第6話 大根王子Ⅰ 六

 兵士の詰所の一帯はかなりひどい有様だった。あちこちの建物が先程の爆撃で倒壊し、あちこちで火の手が上がっている。さらに爆撃後になだれ込んで来た野盗の集団があちこちで殺戮と略奪を繰り広げたようだ。煙も相まってもはや生存者を見つける方が難しい。しかし野盗の数はかなり少ない。理由は分からないが北エリアの略奪だけで引き上げたのがほとんどのようだ。理由なんてどうでもいい。カタリナを探すアルベルトには好都合だ。アルベルトは必死でカタリナを探した。

「カタリナーッ! どこだ!? カタリナーッ!!」

 詰所まで来たがカタリナはいない。焼死体も兵士のものだ。行き違いになったのだろうか? 台所には中断された大根のすりおろしが入ったお椀が置いてある。もしかしたら武器にして使えるかもしれない。アルベルトは左手で大根おろしが入ったお椀をつかんだ。

 ふと声がした方を見ると野盗が二人北門に引き上げていくのが見える。その時アルベルトにある考えが閃いた。野盗が略奪したものは金目の物だけとは限らない。若い女も欲しがるはずだ。ひょっとしてカタリナも奴らのアジトに連れて行かれたのでは? 奴らを追跡すればカタリナがいるかもしれない。

 このままここで探していても埒が開かない。もし行き違いでカタリナが家に戻ってくれていれば先程のミリアムもいるし心配はない。だが奴らのアジトに行くのは今しかない。アルベルトはごくりと喉を鳴らし、覚悟を決めて野盗を追跡することにした。

「おい避けろ!」

 すぐ側で野盗がアルベルトに向かって銃を向けていたのに気付かなかった。どこからか聞こえたその叫び声に反応したアルベルトは素早く前方に跳び、右肩を中心に転がりながら後ろに向き直り、お椀の大根おろしを野盗に振り撒いた。野盗が銃の照準をアルベルトに合わせた時には大根おろしが細かい刃に変わり野盗の頭を無慈悲に切り刻んだ。

 倒れた野盗を見ながらアルベルトは呼吸を整え、先程の声がした方を見た。炎でよく見えないが黒いフードの男が立っている。

「よく見えないが倒したのか! やるじゃないかあんた! 俺は東の海賊達の様子を見に行ってくる! あんたは早く逃げろ!」

「僕は北に引き上げた野盗を追う! 恋人が連れ去られたかもしれないんだ!」

「バカかお前!! 一人で何ができる! すぐ殺されるのがオチだ!」

「そんな事はわかってるが確かめずに王都に逃げるなんてできない!」

 フードの男は肩をすくめた。

「そうかい。じゃあ気を付けてな! ああそうだ、北にウォーケンの治める街がある。ノービスだ。アジトを突き止めたらウォーケンの力を頼るのが一番だ! 無茶はするなよ!」

 フードの男は炎に紛れて姿を消した。

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