第4話
「パラディン、カイル・タンゼロ卿! ダラス・ポンバルタ卿、イリヤー・ルス卿、お戻りです!」
衛兵が声を張り上げると同時、成人男性の身の丈の2倍以上の高さがある扉がゆっくりと開き、玉座まで真っ直ぐに続く赤い絨毯がカイル達の視界に現れた。
絨毯の両脇には騎士団員が左右対称に列を成している。
その向こうに待ち構えているのは大臣、婦人、そして賢王。誰もがカイル達の報告を待っていた。
絨毯の中心を突き進むように3人は玉座前に進み、賢王の前に跪いた。
「ブランデラ筆頭騎士団カイル・タンゼロ、戻りました」
「同じくダラス・ポンバルタ、戻りました」
「イリヤー・ルス、戻りました」
3人は目を閉じ頭を下げる。
「無事で何よりだ。顔を上げよ」
賢王の声が響き、3人は促されるまま再び正面を見た。
真白いスーツに紺碧の分あ厚いマントを纏った男。深く刻まれた皺。整えられた銀髪。
明らかに壮年の見た目の中で、目つきだけが若々しく、鋭く、瞳はギラギラと輝いていた。
賢王が口を開く。
「ここ数カ月のそなたたちの獅子奮迅の活躍は、この耳にも届いている。改めて感謝を述べよう」
「もったいなきお言葉です、賢王」
いくらか和らいだ賢王の声の波に対して、カイルは淡々と返した。
「しかし、だ。野獣の活発な動きを抑えるためとはいえ、そなたたちパラディンクラスの稼働がこうも頻繁にあっては、さらなる有事の際に対処が間に合わなくなる可能性もある」
「たしかに最近、増えちゃいますがね」
「そなたの代わりが何人でもいれば話は別だがな、ダラスよ」
「はっ!そいつは無理ですね!俺のこの力はそう簡単には…」
「ダラスさん、その辺で」
立ち上がり胸を張るダラスをイリヤーがいさめる。
「そなたたちの力を信じているからこそ、このような事態は一刻も早く解消するべきだ。そこで、そなたたち3人は敢えて騎士団筆頭から外し、新しく我が直属の独立部隊に編入する」
「はあっ!?賢王、そいつはちょっと無茶じゃないですかね!」
「俺も同感です、賢王。まずはあちこちの騒動を抑えていかないと…」
「いや、待ってくれ二人とも」
少々慌てる二人をカイルは制し、改めて賢王に向き直った。
「賢王、我々3人を取り込んだ独立部隊の構想がある、ということは、現在の野獣の動きの原因について、すでに何かお心当たりがあると考えてよろしいでしょうか」
「そのとおりだ」
即答する賢王の一言に、謁見の間の誰もがざわめきだした。
しかしカイルだけは表情も何もかも崩すことなく、王に向き合い続ける。
「承知しました。我ら筆頭騎士団パラディン3名、賢王の御心のままに」
「礼を言う」
「しかし」
少々語気を強めたカイルの姿勢に再び視線が集まった。
「そのお心当たりとは、いったいどのようなものなのか。お教えいただきたいのです」
「ふむ」
カイルの真っすぐな視線を受け止めた賢王の表情は変わらない。しかし、空気は少しずつ重くなっていった。
やがて賢王が口を開く。
「魔人の糸」
「魔人…?」
「かつて魔物と野獣を統べた唯一の存在、魔王。そやつが残したとされる膨大な魔力が具現化したものだ。もっとも、糸と言われているが、果たしてどのような形状になっているかは一切不明だ」
「その魔人の糸が、現在の野獣たちの活発な動きに関係がある、と?」
「北部のユーゲンタイア連邦からの情報では、遥か北、魔王城跡から計測される魔力量が突然跳ね上がり、数日後に一瞬で消え失せたという。野獣の活発な動きは、その2日後からだ。おそらく、魔人の糸の発生とともに、それが移動した」
「……」
賢王はゆっくりと立ち上がり、カイルたち3人の表情を確認し、言葉を続けた。
「命を下す!カイル・タンゼロ卿。ダラス・ポンバルタ卿。イリヤー・ルス卿。そなたら3人を魔人の糸捜索の特別部隊として再編する!このままでは野獣だけでなく、ほどなくして魔物の発生につながるだろう。どこかに消えた膨大な魔力の源である魔人の糸を見つけ出し、我がもとへ持ち帰れ!」
「「「はっ!」」」
賢王の命令は絶対。3人はただ跪き、頭を垂れるのだった。
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