世界最高峰の魔法士は王女の守護神になったようです

荒塩

プロローグ


アルフレイル王国


 ここは俺が住む国であり、故郷と言っても良いだろう、そんな俺は急な呼び出しを受け———




「頼む!!!もはや貴殿しかおらんのだ!!!」




 王にめちゃめちゃ拝み倒されていた。


 もちろん俺の返答は。




「面倒いし、嫌」




 これだった。




 ——————20分前




「それで要件はどうしたんだ?」

「黙ってついて来いテオルド」


 これもしかして俺しょっ引かれる?

   

 この俺の前を歩くガタイのいいオールバック男の名は———王国魔法軍大将オレスト・アーガイム


 上司様だった。


 俺はこの男に呼び出されて、ちょっとついて来いと連行されていた。

 さながら断頭台へ向かってる気分だった。


 

 そんなわけでほんの少し、ビクビクしながらオレストについて行くのだった。



 ——先導されること10分、大きな扉の前に居た。



 断頭台ではなかったらしい。しかし扉を見た瞬間気分は似た様なものだった。


「おいここって」

「逃げるなよ?……ま、そういうこと、んじゃ帰るわ」

「あちょ!」


 なんて奴だ!俺が嫌なの知ってるだろうにこんなとこに連れてきたな?上司だからってなんでもして良いわけじゃないぞ!

 

 どうせ事前に打ち合わせでもして俺が逃げるのを封じたんだな、俺はお偉いさんって奴が好きじゃないからな、会いましょう、拒否します!の流れが定石だ。


 逃げようにも通路の見えないところにオレストがいるのを感じる、しっかり見張られている様だ。信用ないな俺。


 逃げ道を奪われてる以上仕方ないので大扉を開ける。


 赤い絨毯が真っ直ぐ伸びており脇には数人の近衛の魔法士、そしてその先の少し階段を登ったところに派手な椅子に座る男。


 ———アルフレイル王国の国王ファウロス・アルフレイルだ。


 齢は60程だろう衣服の上から押し上げるぐらいには体格がよく戦士と言われても納得出来る、年齢の割に若々しく短く切り揃えられた白髪と鋭い眼光が印象的だった。


 複数の視線に晒されながらも階段手前まで来る。


「テオルド殿よくぞ来てくれた!貴殿が来るのを我は心待ちにしておったぞ!」

「そうでしたか、光栄です」

「ハッハッハ!よい、普段の口調にしてもらって構わんぞ、貴殿がこの国にどれほど貢献をしているかを考えれば礼儀など不要だ、寧ろこちらが頭を下げたいぐらいよ」


 王からのありがたい提案だった。堅苦しいのは嫌いだし性に合わないのだ、遠慮なくそうさせてもらう。


「なら遠慮なく、それで俺に何か用でも?」

「うむ、さっそく本題に入ろうか——神都中央魔法学院、大陸中央に位置する神都イオリス最高峰の教育機関……貴殿にはそこに入学してもらいたいのだ」

「入学?……俺には必要ないように思えるんだが」


 まさかいきなり入学しろとはな、行く必要性が微塵も見つからない。でもそう単純でもないだろう、何かあるからこうして切り出してきたんだろうし。


 それにこの学院は聞いたことがある、四国選りすぐりの若きエリートらが結集する学院。所謂将来を約束されたような連中同士がお互いに競い合い己を更に高める、そんな場所だったはず。


「まさにその通り、座学に実技。最早貴殿にはこの学院は有り余る」


 概ね間違っていない、既に軍に就いている身としては通う意味が本当に無い。なにせこの学院は軍に就く為にあると言ってもいい、一部優秀な奴は既に入ってたりするが。


「知っているかなテオルド殿、我が国は魔法士こそ多いが突出した個人、つまり"質"が他国と比べ遥かに劣っておるのだ、もちろん貴殿は例外だがな、この国に優秀な魔法士がいない訳ではない。だが他国と比べるとどうにもそれが顕著に表れるのだ、そして悩ましい事に近年若者の"質"の低下が非常に著しいのだ」


 質ねぇ、その言い方は好きじゃないが事実なんだろう。


「なるほど……え、まさか俺に教鞭を振るえってわけじゃないよな?」

「それはそれで非常に魅力的だが、違うとも。この学院には年に二回、魔法杯が開催されるのだが知っているかな?前年度我が国は四カ国中……四位っ!その前は三位!そしてその前もその前も!…屈辱だ!!まだ一度として優勝を!!手にしたことがないのだっ!」


 肘掛けをドンッ!と叩いて苦渋の顔をするファウロス王、相当悔しい様だ。まぁ分からんでもない、流石に負けっぱなしは悔しいもんなぁ、でもこれ要するに俺が行って優勝して来いってことだろ?嫌だな、面倒くさすぎる。


 そんなことを考えていると再びドンッ!!とさっきより強い音が聞こえてくる。


「皇帝の野郎めっ!いつもいつも!見下しやがって!!今度という今度は絶対に許さんぞっ!その鼻へし折ってくれるわ!次こそ、次こそは!……ということで今年こそはなんとしてでも優勝したいのだ、そのことをオレスト大将に相談した所テオルド殿は18歳だという……まさに渡りに船!天啓よ!だからどうか!引き受けてはもらえぬか!?」


 学院は18からだったのか知らなかった。

 

 しかし随分帝国にご立腹だな、確かあそこはバチバチの縦社会、実力が正義みたいな思想を抱いてるから皆躍起になって励むのだろう、その甲斐あって優秀な魔法士も結構多いしな。


 にしても入学かぁ。


 顎に手をやり考えてしまう。


「我の勝手な願いだとは重々承知している!だが!!頼む!!!もはや貴殿しかおらんのだ!!!報酬も望むものを用意する!」


 俺が考え込んでいるのを察し更にまくし立ててくるファウロス王、大分必死である。



 しかし、俺の答えは決まっている。



「うん、面倒いし、嫌」


「そうか!!そうか!!引き受け———え?」


 

 

 普通は断らないだろう、というか王の頼みだ断れないだろう———だが断る。



「帰っていいか?」



 空気が——シンッと冷え込こんだ。

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