4. クランテジムについて

 クランテジムは一つの広場と、東西南北に分けられた4つの空間からなる国にございます。


 広場の中央には、小さな切り株が一つぽつんと遺されており、周りには小川が流れております。


 そして、東には花芽吹く心地よい小雨の街、西には生命伸び盛る暑天の街、南には草花散り溜まる赤茶色の街、北には冷気が唱える死の街に続く扉がございます。すなわち、これがクランテジムにおける四季の様相でございます。


 街ごとの季節は春の街であればずっと春、冬の街ならば何年経とうが冬といったように、永久に変わることがございません。夏の街の住人が涼みたいのであれば、日陰を見つけるか、さもなくば冬の街に赴くしかないのです。


 四方に折々の季節がまるで展示されているかのように居座っている一方、国の中央に位置する広場はどのような具合かといいますと、そこは暑くもなければ寒くもなく、涼しくもなければ暖かくもなく、地の匂いを覚め起こす雨や、死を助長する冷たい雪も降らず、足踏みに楽しみを見出す溜まった落ち葉や、飛んだり這いずる虫の姿もなく、まるで道路沿いに植えるだけ植え、面倒な手入れをしたくないがために、首を切られたが如く剪定された欅並木のように、全くの無味乾燥の地帯となっております。


 広場には多くの浮浪者がおり、そのほとんどは罪を犯し、街を追放された者どもでございます。其奴らは、街へ出入りすることは許されず、闇に覆われているかのようにつまらぬ空間で、惨めな一生をただ消費するというわけにございます。


 さて、クランテジムには奇妙な法がありまして、他の街の季節を貶すのは人を殺めるに等しいくらいの大罪中の大罪と定められているのでございます。


 各街には四季省の秘密警察が潜んでおり、国民の動向を日夜監視しているわけであります。つい口が滑って「西の街なんてどこにいっても暑いったらありゃしない。それにくらべて、うちはいつでも心地良い暖かさで…」や「南の街の木の葉なんて黄色や赤に染まってごちゃごちゃして下品なこと。やっぱり葉の色はうちみたいに緑一色のほうが落ち着きがあって…」なぞ言おうものなら、すぐ秘密警察が飛んできて、異分子として摘発されてしまうという次第にございます。


 裁判なぞあってないようなものでございます。なんせどれほど有能な弁護人を置こうが、どれほど反省の意を示そうが、十中八九「広場送り」に処されてしまうのですから。


 無色の牢獄に囚われた罪人のほとんどは3年以内、いわば我々が4度変わりゆく自然のありさまを、3回見届ける前に、“季節欲しさ”に発狂して死ぬと言われております。


 ちなみに、国の長はどの街に住んでいるかを申しますと、何でもクランテジム王家は代々、冬好きな者が多いらしく、王宮は北の街に置かれているとのことでございます。


 私が当時クランテジムを訪れた際に王であった者は、他季節に寛容で、冬以外の季節の事象にも関心を寄せ、秋の街の自然科学者や、春の街の郷土史家などを宮廷に招き、季節談義に花を咲かす、この珍妙な国のトップにふさわしい、才知に満ちた人格者でありました。


 とまぁ、クランテジムという国についてはこのくらいで終わりにさせていただいて、次なる国をご紹介させていただきとうございます。


 あっそうそう、季節といえば東の島にこれまた変わった国がございまして、その国の民はまるでクランテジム人が自分の街の季節を誇るように、自国に四季があることを自慢するのでございます。どうやら彼の国の民は、他国にはめぐる季節の変容なぞ存在せず、代わり映えのない自然を愛すことしかできないと。それに比べ我々は折々の自然の風情を嗜む、恵まれた存在であると信じてやまないのです。


 ですから、私が他国の四季の喜びを謳った詩などを見せてやりますと、「だが我々こそ本物の四季を味わう感性を持ち合わせている」と決して引き下がらぬのです。

 この国についても後々語りとうございますが、先ずは摩天楼の街ケシュタクについてお話いたしましょう。

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