魔王を倒した女勇者、ヤンデレ大聖女に監禁される
雪兎(ゆきうさぎ)
第1話 パーティー解散と故郷への帰還
魔王を倒した事で、この世界に平和が訪れた。
そして同時に勇者である私の存在意義も消え去った。でも、それで良かった。勇者なんて硬っ苦しい肩書き、早く無くなって欲しかったし、なにより平和が訪れた証拠だからね。
そんな事を考えながら私についてきてくれていたパーティーメンバーを見やる。
魔法使いのリリィさん。15歳という若さで私のパーティーに加入したというのにも関わらず、脅威的な魔法で私達を助けてくれた。 魔力の量にも驚かされた。
弓使いのハルヴァさん。その集中力と正確さは目を見張るものがあった。遠距離からの狙撃は百発百中。彼も後方から私達を助けてくれていた。
盾使いのルーヴェルトさん。細身なのにも関わらずどんな攻撃も防ぐその力には驚かされてばかりだった。縁の下の力持ちとは正に彼の事を言うだろう。
白魔道士のヴィルさん。敵へのデバフや味方へのバフを的確に付与してくれた。あまり目立たないけれど確かに私達を助けてくれたし、彼が居たからこそ倒せた敵は多い。
大聖女のアリシアさん。私が勇者として選ばれた時からついてきてくれた人。規格外の回復魔法にはいつも助けられてきた。回復魔法以外にも様々な面で規格外だった。流石は大聖女と言うべきか。
そんな素敵な5人の仲間たちに恵まれた私は幸せ者だ。彼等がいたから魔王にも打ち勝てたと言っても過言では無いだろう。
「皆、今まで私についてきてくれてありがとう。貴方達みたいな素敵な仲間に出会えて私は幸せ者だったよ」
「おいおい、一生の別れみたいなこと言うなよ。俺達はいつでもどこでも繋がってる。きっとまた会えるさ」
そう言ってルーヴェルトさんはふっと笑う。
「ルーヴェルトさん……ふふ、そうだね。また、きっと会えるよね」
「はい、また会えます。会いに行きます、勇者様」
「リリィさんも……ありがとう」
あまり表情の変わらないリリィさん。でも確かに、微かにだけど微笑んでくれた。
初めて微笑みを見たかもしれない。
「僕の力を信じてくれた勇者様には頭が上がりません……ありがとうございました」
「ヴィルさんはとても優秀な白魔道士だよ。今までもこれからもね」
「! 勿体ないお言葉です……」
ヴィルさんはそう言ってふかぶかと頭を下げた。
本当にヴィルさんの補助魔法には何度も助けられてきた。詠唱もなしにバフを重複付与された時は流石の私も驚いてしまった。こんなレベルの高い白魔道士がいたなんて、と。
「貴女が助けてくれなければ、私は命を落としていました。そしてパーティーに入れてくださった時はこんな名誉なことがあっていいのかと、私でいいのかと思ったくらいです」
「ハルヴァさん、貴方だから仲間に入れたいと思ったんだよ。それに私の目に狂いはなかった」
「勇者様……」
ハルヴァさんは旅の途中で寄ったエルフの森の住人だった。弱り果てたハルヴァさんを魔物から助け出したのが出会いだったっけ。懐かしい……その後に私たちのピンチに颯爽と駆けつけて助けてくれた。
その時の弓の精度が今まで見てきた弓使いの何倍も良くて、思わずスカウトしてしまったんだっけ。快くついてきてくれて嬉しかったな。
「勇者様……」
「アリシアさん。今まで着いてきてくれてありがとう。貴女の回復魔法には私達全員何度も助けられてきたよ」
「ふふ、そう言っていただけて光栄です」
アリシアさんは本当にずっと着いてきてくれた古参だ。それに辛い時、いつも隣にいてくれたっけ。戦闘中の支援だけじゃなくて精神面的にも支えられていた。
「皆、本当にありがとう。パーティーは解散してしまうけれど、また会おうね」
「嗚呼」
ルーヴェルトさんはそう言うとくしゃりと私の頭を撫でた。
「ん」
リリィさんはそう言ってぺこりと一礼した。
「はい」
ヴィルさんはそう言って微笑みを浮かべた。
「ええ」
ハルヴァさんはそう言ってエルフ族に代々伝わるお辞儀をした。
「勿論です」
アリシアさんはそう言って涙ぐんだ。
これで、全てが終わる。
