戦いのあと①

ギィギャアァァ


また、あの声が聞こえてきたのだ。


しかも、複数の。


「……は?」


間抜けな声を出し、ぎこちなく音のする方角へと顔を向ける。


そこには壊れた街並みを更に踏み破るように近づく、5体のレプティリアンの姿があった。


「嘘でしょ」


ヒロカがこぼした声が静寂の中に響いた途端、再び町はパニックに襲われた。


1体倒すだけでもあれほどの犠牲と労力が必要だった。


5体を同時に相手にするなんて、どう考えたって無理だ……。


「ど、どうしよう」


周囲の混乱に感化されたようにアカネが不安そうな声で呟く。


でも俺だって、あいつが群れのモンスターだなんて思いもよらなかった。


状況的に、どう考えても勝てる見込みはない。

100% 町は壊滅、プレイヤーのほとんどは死ぬことになるだろう。


……それでも、やれることだけはやらなければいけない。


「せめて、他のプレイヤーが逃げる時間を稼ぐ」


気を持ち直した俺は、もう一度杖を握りしめ立ち上がった。


少しでもレプティリアンの侵攻を食い止めることが出来れば上出来。それ以上は望むまい。


「私も行く」


力強い声に振り返ると、駆け寄ったミドリコが俺を見上げる。


「ああ」


彼女がいれば、さっきの再現で1体くらいなら撃破できるかもしれない。


「玉砕覚悟だ」


そんな覚悟で、迫り来るレプティリアン達を仰ぎ見た時だった。


ズオォン


という鈍い爆発音とともに、1体のレプティリアンの頭部あたりから突如黒い煙が立ち上る。


「え?」


起こったことの意味が理解できず、呆けた声を出した俺の頭上を一つの人影が颯爽と横切っていった。


クダラノ内のモンスターを倒すには、弱点を探る必要がある。


考えを巡らせ、工夫をこらし、何度もチャレンジしてやっと1体のモンスターを討伐できる。


それは間違いでないし、実際 俺達もついさっき非常な苦労の末にレプティリアンを退しりぞけた。


けれど、実はもう一つ最も簡単な方法がある。


「遅れて悪かったなあ!」


青い空を背に急降下してくる、大剣を構えたがっしりとした筋肉質な体。


魔力を帯びたその攻撃は、振り下ろされたレプティリアンのひたいにいとも簡単に打ち破った。


間もなく漏れだす光と、霧散むさんする鱗。


シュヴァートは、弱体化など関係なく力のゴリ押しだけで敵を呆気なく撃破してしまった。


レプティリアンのレベルは48。それに対しシュヴァートのレベルは恐らく1000越え。


まあ、それは そうなるだろう。


それからの戦いは、鮮やかなものだった。


自分の体の2倍はある愛剣を振り回し、ひるがえす体で一撃ごとにレプティリアンを葬り去る。


時間にしたら、たった数分ほど。


あんなに俺達が苦戦した敵5体は、あっという間に葬られてしまった。


「これでもう終わりか?」


大剣を背中に担いだ鞘に納め、まさにヒーローであるシュヴァートは余裕の表情で地上へと降り立った。


「シュヴァートさん!」

「すごい、本物だ」

「昨日のトーナメント見ました」


その場に集まったプレイヤー達が、一斉に歓声をあげながらシュヴァートを取り囲む。


「助けてくれて、ありがとうございます!」

「来てくれなかったら、どうなっていたことか」


口々に皆がお礼を言う通り、実際あいつが救援に来てくれなかったら本当に詰みだった。


そこは素直に彼に感謝したのだが。


「まあ、これもランカーの義務の一つってやつよ」


得意そうに言われたそんな言葉に、俺はつい顔を引きつらせていた。


「義務?」

「アマテラスの奴がよく言ってるのさ。『強い者は、そうでない者を守る義務がある。それこそが本当の強者の証だ。』ってな」


それを聞いた人々からは感嘆の声が上がるが、ちょっと離れた場所で俺は居たたまれずに赤面した。


あんな小っ恥ずかしいセリフは黒歴史すぎる。


とはいえ、その言葉をトップランカーの皆は尊重して、時間のある時はこうしてパトロール的なことをしてくれている。


今回は過去の自分に救われた。と、思っておこう……。


「今日はアマテラス様はご一緒じゃないんですか?」


そんなことを思っていると、シュヴァートを取り巻いていた少女の声が聞こえてきた。


「ああ、アマテラスは今日は来ないんじゃないかな」


その名をシュヴァートが口にするから、背中には嫌な流れる。


「え、何でですか?」


俺は昨日こいつに


『明日、授業でクダラノをやるんだ』


と確かに教えた。


それをこの場で言われてしまったら、少なくともうちのクラスメイト達には気づかれてしまうんじゃないか?


それだけは避けたい。

しかし、いま出て行って余計なことを言えば自爆になる。


……一体、どうしたらいいんだ!?


レプティリアンとの闘い以上に絶望的な気分に陥った俺だったが。

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