第41話 閃光王子 七

 アルベルト達の悪い予想は当たり、独立を許して以来友好的だったハクトウとカルのドーン連邦、採掘権を主張していた企業団体の傭兵部隊、電気による最先端科学学会が組織した武装勢力が採掘予定地に無断で侵入した。それぞれが勝手に軍事キャンプを展開し、牽制の銃撃と砲撃の音が鳴り響くようになり、一気に緊張が高まった。

 大衆食堂でレオンとメイが朝食のハンバーガーを買いながらテレビを見ると、既に一触触発の状態が続いていてアランも急いで軍を派遣すると声明を出した所だった。

「なんだか物騒な事になってるなあ」

「アルベルト様も行くとか何とか行ってなかった?あんたここにいて大丈夫なの?」

「いやまだ連絡は無いし大丈夫」

「ふうん」


 店を出て車に乗り、街を走っていると一台の車がずっと後を付いて来ているのに気が付いた。派手な装飾がたくさん付いていてあまり品のいい物ではない。助手席のレオンがハンバーガーを食べながらミラーを見た。

「なあ、あの車ずっと付いて来てない?」

「たまたまじゃないの?」

 突然後ろの車がスピードを上げ、メイの車にぶつけて来た。

「うおっ!ピクルスが!」

「きゃあっ!」

 メイがアクセルを踏んで離れると再び唸りを上げてガツンとぶつけて来た。

「何だあいつ! 頭おかしいのか!」

「たまたまじゃなかったのね!」

「ごめんピクルスが! ピクルスが後ろに飛んだ!」

「どうでもいいっつうの!」

 メイは加速して後ろの車を引き離した。なおも後ろの車は猛スピードでついて来る。二度ほどカーブを曲がった所で後続車の助手席の男が腕を出し、銃で撃って来た。

「ひえっ! マジかよあいつ! 父上の友達か!?」

「そんな訳あるか! くっそ! 私の車に傷が付くだろうが! あの野郎アッタマ来た! ちょっとハンドル持って!」

「へっ!? 嘘でしょちょい待てって……くっ!」

 レオンが手を伸ばしてハンドルだけをキープする。メイがスーツを開け狙撃銃のレバーをガキンと引くと、運転席の窓から銃身を出して引き金を引いた。ドカンという銃声が響いて後続車のバンパーをかすり、砲身から蒸気が吹き出た。メイは体勢を戻し、レバーを引いて銃身が冷めるのを待った。

「ちょっと! ハンドル持てってメイ! メイちゃーん! メイちゃーんッ!」

 メイは再び窓から銃身を出して銃を撃った。しかし銃を見た瞬間後続車が蛇行するので弾は当たらない。

「くっそー! 全然当たらない!」

「そんな体勢で走りながら撃って当たる訳ないだろ! 当てる!? 当てる……あっそうだ! 運転代われメイ!」

「なんで!?」

「いいからホラ! ハンドル!」

 メイにハンドルを渡すとレオンは窓を開け、上半身を乗り出した。

「ちょっと! 死ぬわよあんた!」

「むん!」

 レオンの目から閃光が迸り、目から伸びた光を運転手の顔に当て続けた。

「うおっ! 何だ見えねえ!」

 運転手は眩しさで目が開けられず、ハンドル操作を誤って店に突っ込んだ。

「やった! どうだ見たか!?」

「えっ何!? 何したの!?」

「親の七光りアタック」


 それから十分程走らせ、ちょうど目に入った店舗の地下駐車場に入りエンジンを切った。二人は深呼吸して息を整えた。

「何だったの今の?」

「分からない。いや……ひょっとして石油の話と関係あるのかな?」

 エンジン音がして、バックミラーを見ると駐車場に同じタイプの車が三台静かに入って来るのが見えた。三台はメイの車を囲むように停まった。

「……今度は上品な車だな」

「あんたよくそんな事言う余裕があるわね」

 車から銃を持ったスーツの男達が次々と降りて来た。六人いるがこちらに銃口は向けていない。

「メイ、今度は馬鹿な真似はすんなよ」

「駄目かな、やっぱり」

 モノクルをかけた短髪のオールバックの男が優しくレオン側の窓をコンコンと叩き、一歩下がって降りるように促した。

「まず俺が降りる。少し待ってて」

「レ、レオン……」

「大丈夫だよ、いきなりブッ放しはしないだろ……多分」

「うん」

 レオンが両手を上げながら車を降りて挨拶した。

「やあどうも。いい天気ですね」

「そうですね。おかげで君達の車がよく見えました。あなたはレオン・ファルブルですね? マイスと言います。メイさんにも降りるよう言ってくれませんか?」

「俺が今抵抗したらどうする? まさかファルブル家相手に無傷で済むとは思ってないよな?」

「その必要はありません。戦うつもりはありませんから。私達はヴェイン公の使いです」

「メイのお父さんの?」

 マイスは部下達に銃をしまうよう合図した。

「ええ。私達はメイさんを保護するよう頼まれた者です。先週フェルトに入国して以来探していたのですがさっきの騒ぎでようやく見つける事ができました。先程あなた達を襲ったのは石油の利権を狙った企業団体が放った刺客でしょう。無事でよかった」

 メイはレオンが頷いたのを見て車から降り、マイスに促されレオンとメイは男達の車に乗り込んだ。マイスが助手席に乗り込むと車が走り出した。

「ニュースでアラン議長がファルブル家の介入をほのめかしたのが襲われた原因でしょう。アルベルト・ファルブルに手を出させないようあなたを狙う。分かりやすい悪党ですね」

「そうだなあ。父上が俺のために矛を収めると思うのが間違いだけどね」

 マイスは驚いたのか少し目を見開いた。

「そうなんですか? 大切な一人息子なんでしょう?」

「父上は悪党とは一切交渉しない。考えを聞くつもりも無い。小説や劇に出て来る正義のヒーローとはちょっと違うんだ。乱世を生きた人だ、俺の命を天秤にかけたって剣を捨てたりしないさ」

 メイはレオンの意見に驚きを隠せない。

「レオン……」

「そうですか」

 車が廃工場の敷地内に入り、男達に促されて工場の中の椅子に座らされると男達はレオンとメイの手首を縛った。

「あれ?」

 マイスは口の端を歪めて笑った。

「では確かめてみましょう。アルベルト・ファルブル本人にね」

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