第15話 閑話 魔法猫とキャットタワー(ミランダの魔法猫キャシー視点)

 あたしはキャシー。ミランダの使い魔をやってるわ。

 ミランダはあたしと同じ、高貴なバイオレット色の瞳の三大魔女よ。抱っこしてもらうと、温かくてふんわり柔らかくてぷにぷにしてるのも気に入ってるわ。


 最近、ユグドラの樹、中層階の団欒室にキャットタワーなるものができたの。異世界から召喚されたレイって女の子と、ドワーフのモーガンが作ったみたい。


 この前、レイがモーガンにいろいろ説明していたのは見たわ。

 レイの話を聞いたモーガンは目をキラキラさせて、「よし、作るか!」って言って団欒室から急に飛び出して行ったから、びっくりしたのよ! もう!



***



 レイは魔法猫が好きそうだった。

 いつもあたしたち魔法猫のことを目で追ってたし、隙あらばなでなでしようとしてくるもの。


 この前、お使いでドワーフのメルヴィンに手紙を届けに行ったら、一緒にレイもいて、撫でてこようとしたから猫パンチしたわ。


『ダメよ、ダメダメ! 淑女たるもの、挨拶も無しになでなではダメよ!』


 躾の猫パンチをすれば、レイは眉を八の字にして悲しそうにこっちを見てきた。


『ゔ……そんな顔してもダメよ! マナーなんだからね!』


 レイはまだまだ子供だからね。今のうちからちゃんと躾けないと、将来、淑女として恥ずかしいことになるんだから!



 モーガンは魔法猫愛好家よ。

 あたしもよくおやつをもらったり、なでなでさせてあげたりしてるわ。


 モーガンは特に、癖のある魔法猫が好きみたいなの。使い魔が三匹いて、みんな魔法猫で種類が違うのよ。


 ビビリのジョーは、ペチャ鼻で赤毛の長毛よ。葡萄酒色の目をしているわ。すぐにシャーッて怒る割に、びっくりするぐらい素早く隠れちゃうの。

 のんびり屋でマイペースなボブは、垂れ耳でまんまるなお顔をしてるわ。グレーの縞々柄にライラック色の目がかわいいの。

 せっかちなアビーは短足なのよ。でも、真っ白な毛色にあたしと同じバイオレット色の瞳は、なかなか良いんじゃない。



 ある日、レイが団欒室に見慣れない猫を連れて来た。オレンジブラウンの毛色に黒いツヤツヤとしたロゼット模様、スマートな体型の……猫なの?


 ビビリのジョーがいきなりシャーッと威嚇をした。


 猫? 猫って何?

 あたしはポカンとした。

 あたしの知識が正しければ、あれはAランク魔物のキラーベンガル。キラーベンガルって魔法猫なの?


 魔法猫は実は総称だったりする。

 魔法猫は人間や亜人たちから使い魔としてとっても人気があって、愛猫家も多くて、大事に保護されてきたから、たくさんの種類が生まれてきた歴史がある。

 細かく見ていけば、魔法猫は百種類以上いたりする。元が家猫の系譜のものもいれば、魔物の系譜のものも、妖精や精霊のように自然発生の系譜というのもある。

 魔物の系譜のものが魔法猫に含まれるなら、魔物のキラーベンガルも魔法猫に含まれる……のかしら?


 あたしは意を決して、レイが連れて来た猫に近づいた。

 おヒゲをピンと張って、一歩下がった所から匂いを嗅いでみる……敵意はないみたい。


 ビビリはシャーッした後にソファの裏に転がり込むように隠れて、ちょこちょこ顔を覗かせてこっちを見ている。


『あなた、名前は? あたしはキャシーよ』

『琥珀』

『いい名前ね』


 ちょいちょい猫ジャブパンチを仕掛けて様子を見てみる。

 琥珀も目をきらりと輝かせてのってきた。

 猫パンチの応酬の後、琥珀に飛び掛かって、二匹してゴロンゴロンと団欒室を鞠のように転がり回ったわ。


 ふぅっと一息ついて、寝そべりながらあたしは琥珀に言ったわ。


『爪の出し方もほどほどだし、甘噛みも出来てるから仕方ないわね、仲間に入れてあげるわ』


 認めてあげたの。


『やった! ありがとう!』


 琥珀は寝転がりつつ、ぶんっぶんっと尻尾を大きくゆっくり振って嬉しそうだった。



 それから暫くして、団欒室にキャットタワーなるものが置かれたわ。琥珀に聞いたら、レイの元の世界には、こういう猫が遊びつつ休めるような物があったらしいの。


 キャットタワーは、一番下の段にふわふわのハンモックがついていて、一番上の段にはクッション付きの見晴らし台が付いてるの。中間にはいくつか台が付いていて、途中に羽のおもちゃがぶら下がっていたり、小部屋があったりするの。

 なかなか面白そうじゃない。


 あたしは、おヒゲもひくひく匂いを嗅ぎながらキャットタワーを観察した。


 マイペースなボブは、早くも一番上のクッションに陣取って寝転がってたわ。

 短足のアビーは、ちょっと悔しそうに一番下のハンモックでふて寝してたわ。

 ビビリはキャットタワーの匂いをこわごわ嗅ぎつつ、ちらちらとみんなの様子を窺ってたわ。


 レイと琥珀は、キャットタワーにぶら下がってる羽のおもちゃで遊んでるわ。


……あの羽、Bランク魔物の羽じゃないかしら。何、こんな所に使ってるのよ……


 柱部分に巻かれた縄には保護魔術が掛けられてて、爪を研ぐのに良さそうね。


 バリバリバリバリ……


 悪くないわね。


 モーガンが満面の笑顔でこっちを見てるのが、ちょっと気持ち悪かったかも。



***



 そういえば、レイとモーガンがまた団欒室でひそひそ話してたわね。


「モーガン、キャットウォークって知ってます?」

「……何だと!? そんなものが!?」


 モーガンったら、また慌てて飛び出して行ったんだから! もう、びっくりさせないでよ!!



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