第4話後編「魂振りの舞い」






 僕は魔導書に書かれている通りに、魂振たまふりの舞いを始めた。


「僕の救い」

「私の救い」

「「さあ、魂振りの舞いを舞おう」」


 僕とマリアは高らかに魂振りの言霊ことだまを唱えた。

 僕が舞いを始めると、マリアの身体からクモの糸が噴出して僕を襲ってきた。



 邪悪な呪いが舞いを止めさせようとしている。

 僕は、この呪いにからめとられて命を落とすかもしれない。

「やめて! カイト、あなたが死んでしまうわ!」

 マリアが悲痛に泣き叫ぶ。だけど、止めるわけにはいかない!

 君を失うぐらいなら、僕という存在もまた、無意味なのだから。




 ああ、天の呪いを受けた君。それを解くのは僕しかいない。

 天の者と地の者。結ばれないのなら、何のための力だろう。

 何のための愛だろう。




 カイトは、それでも止めずに舞いを舞っている。

 呪いの糸はあなたを蝕むかもしれない。

 それでも、あなたは笑いかけてくれる。

「君を助けたい!必ず、救ってみせる!」

 私はあなたが大切なの。お願い。私はどうなっても良い…あなたに生きて欲しいの。

 朝つゆが落ちる頃、きっと僕は絶命してしまうだろう。

 呪いの糸に生命いのちが奪われていくのが、まざまざとわかる。



 それが運命さだめなら、マリア、君に僕の命をささげよう。

 僕がいなくなっても、君は生きてくれ。

 舞いが終盤に差し掛かった時。空から突然、光の束が降り注いだ。

 光は僕とマリアを包み、マリアの呪いの糸が溶けてゆく…



「祝福の光だ…!」

「呪いが解けていくわ」

 僕達はふたりで、光の中で抱き合って喜んだ。

 呪いを掛けた天の長と地の長は、呪いが跳ね返って死んだらしい。

 僕とマリアは新しい長に任命された。




 それから数日経ち、陽だまりの丘で僕達は弁当を食べながら話し合っていた。

「マリア、聞いてもらいたいことがある。」

 真剣な僕にマリアは、少し不安そうな表情を浮かべている。

「……なあに?カイト。もしかして、呪いのこと?」

 勘が鋭い彼女は、気が付いているようだ。

「ああ、呪いのことだ。落ち着いて聞いてくれ」

「うん…」マリアはうなずく。

「僕は、呪いの糸に命を吸われた。寿命の長さは分からないが、

 君より生きられないかもしれない……」

「カイト!ごめんなさいっ。私のせいで…」



 泣きながら謝るマリアの額にキスをして、僕は軽く唇にキスを落とした。

「君のせいじゃないから、呪いを掛けたあいつらが、全部悪いんだから」

「でも、カイトが早くいなくなるなんて。嫌よ!私も一緒に死ぬわ」

 優しいマリアからこんな言葉を言わせるなんて、ごめんな。でも…

「死ぬなんて言わないでくれ…僕は君だけには、生きていて欲しい」

「いやっ!このお腹には、あなたの子供が宿っているのに!」

「何だって…?子供だって!?子供は呪いの力で、死んでしまったはずじゃ」

 僕は驚き彼女のお腹に耳をあててみた。



 とくん、とくんと鼓動が聞こえてきて彼女のお腹を蹴った感触が僕の頬に当たる。

 まぎれもなく何かが、彼女のお腹にはいた。

「マリア!」

「うん、そうよ。あの光が降り注いだ日に、命の鼓動が聞こえてきたの。



 呪いに殺められたと思っていたのに。この子は、懸命に生きていてくれたっ……」

 マリアは嬉しそうに泣き崩れた。

 おそらく呪いを解いたから。いや、神がくれた奇跡かもしれない。

「地の一族に伝わる秘法で、呪いによる寿命を取り戻す物があるみたい…

 私、調べていたの。大丈夫よ、カイト。今度は私が、あなたを助けるから!」

 なんてことだ。彼女はこんなにも、強かったのか。これまでの弱気なマリアじゃない。子を持つ母の顔だ。



「分かった。僕も諦めないよ。マリアと、生まれて来る子供のために生きる!」

「ありがとう。カイト…私、嬉しいっ」

 マリアは僕に抱き着いてきて、暖かな温もりと香りが僕を包んだ。

 僕はマリアを抱きしめ返して、彼女の柔らかい唇にキスをした。


 その後の天と地は、僕とマリアの尽力で徐々に良い国になっていった。

 僕の寿命は秘法により、元通りに戻りマリアと娘のレナと幸せに暮らしている。

 あの呪いを解いた光は、天の神の蝶と地の神のクモの加護だったと僕は今でもそう信じている。



 ~END~

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 最後までお読みいただきありがとうございました。

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