敵の位置を完全把握する能力で国家警察の身分を隠して暴力組織の下っ端から成り上がる(仮)

青いカブ

『雨』

第1話 舌一片

 ジメジメとした気候が初夏を告げた。


 ちょうど肌を露出した首元に不快な羽音と共に蚊が血を吸いにやってくる。


 倦怠感けんたいかんまとった手で首元の蚊を叩き殺す。


 そこに命を奪った罪悪感はなく、てのひらの上でいたずらに死した蚊を汚く思うだけ。


 そんな風に同種ヒトも殺す。





 薄暗い長廊下。青年は嘲笑あざけわらう男達を横目に廊下の先にある扉へ向かう。


「ずいぶんと汚ねぇなりだな」


「餓鬼が来るようなとこじゃねーぞ」


 ゲラゲラと笑う者。嫌悪の眼差しを向ける者。ただひたすらに煙草をふかす者。


 青年は扉を開けた。


 机が一つ。そしてその奥で座る者。その者は青年に問う。


「何をしに来た……?」


「何をしに来たとか無い」


「まあ 君を引き入れたのは我々の方だ 目的無しも当然……か ……でも我々を選んで来た」


「……この腐り切った国に辟易へきえきした ただそれだけ……」


「元には似つかわしくないセリフ……」


「いいのか?」


 気怠けだるげにした目線を向けて質問した。


「君がスパイである可能性のことかい?」


「ああ……」


「少しでも怪しいと思ったら君の脳天に風穴が開く」


「ん……」


 青年はどうでもいいと言わん顔つきで蚊跡をく。


「名乗りたい名前は何かあるかな?」


「インガ」


「わかったインガ じゃあこの紙に君の血を見せてくれ」


 そう言って真っ新な紙一枚と、複数の刃物を机の上に並べた。どれもこれも刃こぼれしている。


「何の意味がある?」


「度胸試しみたいなもんさ 入る時に皆やるのさ」


「……」


 おもむろにインガは舌の先端を噛みちぎり、舌一片、紙の上に吐き捨てた。


「インガ 君を『雨』が歓迎する」


 魑魅魍魎ちみもうりょう跳梁跋扈ちょうりょうばっこするアンダーグラウンドでここ最近頭角を現し始めた暴力組織『雨』。


 インガが国家警察を辞めたというのは偽りだった。インガが任された職務は『雨』を壊滅させ、国家の安全を保障すること。


 今、インガの薬室チェンバーに弾薬が込められた。




 突然、銃声が響いた。





✴︎後書き

最後まで読んで頂きありがとうございます。

ハート 星 フォロー よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る