(6)
「その2匹は馬小屋だ。あと、あんたは、明日の朝、他の客が起きてない内に、この店を出ろ。値段は人間1人分と馬2頭分。それが最大限の譲歩だ」
「えっ? でも、この2人は……」
「2匹だ。言葉の乱れは心の乱れ、言葉が乱れれば、やがて世の中も乱れるってもんだぞ、若造」
その宿屋の主人の風貌は……地球で僕の知る限り一番近い人種は……日本人。
四〇〜五〇ぐらいの、小太りの「おじさん」ってより「おっちゃん」と呼びたくなる感じの人。
おい、僕が今経験してる、このロクデモない事態が実は「なろう系」小説で、何かの間違いで実写化される事になったら、多分、出演者は日本人と日本在住の外人で十分何とかなるぞ。
「で……でも……」
「何、感情的になってんだ? 御花畑の理想主義で視野が狭くなってる奴は、これだから困る」
あ……多分、これは「なろう系」じゃない。「なろう系」だったら、異世界から転生してきた僕が現実主義で、この世界をユートピアに変える筈だ。僕の方が脳内御花畑の理想主義者扱いされる筈なんて無い無い無い無い絶対に無い無い無いないいいいい〜ッ。
「か……感情的になんて、なって、なって、なってなってなってなってててててて〜ッ‼」
「感情的になってなきゃ、何で、この2匹を人間扱いしなきゃなんね〜か論理的に説明出来る筈だぞ」
「あああ……じゃ……何で、逆に、この2人を人間扱いしちゃいけないの?」
「常識だからだ。はい、論破」
「何で、常識なの?」
「
「そんなのデマかも知れないじゃないッ‼」
「そんな事を言ってる奴は、この町中探しても、お前含めて、一〇人居りゃ御の字だ。脳病院に入院中の奴を除いてな。この町に住んでる何千人もの内の、せいぜい一〇人だぞ。お前の言ってる事が正しいと証明する義務はお前に有る。さぁ、証明しろ。証明に時間がかかってる内に、善良な市民の皆さんが、こいつらの存在を嗅ぎ付けて、火炙りにするだろうがな」
「そ……そんな……」
「ああああ……ご……御主人様、オラ達が馬小屋で寝ればいいだ。普段のオラ達の生活に比べりゃ、馬小屋だって天国だ……」
「若造、お前より、その
「え……えっと……」
「私達は、馬小屋で寝ておりますので……御主人様は人間様用のフカフカのベッドで、旅のお疲れを癒して下さい」
「ああああ……」
「いいか、若造、俺もお前ぐらいの頃は脳内御花畑の理想主義者の方が格好いいと思ってたよ。でもな、俺みてえな、くたびれた中年になると、現実主義者になっちまうんだよ。嫌でもな。
「え……えっと……」
聖女様とスナガは……馬小屋の方に向かったようで、いつの間にか姿を消していた。
そして……。
一体、何だよ、この世界ッ⁉
この世界を作った神様か何かが居るなら「なろう系」のファンに家族を皆殺しにでもされたか恋人でも寝取られたのかよッ⁉
この世界そのものが、「なろう系」のファンへの嫌がらせか何かかよッ⁉
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