であった。


「くれぐれもすっ転んでくれるなよ――髄菩陸士長、騒がしいのがいてすまないが、よろしく頼む」


 そんな調子の奈織に、彗跡は重ねての忠告の言葉を飛ばし。そしてそこから視線を上げて、作戦を一緒にする髄菩にそう言葉を寄こした。


「気にはしてません。踏み込んだら、安全化の援護をお願いします」


 それに髄菩は変わらぬ調子で淡々と返し。突入後の連携に関わる部分を、任せ預ける言葉だけをかえす。


「任せてくれ」


 それに彗跡も、端的に任される返事を返す。


《――各機、空挺のほうは態勢整ったそうだ。開始する》


 そこへタイミングを計ったように寄こされたのは、中隊長闘藤からの指示命ずる通信。


「ホラ奈織、座席に着いていろ」

「うーいっ」


 それを受け、彗跡と奈織は一言を交わすと、それぞれが隊員用シートへと着席して行動開始に備える。


「――藩童、行くぞ」

《了》


 髄菩はペリスコープ越しに機体前方に、中隊長機と芹滝機が動き始めるのを見止め。自分等も行動を開始すべく、操縦手の藩童に告げる。

 それに藩童は呼応返答すると同時に、アクセルを踏み込み操作を開始。


 髄菩機の89AWVはエンジンの唸り声を上げ、作戦を完遂すべく行動を開始した。




 3機からなる装脚機隊は作戦行動を開始。

 コンバットタイヤの行う速く荒々しい装甲を、その武骨な装脚で受け止めながら、物々しく街並みを進め出した。


 街路を走り抜け区画を移り、隊は件の城門よりまっすぐ伸びる、街で一番大きな中央街路通りへと出る。


「――居おった」


 ペリスコープ越しにその向こうの城門に見えた〝もの〟に、髄菩は呆れにも近い色で一言を零す。

 そこに鎮座するは、件の闇魔竜の巨体であった。

 その闇魔竜の長く太い首が、もたげるように動いたのはその直後。そしてかっ開かれたその獰猛な口に何か黒光りする小さな点が見え――次にそれは、漆黒のレーザーとなって投射され襲い来た。


《ッ!》

「ッ」


 中隊長闘藤の鳴らした口音が無線に拾われ聞こえ、同じように髄菩も悪態の口を鳴らす。

 闇魔竜は傷ついている影響か、その狙いの正確性はすでに大分妖しいもののようで。闇のレーザーは装脚機縦隊を大きくはずれ、その斜め上方を掠め抜けて行った。

 しかしその延長線上にあった家屋が、その命中により損壊――いや、消滅。その攻撃がいかに恐るべき物なのかを、まざまざと見せた。


《ッ、とんでもないなッ》

「面白く無い冗談だ」


 今度は芹滝から驚きの含まれた声が通信に上がり。髄菩は独り言がてらの言葉を通信に上げて、それに片手間に応える。


「それで、闘藤三佐。プランはそのまま続行でいいんですね?」

《無論だッ!こちらは引き受ける、頼んだぞッ》

「了」


 続けて髄菩は一応の尋ねる言葉を闘藤に送る。それに闘藤からは肯定の言葉が返り、髄菩はそれにまた端的に了解する。


 その出来事ややり取りの間にも、装脚機隊は街の中央街路の一区画分を、その速度で早々に走破。

 そしてその先にあった十字路に到着すると同時に、先頭に位置していた闘藤機の90MBWのみが交差する道を越えてそこで停車。

 後続の芹滝機と、そして髄菩機にあっては。急カーブを切るに近い右折旋回動作で、交差する横道へと入り離脱。別動行動をへと入った。




「――よそ見をするなッ、貴様の相手はここだァーッ!」


 闇魔竜の首は、その分離した髄菩機等を追う様子を一瞬見せたが。それを阻むように闘藤は張り上げる。

 そして瞬間、90MBWの120mm滑腔砲が唸りを上げ。APFSDSが闇魔竜に撃ち込まれ、その首元で激突飛散。多大な破壊エネルギーを生み出した。


「――ッ、健在か……!」


 しかし、直後に見えたのは。健在の様子で蠢く闇魔竜であった。

 闇魔竜は生物としては驚異的なまでの堅牢な肉体を持ち、砲弾すらも防ぐであろう事は、闘藤等も事前に知らされてはいた。闇魔竜の翼を傷つけ飛行能力を奪ったのも、初手でヘリコプター隊が火力の分厚い集中投入を行い、なんとか成し遂げたものとの事だ。

 しかし知ってはいた物の、実際にその光景現象を目の当たりに。闘藤は思わず驚きを含んだ言葉を零してしまった。


「ふざけてるな……ッ」


 隣の砲主席からは、今は茶髪のナイスバディ女になっている砲手の二等陸曹が。その色っぽい声色でしかし驚愕の声を零し届ける。


「臆するなッ、空挺が支援を必要としている!再装填完了次第、第二射を実施ッ。操縦手、逐一の位置転換を忘れるな!」


 しかし闘藤は意識を通り直し、その美麗な声色で檄を飛ばす。

 90MBWが踏み込んで配置した十字路の一帯周辺では。装脚機の到着を待っていたのだろう、配置散開していた空挺団中隊の各員各所から、活動的な火力投射が始まっていた。


 各所に据えられ設置されている、MINIMI Mk.3やM240Gからなる機関銃陣地が火線を描き始め。

 対戦車班の携行無反動砲が90MBWに続いて弾頭を打ち出し、城門周りの敵陣地へと叩き込む。

 さらには。十字路一角の倒壊した家屋に押し込み掩体した、空挺特科大隊の〝98式105mmりゅう弾砲〟。L118 105mm榴弾砲やオート・メラーラMod56 105mm榴弾砲を参考に開発配備された、空挺砲であるこれが。直射を行い、90MBWの砲撃に続いて闇魔竜にりゅう弾を叩き込みそれを爆炎炸裂で包んだ。


「次弾装填完了、照準ヨシッ」

「撃ェァッ!!――」


 そして闘藤機の90MBWも、その最中で自動装填装置が次弾の再装填を完了。

 闘藤の合図の怒号で、砲手がトリガーを引く。二射目の咆哮を唸らせた――

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