第30話

 真っ暗な部屋の中で、青白い光がモニターから漏れる。

 部屋からは、換気ファンと何やら泣き声が聞こえてくる。


「・・・・・・死にたい」


 モニターの前に座る少女はその表情を曇らせる。



 243:匿名

 ねむれむはもうオワコンやなw


 278:匿名

 アイツ嫌いだったから記録塗り替えられてクソ嬉しい


 290:匿名

 配信者杯強さ別ランキング、降格してて草


 310:匿名

 早く自殺とかしてくれないかな


 

 少女はそれを見て涙を流す。

 そして思う。

 

 自分の価値はもう無いのかもしれない、と。

 それに、感情のままに人に迷惑もかけた。

 


「・・・・・・早く死なないかな、私」


 

 ダイレクトメッセージが届いています

 内容:殺す

 明日、お前を殺しに行く。覚悟しとけ



 ダイレクトメッセージが届いてます

 内容:応援しています

 ねむれむさんの配信が生き甲斐です!どうか配信活動、頑張ってください!



「・・・・・・違うんだよ、そうじゃないんだ」


 

 そんな言葉を言ってもらいたいんじゃない。

 


 ダイレクトメッセージが届いています

 内容:最近おもんない

 配信おもんないぞ、早く死ね



 〇〇さんの投稿

 ねむれむももう潮時かな。大人しく配信やめた方がいいと思う



 ダイレクトメッセージが届いています

 内容:死ね死ね死ね死ね死ね

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね



 〇〇さんの投稿

 あの配信者って何が面白いの?みんな好きだ好きだって言ってるけど俺には全く良さが分からん。



「やめて・・・・・・やめてくれよぉ」


 どれだけ祈っても、現実は変わらない。



 ダイレクトメッセージが届いています

 内容:死ね

 シンプルに死ね


 ダイレクトメッセージが届いています

 死ね 

 

 ダイレクトメッセージが届いています

 嫌い


 ダイレクトメッセージが届いています

 消えろ


 ダイレクトメッセージが届いています

 頑張って、応援してる


 ダイレクトメッセージが届いています

 10層攻略頑張れ


 ダイレクトメッセージが届いています

 キモい


 ダイレクトメッセージが届いています

 マジでキショいから消えろ


 

「・・・・・・やめろ、やめてくれ!もう、何も言わないでくれ・・・・・・」

 


 心が崩壊する。

 悪意と好意の目線により、彼女の精神は破壊され尽くしていた。


 

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています

 ダイレクトメッセージが届いています



「誰か、助けて・・・・・・」


 

 それは、心の叫びだった。

 悲痛な、未熟なとある人間の本心であった。

 

 しかしながら、決してその声は届くことは無い。

 そしてその事を少女は痛いほど知っていた。



「ああ、そうか。誰も助けてくれないんだった・・・・・・」



 人は追い詰められた時、笑うらしい。

 少女もまた、笑っていた。

 その瞳は絶望に染まっているが。



▼▲▼▲



 気づいたら歩道橋の上にいた。

 

 眼前には車が行き交う。


 夜10時に差し掛かり、人々は眠りにつかんとする時刻。

 少女もまた、眠りにつかんとしていた。


 霧雨が降っているが、少女の纏う防御結界により一滴たりとも少女に触れる事はない。



「もう、疲れた」



 そう呟き、下を見下ろす。


 建物から光が漏れ出て、まるでそこは光の河のようだった。

 幻想的なその光景に吸い込まれる。



「・・・・・・終わらせよう」



 歩道橋の手すりに立つ。


 そのまま重力に任せ飛び降りる。


 重力加速度に従い、地面に近づいてゆく。

 

 彼女の人生はそこで終わる、


 ──筈だった。



「身体強化!」



 紫電を纏う黒髪の少女が、彼女を空中で捕まえたのだ。



「助けにきたよ」


 彼女を捕まえた黒髪の少女は笑いながらそう言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る