俺の友達は「パンツの色がわかる」超能力があるらしい

千織

第1話 世界一くだらない超能力

高校2年生のマモルとケイタは、考査の勉強をしていた。


「あー、テスト用紙に答えが浮かび上がる超能力とか出ねぇかなぁ」



マモルはため息をつきながら言った。



「せっかくの超能力なのに、それじゃ地味じゃない?学生時代しか使えないし」



ケイタが言った。



「ああ、たしかに。じゃあ、無限にお金が湧いてくる超能力」


「あんまり無限だと、家の中が札束でうまっちゃうよ」


「じゃあ、無限に預金残高が上がる超能力」


「お金があってもさ、”マモルさんに売る品物はありません!”とか言われて、買えなかったらダメじゃん」


「え、世界中のお店から売ってもらえないの?俺、大物すぎない?どんな悪党でも買い物はできるでしょ」



二人はいつもくだらない会話をしていた。



「ケイタはどんな超能力がほしいの?」


「俺さ、実はもう超能力があるんだ」


「マジか。何?」


「お前のパンツの色がわかる超能力」



ケイタはマモルの尻を触った。



「今日はグレーでしょ」


「当たり!何でわかるの?!」


「超能力だから」



ケイタはふふん、と笑った。



「だとして、テストの答えがわかる超能力より意味のない超能力じゃね?くだらなさたるや、世界一だよ」


「だよな。わかるの、お前のパンツの色だけだから」



たまたま腰の辺りにパンツが出てたのを見られただけだろう。

マモルはその程度に思っていた。



♢♢♢



翌日、朝登校すると、「おはよっ」と言ってケイタがマモルの尻を触った。


「今日、黒でしょ」


「え?パンツ?」



何色を穿いていたかなんて、自分でも覚えていなかった。

ズボンの隙間から確認する。

本当だ、黒だ。



「……む、無駄にすげぇ」



ケイタは笑った。


さらに翌日も、次の日も、毎日ケイタはマモルのパンツの色を言い当てた。

本当にそういう超能力があるか、部屋が盗撮されてるかだ。

どっちも微妙に嫌だ。

とはいえ、たかだかパンツの色くらいだ。

友情にヒビが入るほどではなかった。



♢♢♢



ある日、母親が血相を変えてマモルの部屋に来た。


「マモル!ミカが塾の帰りに事故に遭ったみたいなの。お父さんとお母さんは病院に行くから、おばあちゃんと留守番よろしくね」


「うん、わかった……ケガは、大丈夫なの?」


「意識はあるけど骨折してるって。今日は検査も含めて入院になるみたい。相手が逃げたらしくて、警察ともやりとりしてくるね……」



ミカが骨折で済んだのは不幸中の幸いだ。

でも、轢き逃げなんて酷すぎる。



部屋を出て一階に降りると、おばあちゃんが仏壇を拝んでいた。


リビングのソファに座って、テレビをつけた。

なんとなく、ケイタにミカの話をメッセージで送った。



『事故現場って、どこなの?』



と、返事が来た。


家の近くのコンビニ前と伝える。


しばらく連絡が途絶えて、一時間後くらいにまたケイタからメッセージが来た。



『犯人は、白のセダン。爺さんが運転してる。車のナンバーは……』



そんなことが書いてあった。

俺は急いでケイタに電話をした。



「あのメッセージ、何なの?」


『俺さ、物が持ってる記憶を読む超能力があるんだ。事故現場で散らばってた、自転車の破片からぶつかった車が見えた。説明が面倒だから、ミカちゃんが見て覚えてたていで、警察に言ってみてよ』



ケイタの言う通り、母親に電話して、ミカに代わってもらった。

ミカも、白のセダンはわかっていて、うっすら見たナンバープレートの数字もそんな感じだったと言ったので話は早かった。



♢♢♢



翌日の朝、ケイタと挨拶はしたが、尻は触ってこなかった。



「お前……本物だったんだな……」


「まあな」


「まず、ありがとうな。妹のためにやってくれて」


「大事に至らなくて良かったよ」


「……ところでさ、せっかくの超能力を、俺のパンツの色を言い当てるだけに使うのって、健全な男子と思えないんだ。他に、何に使ってるの?」


「……まあ、いいじゃん、そこは。いざ、便利そうな力があってもね、余計なことを知ると幸せになれないよ」


「それもそうか。たとえば机の記憶を読み取ったら、友達に自分の悪口言われてた、とか?」


「そうそう。小さい頃は、自分の力の意味が分かんなくて、見えたこと全部口に出したら気味悪がられてさ。超能力なんて、あっても面倒くさいよ」


「なるほどね」


「あのさ、マモルは、俺のこと嫌にならない?まあ、俺がその気になったら、結構何でもわかっちゃうわけで……」


「……そうだな……そうかもだけど……お前は、そう思われるかもしれないのに、妹のために力を使って教えてくれたじゃん? そんな正義の味方に失礼なことはできないよ」


「…………」


「大体にして、俺に秘密らしい秘密もないしな! 逆に秘密が無い仲って、すごくない?」


「……そう言ってくれるなら……良かったよ……」


「俺は、変わらず友達でいてほしいな。正義の味方にだって、仲間はほしいだろ」


「そうだな……。まあ、そんな物騒なことに首を突っ込む予定はないけど」



♢♢♢



それから、マモルはケイタの超能力の精度を上げる訓練をし始めた。



「えっと……今日のパンツの色は……マーブルっていうの? 色んな色が混ざってるやつ」


「そうだけどさ、そんなあやふやな情報じゃ犯人逮捕にはいかないよ。もっと、見たものを的確に表現しないと」


「そうだけどさ。いや、犯人逮捕って、俺に何させようとしてんの。それに、色の名前なんてわかんないよ」


「ほら、これ。色見本。色の名前をこれで覚えようよ」


「……いっぱいありすぎるよ。わかんねぇ」


「俺もできる限り複雑な色のパンツ買うようにするからさ、お前も頑張ろうよ」



お前はパンツ買うだけじゃん。

ってか、なんでパンツにこだわるんだろう。

そう思ったが、マモルの楽しそうな様子を見て、まあいいか、と思ったケイタだった。



―第一話おわり―

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