仲間達を見送り、私は一息ついた。
さて、これからどうしようか。久し振りに故郷に帰ろうか。全てやり遂げた事をお父さんとお母さん、そして兄さんに報告したい。それに、旅に出る際、戻って来たら旅の話を聞かせてくれと兄さんに言われていたし、色々話そう。
「よし、村に帰ろう」
私が住んでいた大好きな故郷、ククル村に。
いそいそと身支度を整え、念の為深くフードを被り宿を後にした。
*
本当にこの数年間は色んなことがあったなぁ。
馬車に乗りながらそんなことを考える。
女なのに勇者に選ばれた時は本当に驚いてしまった。家族も私が魔王討伐のための勇者に選ばれて酷く心配そうな顔をしていたっけ。
兄さんは反対してたっけなぁ……
「―――フィア、お前が勇者に選ばれた」
村長のその言葉に私と家族は驚きを隠せなかった。
驚いて固まる私の代わりに兄さんが口を開いた。
「フィアが、勇者……ですか……?」
「そうだ」
「……勇者って、危険な目にあうかもしれないんですよね? なら反対です。フィアじゃなくて別の奴が勇者になればいいでしょう!」
「フィアにしか成し遂げられんことなのだ」
「なんでそんな断言出来るんですか!」
村長は兄さんに怒鳴られても顔色一つ変えずに続ける。
「フィアは神に選ばれし存在なのだ。お前達も薄々勘づいていただろう? フィアはただの少女ではない、と」
「……」
村長のその言葉に兄さんは言葉を詰まらせる。
どうやら兄さんは思い当たる節があったようだ。それに、お父さんやお母さんも目を伏せていた。
本当に私が神に選ばれた存在で、勇者になる素質の持ち主なら、その使命を果たさなければならない。
私は覚悟を決め、口を開く。
「村長、私……勇者として魔王を倒します」
「フィア……!」
私の発言に兄さんは驚いた表情を浮べる。
「確かに不安もあるけれど、私にしかできないことなら、やるよ」
「でもな、本当に危険なんだぞ」
「分かってるよ兄さん。でも、世界の命運が私にかかっているなら、やらなきゃ」
でも……と渋る兄さん。
勇者になれば危険と背中合わせになるって事は重々承知している。
でも、私に守れる命があるのなら守りたい。
「約束する、必ず帰ってくるって」
「…………分かった」
「! 兄さん……わっ……!」
兄さんはぎゅっと私を抱き締める。
私はそっと兄さんの背中に腕を回した。
「帰ってきたらまたこうして抱き締めさせてくれ」
「うん」
兄さんや、お父さんお母さん、そして村のみんなのためにも生きて帰ってこなきゃ。
旅立つ日、村の皆が見送りに来てくれた。
頑張れと、生きて帰ってこいと声をかけられながら私はククル村を旅立った―――
「―――みんな、元気にしてるかなぁ」
馬車から見える景色はどんどん懐かしいものへと変わっていった。
もうすぐククル村だ。
馬車に揺られながらどんな話をしようか頭の中でまとめる。多分話しているうちにあれもこれもと話したいことが出てきてまとめた意味が無くなる気がするけれど……一応ね。
「お嬢さん、ククル村に着くよ」
「あっ、はい。ありがとうございました」
しばらくして馬車が止まる。
外に出ると懐かしいククル村の入口が目の前にあった。
大きく深呼吸をして村に足を踏み入れる。
深くフードを被っていたから最初のうちはみんな私だと分からなかったみたいだけど、フードを取った途端、村のみんなはすぐに私だと気付いたようだ。
村から出る前は短かった髪が肩下まで伸びていたから少し印象が変わっているかもしれないね。
「フィアお姉ちゃんだ!!!!」
村の子供達が私の元に駆け寄ってくる。
そして村のみんなが私の帰還を喜んでくれた。相変わらず暖かい村だ。だから私はそんなククル村が大好きなんだ。
「フィア!」
「! 兄さん……! わぷっ」
兄さんは私を見つけるなり抱きついてきた。
「おかえり、フィア」
「ただいま、兄さん」
久し振りの兄さんの温もり……落ち着くなぁ。
兄さんの背中に腕を回し、目を閉じる。
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