第65話 戦闘
シャーロックさんが剣を引き抜いたその瞬間、いつの間に動いたのか分からないほど素早く、ツバキがかの御仁と肉薄していた。
「ぬぅ!?」
猫のようにしなやかな身のこなしから繰り出される掌底をシャーロックさんは剣を引き抜いた腕とは逆の左腕でガードした。
それでも勢いを完全に防ぐことはできなかったようで、シャーロックさんは後方にステップを取ることでダメージを最小限に減らす。
完全な不意打ちだったにも拘わらず、ツバキの一撃に反応し防御できたのはやはり彼が一流の武人だと言うことを示しているのだろう。
シャーロックさんと入れ替わるようにグレンがツバキに斬りかかる。抜剣と同時に繰り出した最速の剣技をツバキは難なく躱す。続く第二、第三の斬撃も必要最小限の動きで以て制し、人間ならば誰しも発生してしまう僅かな隙を突いて蹴りを繰り出す。
ツバキの鋭い突きに咄嗟に反応し、間一髪で避けたグレン。
たった数十秒の攻防の末、格の違いを見せつけたツバキに騎士たちは信じられないと言わんばかりに動揺している。
それもそのはず、不意を突いたとはいえ相手は騎士団最高峰の戦力だ。そんな相手に無手で圧倒したツバキの戦闘能力は並大抵のものではない。
月明かりに照らされ、黒く長い髪を靡かせ、飄々とその場に立つその姿は正に戦乙女。
ツバキが完全に戦場の流れを掴んだため、俺たちもそれに続く。
ノアはツバキの援護、ナナはその他の魔法師や騎士団の足切りを。ゼンは未だに戦闘に慣れていないためできる範囲で徒手空拳を用いた戦闘を繰り広げている。
「おいおい、冗談だろう。守護者ってのはどいつもこいつも化け物揃いかよ」
「魔物からの侵略を防いでおると言うのは伊達ではないようじゃの」
勘弁してくれと嘆息しながらも笑みを一切絶やさないグレンとシャーロックさん。口ではああ言っているが、彼らも戦闘狂なのだろうか。彼らから少なからず高揚感というか、愉しさを感じる。
「俺はあのアイラって人を相手にする。彼らは任せた」
俺はそう一言言って魔法師たちへと向かう。魔法での戦闘ならば俺が適任だろう。
△
レイが魔法師たちを相手してくれることになったことで、負担が大幅に減った。
私たちはツバキが万全に戦えるような土壌を整えることを第一優先に戦っている。
グレンとシャーロック翁に対して一歩も引かず、更には押している様子も見られるツバキは、やはり南部で肉弾戦最強と言われているだけのことはあった。
私たちを囲む数十の騎士たちを私は能力で薙ぎ払う。ナナによる援護もある為、やりやすい。
能力がある分、私たちは対人戦において非能力者とは隔絶した戦闘能力があると言われているが、やはりそうなのだろう。普通なら数の暴力であっという間にやられてしまうほどの人数差だ。
この場合、レイを除いた私たち全員をこの場に留められている騎士団の人たちの技量を賞賛すべきなのかもしれない。
騎士団最高峰の戦力であるあの二人は、ツバキの猛攻に圧倒的な練度で以て対応している。
ツバキは『天眼』によって複数の視野を持つことができる能力者だ。死角はなく、複数の視点によって相手の動きをくまなく観察し、凡そ未来視なのではないかと錯覚するほどの正確な予測で相手の動きを先んじて潰す戦い方を好んでいる。
だというのに、彼らはその技術とコンビネーションでツバキに渡り合っている。私が騎士の一人から能力で剣を奪って、それをツバキに渡しているというのにだ。
つまり、今のツバキは無手ではない。いつもの片刃の剣ではないが、それでも武器を持ったというのは戦いにおいて重要な要素だ。
対して私は大勢を圧倒できる戦いを出来ていない。今も、ツバキやナナたちの援護をしながら、騎士団副団長と名乗るイザークという人を相手に攻めきれずにいる。
目の前の彼は強い。能力によって動きを封じても持ち前のフィジカルによって念が弾かれる。
能力によって動きを封じることでかろうじて肉弾戦についていけている状態だ。念によってイザークを押し出し、少し息を吐く隙を作る。
ちらりと後ろを振り返って見れば、アイラと呼ばれた魔法師の長とその付き人相手に一歩も引かず、なんなら圧倒しているレイの姿が見える。
彼女の魔法使いとしての実力はリベラート並みだと聞いていたのに、レイはそれをものともせず魔法戦を制している。一目見て分かった。あれは技術と知識量が違うんだ。
相手の魔法に対して相性の良い魔法を繰り出し、掻き消し、相殺し、その隙を突きながらカウンターの魔法を繰り出す。
そんな戦い方だ。
やっぱりレイは凄い。私を助けてくれた時のように、彼がいればなんだって上手くいくような安心感が私の中にはある。
だけど、それじゃあダメだ。それだと私は弱いまま。あの頃の自分から成長しないんだ。彼に甘えるのは良い。でも、それを理由として停滞していてはいけないんだ。
私もレイのように。彼のように私を魅了してやまない実力を。
レイの強さの秘訣は何だろうか。彼は能力を疑わない。彼は自分の力を信じている。魔法使いとしての実力を正しく理解し、それを当然としている。
自分の力をコントロールしようとしない。あるがままに任せるのだ。
そうすれば、見えてくるものがあると思う。私は私を疑わない。私はあの頃の私ではない。今の私には──譲れないものがある!
△
その時、戦場は揺れる。
ノアの力は大幅に出力を増大させ、聖気は溢れ暴風となり戦場を駆けた。
「くっ……!?」
イザークは能力の出力が上がったノアに驚きながらも剣を構える。その表情は真剣そのもので、油断なんてものは無かった。
だが、覚醒したノアは自身の能力を用いて自身を高速で移動させる。
常人では目で追うことも困難なほどの速度に、これまで戦ってきたノアとのギャップに反応が一息遅れた。
身体能力の限界まで引き伸ばされたその一撃をもろに食らい、イザークは気を失う。
騎士団副団長がやられたことで、場の均衡は一気に崩れだす。
そして、ノアは能力者として進化を果たした。
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