第14話

 この広い神社の境内には、鳥居。社務所。稽古場。国中から呼ばれた大人の男たちのいる各部屋や、特別な朱色の間や修練の間などがある。

 修練の間は龍神と戦い乙姫を説得する上では必要な場所である。

 武たちはこれからどうなるのだろう?

 私の知っていることにも限界があるが、武たちがこれから龍神と戦うのはもうすでに決まっているのだろう。

 

 サンサンと照り続ける中庭に、高取がいた。よく掃除された庭で、小鳥が木々の間からさえずって、飛び跳ね、雨に濡れることもなく。まるで、ここだけが別世界のようである。

 高取は武を寝かすと、何かを考えながらトボトボとここまで一人歩いてきたのだ。巫女装束であるが、胸元からタロットカードを取り出したようである。

「お止めなさいな」

 高取は声のした方に、即座に振り返った。

 地姫である。


 地姫は腰まである銀髪のことのほか美しい巫女である。静かな足音で他の巫女を連れ廊下を歩いていたのだ。

 丁度、もうすぐ昼餉なので、その道中である。

「何かしてないと、いけない気がしてきたの」

 高取はタロットカードを固く握りしめて頭を軽く振っている。

 きっと、これからのことで混乱しないようにと占いたいのだろう。

「そんなに心配しなくてもいいのですよ。この先のことは自然に任せましょう。きっと、あの男は大丈夫。……武という男はきっと辛い修練をも乗り越える力を得るでしょう」

 そう話すと、地姫は連れの巫女たちと共に、再び廊下を歩いて行った。

 高取も武に興味を持っているのだろう。あるいは、やはり好意を寄せているのだろう。何かしらの嫉妬を抱いているのだろうか?

 違うかも知れないが。

 きっと、武にこれ以上邪魔が入らないようにと。

そんな一心で、この先には自分と武の間には障害物は幾つあるのか?

なんとか、障害物を取り除いていかなくてはならない。

などと、武と自分の運命の全てを占ってみたかったのだろう。

 だが、これからの武には武運が必要だった。


 昼餉の時間には、大広間に武の姿はなかった。

 今も朱色の間で寝ているのだ。

 時々、うなされているが、怪我のせいだけではない。

わけは後に話そう。

 それぞれ1000人ほどが集まった昼餉の席の一端に、湯築はいた。

 なにやら辺りを見回しているが、致し方ないことである。だが、やはり隣の席の高取に聞いたようだ。


「これから、どうなるの?」

 高取は黙々と食べながら、少し離れた地姫と蓮姫と鬼姫の方を見つめている。

「今は、巫女たちと一緒にいよう。これからかなり危険だけど、きっと、武がなんとかしてくれるから」

 高取は色々と心配気な顔になっているのだが、努めて普通の声音で湯築と話している。さすがと言えるのだが、私も高取もまだ知らないところが多いのだ。

「高取さんは何を知っているの? あるいはどこまで? 稽古って一体なんなの?」

 湯築は和食で彩られた昼餉を、ちょいちょいつまんでは、疑問だらけの頭の整理をしたかったのだろう。

「多分、龍神と戦うのよ。これから……」

「え?」

 湯築はオーバーに目を回したようだ。


「あんなのと戦うの? 自殺行為じゃなくて?」

「ここは、そういうところ……でも、心配いらないわ。昔から戦っているといわれる存在しないはずの神社なの」

 湯築は大きな溜息を吐いて、黙々と食事を平らげていった。

 不思議なことが、連続して起きている。だが、湯築も高取もいい勝負だ。

「この料理。美味しいわ」

 湯築は、これからのことをあまり考えないようにしているようだ。あるいは混乱を静めたかったのだろう。黙々と料理に箸を運ぶ。

「ええ。そうね」

 対照的に、高取は不安でいっぱいなのだろう。

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