第15話 六人目の覚醒

~ イフリート ~


『くそ、ったれが』


 冒険者ギルドの受付嬢ククルと一緒に現れた魔法使いの男。

 カナンがククルと斬り結び、俺は男へと向かって行った。


 自信はあった。

 この世界に魔法に転生し、命を遣り取りする戦いを経験した。

 ゴブリンの群れ、C級冒険者の私部隊パーティー、宿で襲って来た暗殺者、そして下水の蛇の化物。


 その全部に俺は勝ってきた。

 だから俺はやれるんだと、勘違いしてしまった。


「はぁ、邪魔」


 一撃で勝負がついた。

 男の放った槍を腹に受けた俺は、標本にピンで止められた昆虫のように動けなくなってしまった。


「珍しい使い魔だな。魔法に人間の魂を混ぜてんのか」

『はな、せ』

「うっせ、黙ってろ」

『がああっ!?』


 男が槍に触れた瞬間、激痛が俺を襲った。

 

「幽霊ってさ、体の中に害意を込めた魔力を流し込まれるときついらしいぜ。ま、お前さんを見れば正解って事か。よう、どんな感じだ?」

『があああああああ!?』

「腹の中に焼けた鉄杭を打ち込まれる感じか? それとも硫酸を流し込まれる感じか?」

『お前、ころ、ぎゃああああ!!』

「魔獣とか死んで自我の薄くなった霊体だと、叫ぶばっかでつまんねえんだよな。言葉話せっての。ほら、絶頂と絶叫って似ててさ、気持ちいい~のか、クソてえ~のかわかんなくない?」

 

 男が槍を蹴った瞬間、激痛が頭の芯をぶっ叩いて来た。


『ぎゃああああああああああああああああああ!!』

「ああうっせ。ほら少し弱めてやったぞ。気分はどうだ~」

『おまえ、ぶっこす』

「ははは、いい勉強になっただろ。物理が効かないからってイコール無敵じゃねえんだ。俺のような魔法使いなら、幾らでも料理のやり方を知ってるんだよ」


 バキンッと甲高い音が響き、ククルの細剣さいけんの先が宙を舞った。


「おお、やるじゃんお前のマスター」

『カ、ナン』

「消えねえのは大したもんだ。ま、ちょっと嬢ちゃんを痛めつけるからそこで見てろ」


『カナン、カナン』

「ああ、お前もう飽きたからいいわ。流石に使い手が気絶すれば、お前も消えるだろ」


 男が背を向けて遠ざかって行く。

 

―― 何で俺は無力なんだ……。


 母は俺に「人の気持ちを考えなさい」と言った。

 そして俺が痛め付けられて学校から帰ると、「うるさい」と怒鳴った。


―― 何で俺は何も出来ないんだ。


 俺が「嫌だ」と言っても誰も聞いてくれなかった。

 父は俺の名前を弄って揶揄からかった。

 同級生は俺の体型を揶揄からかった。

 泣いた俺を母はまた「うるさい」と怒鳴った。


―― 何で俺はここにいるんだ?


 父と母は俺が間違うといつも叩き、物置に鍵を掛けて閉じ込めた。

 喧嘩けんかは間違いだった。口答えは間違いだった。習い事に嫌だというのは間違いだった。


―― いつの間にか、痛いという感情を忘れた。


 反撃しない俺はサンドバッグだった。

 ボロボロになれば捨てられて、ボロボロの壁に向かって泣いた。


 俺は闇の中に一人になった。

 それが俺の世界になって、俺は闇に閉じこもった。

 

 俺を裏切った『ニンゲン』のいない場所で絶望し、孤独感に苦しめられた。


―― 我在るは【無明天獄むみょうてんごく】。


 結局俺は、救われなかったんだ。


 バタンッと誰かの倒れる音が聞こえた。


『え?』


 痛みが消えた。

 体が動く。


「よか、った」

『カナン?』


 真っ赤に染まった金髪を滴らせた、傷だらけの少女が笑う。


「ボク、は、もう、無理っぽい、からさ」


 床に槍が転がっていた。

 

「おいククルやり過ぎだって」

「仕方ないじゃない、興が乗ったんだもの。それに死体になってもジョンの魔法で動かせるでしょ。貴族の玩具にはそれで十分じゃない」

「お前な~」


 ニンゲンだ。


『許さない』

「ちょっとジョン、使い魔君が動いてるじゃない」

「すげえしぶとさだな。ちょっと研究したくなってきた」


 俺がよく知っている『ニンゲン』達だ。


『お前らを絶対に許さない』


 忘れていた何かが俺の中に灯る。

 小さな火が、大きく大きくなっていく。


―― これは怒りだ。

―― ずっと忘れていた、俺自身の心だ。


[『エヴォケイション・システム』の同調エラーが解消されました]


 俺の中に声が響いた。


[試作型対聖霊兵器『ブレイブ00』のモデル構成を開始しますか?]


 さっさとやれ!

 俺にまだ何かが残っているなら全部寄越せ!


[個体名『読取りエラー』の承認を確認。これよりプロト・アーククリスタルの実体化を行います]


[魔力量の不足は個体名『読取りエラー』が取り込んだ魔剣【ソード・アロー】、魔盾【エア・シールド】、魔杖【アイアン・トレント】、魔鎧【ダーク・シェル】を充当します]


[プロト・アーククリスタルの実体化に成功。『特殊型・魔砲精霊』を完成しました]


[戦級を測定]

[成功。当個体の戦級は『一』を確認しました]


[保留中の獲得した生魔力『経験値』を加算]

[成功。当個体の戦級は『五』を確認しました]


[戦級が五を超えた為、戦術欄の作成を開始]

[成功。戦術欄に『アームストロング砲(1/5)』を]


 今はそれじゃねえ!

 カナンを助ける力をくれ!!


[『アームストロング砲(1/5)』をキャンセルし再作成開始]

[成功。戦術欄に『ヒール・レーザー(1/5)』を獲得しました]


[全プロセス完了。『ブレイブ00』顕現します]


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