(4)

「ちょっと見ない内に、面白い顔になりましたね。きっと、その病人肌ペイルズどもが、世にも恐ろしい人体実験を行なったのでしょう」

 聞き覚えのある事……あっ……あの宿屋で出会った自称「旅の画家」。

 そいつが引き連れてる奴らは……おい、何の冗談だ?

 あああああ……気付くべきだった。

 そう云う事か……。

 あのクソみたいに強い娘が居る宿屋を……誰が焼き討ちしたのか?

 あの無茶苦茶な戦闘能力のメスガキが……何で、両親を殺した奴じゃなくて、僕に怨みを向けたのか?

「あんたも転生者かッ⁉」

 答は簡単だ。あのクソ強い宿屋の娘より更に強い奴が居たんだ……さっきの元力士みたいに……。

 次の瞬間、な……なんだ……これ……まるで……ひぎいいいいッ‼

 目がくらむと同時に……体に痛みと……そして……体の感覚が無くなり、しかも……痺れ……。

「なるほど……貴方は転生者だったのですね。理由が全て判りました。転生者は、いつも病人肌ペイルズどもに利用される……。そう、百五十年前に現われて、本人は善意のつもりで、この世界を無茶苦茶にした……西という転生者のように……」

 え……? どういう……こ……?

「全員、連行して下さい。殺さずに。徹底的に取調べた上で、地下の病人肌ペイルズどもが、どんな恐ろしい事を企てているか、全て吐かせてから死刑にしましょう」

 し……死刑?

「へへへへへ……心配無いからね……ちょっと君の口を軽くする……おまじない……。本当は可愛い女の子にかける方がボク的には……まあいいや……」

 そう言いながら僕に近付いてきたのは……この世界風の服装で眼鏡をかけてない以外は……イ○○ト屋の「オタク」のイラストそのまんまの外見の……。

 あ……あのサイコ女が変な事を言っていた。

『悪いな…………』

 どん……ずん……どん……ずん……。

 その時……何か覚えが有る地響きが……。

「あれ? 今まで何をやって……?」

 テンプレ通りのオタクみたいな感じの奴は……そいつに、そう声をかけ……。

「行け、お前の『固有能力』とやらを見せてみろ」

 おい、今度は……さっきのサイコ女の声……。

「はい……御主人様……」

 地下の下水道から現われた元力士は、全く感情も人間っぽさも感じられない声で、そう答える。

「何かが変ですッ‼」

「大丈夫だよ、ボクの精神操作能力で……止ま……」

 ドオンッ‼

 テンプレ通りのオタクみたいな感じの奴は……一瞬で、どこかに飛んで行った。

 代りに、そこに居たのは……あの元力士……。

 そうか……この元力士の固有能力は……高速移動。

 相手の精神操作能力が発動する前に、その相手をお空のお星様にしてしまったらしい。

「おい、その大男を下手に攻撃するなよ。お前らが死ぬぞ」

 さっきのサイコ女の声。でも、姿は見えない。

「何を言っているんですか? 彼の能力が効かないなら、物理攻撃です」

 自称「旅の画家」の手には……筆とパレット。

「なら、攻撃の種類は、良く選べ。警告はしたぞ」

 あれ? 何だ……あの元力士が背負っている革袋?

「そうですか?」

 自称・画家は馬鹿にしたような口調。

「最後の警告だ。死にたくない奴は、その大男から、なるべく離れろ。さもなくば、お前らのリーダーのせいで、みんな死ぬぞ」

 ごおッ‼

 またしても、火事場の馬鹿力が発動する予兆。

 何かが……マズい。

「女の分際で、大口を叩いた事ッ‼」

 自称・画家は絵の具を筆に付け……。

「後悔するがいいッ‼」

 自称・画家が固有能力(多分)を発動しようとする隙を付いて……僕は……聖女様とスナガを再び抱え……。

 自称・画家が赤い絵の具で、空中に何かを描く。

 僕は……走る走る走る走る走る走る……。何も考えずに走るッ‼

 振り向くと……自称・画家の絵筆から、元力士に向けて、バカ太い炎の矢が……。

 その時、気付いた……。大男が背負っている革袋は、自称・画家からすると……死角になってい……。

 閃光。

 爆音。

 見えない……聞こえない……。

 ま……まさか……でも……何で……こんなポリコレ配慮以外はナーロッパにしか思えない世界に……が有るんだッ⁉

 やがて……。

「大丈夫ですか?」

「は……はいッ」

 聖女様も耳が回復したらしい。

 爆風で吹き飛ばされたけど……大きな怪我は……無……。

「御主人様、オラも大丈夫だ」

 お前は、どうでもいい。とっとと死ね。

「おい、聞こえてるか? 現実主義者気取りの間抜け野郎。お前にとっての唯一絶対の神のお出ましだ。地面に膝を付き、手を合わせて祈れ。もっとも、この神様の欠点は公平過ぎる事なんで、信じる者も嫌ってる者も平等に扱うがな」

「な……何が、言いたい、この……中二病野郎……」

 クソ……あの自称・画家も……生きてた……。

「判らないか、これが……理不尽で残酷な現実って奴だ。そして、ここにはインフィニティー・ストーンも無ければ……トニー・スタークも居ないぞ」

「な……」

「そうだ、お前の言う通り、私は少しばかり中二病でな……一度、言ってみたかったんだ……こんな感じの状況でな。『誰も運命からは逃れられない。運命は、もう、ここに来ている。私こそが逃がれられぬ運命イネヴァタブルだ』」

 ごめん、僕は、あんたからも、あんたが酷い目に遭わせた自称・画家からも逃れたい。

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