強襲④
剣道では、
床から足を離さず、するようにして動くことだ。
このレプティリアンは一見するとゴジラのようなイメージなのだが、どの動きはどこか ぎこちない。
それは、まさに足をするようにズルズルと前進をしているからだった。
小さな違和感には、大きな弱点が隠れていたりする。
特に確証はないが、俺なりの経験則だ。
「あの、すみません」
相変わらず不安定に宙に浮いたまま、俺は屋根の上の強プレイヤー達に声をかけた。
「え?」
突然話しかけられて驚いた顔がこちらを見返す。
「申し訳ないんですが、あいつにとびっきりの攻撃魔法を食らわせてもらえませんか?」
そんな反応に構わず続けると、そのうちの1人 ― 派手派手しいセクシー衣装の女性 ― がムッとしたように俺を睨む。
「あんた馬鹿なの? さっきの見てなかった?」
「物理攻撃と魔法攻撃が効かなかったことですか?」
「そうよ! ここにいる全員、あれ以上の攻撃は持っていない」
だが、彼女が気分を悪くするのも当然だ。
俺の頼み方では、もう一度 恥をかけてと言っているようなものだろう。
「そうじゃないんです。ちょっとだけ動きを止めてもらえれば良くて」
だから改めてお願いしてみたのだが、その怒りは収まらない。
「だーかーらー、なんで私達上位プレーヤーがあんたみたいな初心者に指示されなきゃいけないわけ!?」
棘のある口調で怒鳴られてしまい、どう説明しようかと困り果てる俺だったが。
「分かった、俺がやってみる」
予想外の声はセクシー女性の横から。あの青年魔法使いが再び杖を構えながら立ち上がってくれた。
「いいんですか?」
「ヤケクソだ。この際やれることは全部やってやるさ」
そんな力強い言葉をもらって、俺は再びレプティリアンに向き直った。
「ありがとうございます」
そう言い終えたと同時に、青年魔法使い(スカウターで確認したらタイカさんというらしい)は再び水の塊を空中に作り出す。
「ウォータフォール!」
先ほどと同じ水の攻撃がレプティリアンを襲う。
二度目とあって、モンスターのほうは余裕すら感じさせる態度で魔法を受け流した。
けれど、俺の狙いはその瞬間だ。
意識が一瞬でもそっちへ向かっている隙に、レプティリアンの足元へと向かう。
巨大なトカゲのような右足へ杖を向け、「フユウ」と唱えた。
この呪文は自分だけでなく、敵や物体にも使用することが出来る。
その次の瞬間。
「ギィギャアァァ」
耳をつんざくような雄叫びをあげ、レプティリアンは暴れ出した。
「くっ」
突如迫ってきた尻尾を俺はギリギリのところで交わしたが、その勢いはあの武器屋へとそのまま直撃してゆく。
轟音をたて、尻尾に破壊される武器屋と周囲の建物。
「ミドリコ、ヒロカ、アカネ!」
さっきまで、あいつらや泣いていた男の子がそこにいたはず。
思わず叫んでしまったが、崩れた屋根の木枠の下に少年を抱えた3人の姿を見つけてほっと胸を撫で下ろした。
「どうした、何か分かったか!?」
屋根の上からタイカさんの声がして、俺は再び体の高度を地上3mまで上げる。
「はい。多分、分かりました」
怒り狂うレプティリアンを仰ぎ見ながら、俺は確信した。
「本当? 奴を倒せるの?」
タイカさんの隣から、1番最初に物理攻撃を行った女性戦士 ― アバター名:ビクトリア ― が身を乗り出して聞いてくる。
「はいっ。それには……っ」
言いかけた俺を、またもや早い右フックが襲った。
レプティリアンが知能の高いモンスターだとすれば、俺が弱点を把握したことにもう気づいたのかもしれない。
「も、う、一度っ」
たった二言三言伝えたいだけなのに、執拗に追い回されて全然口が回らない。
そんなことをしている間にも、町は次々と破壊されているというのに。
「とりあえず、もう一度攻撃すればいいのね」
「はいっ」
何とか意図を理解してくれたビクトリアさんに返事を返すと、彼女は小さく頷き体を反転させる。
さっきフユウを右足にかけた時、こいつは今までに見たことのない激しい反応を示した。
恐らく、奴の弱点は足裏にある。
ビクトリアさんがサブのサーベルを取り出し、レプティリアンのうなじを目掛けて再び斬りかかった。
またもや、その刃は簡単に折れてしまうが
「フユウ」
同時に俺は右足に呪文をかける。
杖の魔力だけでは当然力不足で、浮きあがった高さは数cmほど。
だが、今はそれだけで十分だ。
一拍遅らせて自分の魔法を解くと、俺の体は急降下する。
地面へとぶつかる……直前、再度フユウを唱えた。
その瞬間 地面に転がっていたバクチクを拾い、僅かに浮かび上がったレプティリアンの足下にそれを投げ入れる。
フユウが解けたレプティリアンの巨体が地面へと下りる。
と同時にバクチクの光と爆破音が周囲に鳴り渡った。
ガラクタかと思っていたが、それは中々の威力だった。
そうして、見上げたレプティリアンの体中の鱗の色はみるみる真っ黒に変色していったのだ。
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