鮎沢家
「すごいな」
「バアサンの技を見た。二十年ぶりかな」いつの間にか叔父の
「おばあちゃんに仕込まれましたから」
年配者相手の楓胡は可愛い娘に擬態する。
それにしてもコイツ、レスリングに
改めて三姉妹とジジイ、
「まさかいとこが三人増えるとは思わなかったぞ」雷人が言う。
「俺もだ」俺はジジイと叔父を
聞いてなかったぞ。きょうだいは男だと思っていたのに三姉妹とはな。
「言っておらんかったか。カッカッカ」何がカッカッカだ。
「道場を忍者屋敷にしたんだな」俺はそれも気になったから訊いた。
「これからは忍術も教えていこうと思う。近所の子らに」何を教えるつもりだ。やめてくれ。
「まあ素敵! 私にも教えて!」楓胡が目をキラキラさせた。
「良いじょ」ジジイはご満悦だ。
そんなに機嫌をとるな。調子に乗って手がつけられなくなる。
「楓胡は可愛いのお」ジジイが楓胡の頭を撫でる。
エヘヘと笑う楓胡。どこまで本当の顔かわかったものではない。こいつは大人に気に入られる術を身につけている。
俺たちは八畳二間をぶち抜いた居間に勢揃いした。ジジイ
夕食には少し早い時間だったのでお茶を飲みながら話をする。
とんだヤンチャになっているではないか。金髪に染めてバイクを乗り回し、地元のヤンキーたちをしめる。
そんな目立ったことはしていないぞ。俺はどちらかというと暗躍したい性格なのだ。今も御堂藤学園でおとなしいモブ男を演じているつもりだ。
「学校ではおとなしくしているのですか?」
「クラスが異なるので正確なことはわからないけれど――目立たない子みたいね」
思わせぶりな言い方をするな。
「生徒会とは関わらないからな」俺は言った。
「あら――この間休日にわざわざ生徒会室まで私を訪れてくれたじゃない」
「あれはその……」シスコンムーブなのだがな。
「そういえば
「ぜひ聞きたいわ」楓胡がせがむのでジジイも嬉しそうだ。
「私は別に学園をしめているつもりはありません」泉月はいつも真顔だ。
「あんた――自覚がないようだから言うけれど、結構アンチが多いわよ」桂羅が口を出した。「あんたにそっくりというだけで私は距離をおかれ、腫れ物にさわるみたいな扱いを受け、廊下を歩いたら好奇の目で盗み見られるもの」
「それはお前が氷みたいな冷たい顔でひとを寄せつけないからだろ」俺は言ってやった。
「は? 何言ってるの!?」
「お前――ずっとひとりで昼飯食っているじゃないか」
「よく見ているわね。クラスも違うのに。わざわざ見に来てくれているんだ。ふうん」
「た、たまたま目に入っただけだ」
「火花ちゃんは、妹二人のことがとても気になるのよね」楓胡はいつも呑気だ。「どうせなら私のことも見ていて欲しいわ」
「いや、お前は新聞部のパパラッチに擬態してあちこち暗躍しているだろ。見なくてもわかるわ」
「ほんとうに――仲が良いのねえ」玲子叔母が目を細めた。「安心したわ」
「いつもこんな感じですう」楓胡も笑う。
「さて、夕食の前に順番にお風呂に入ったら?」
「そうですね。一緒に入ろうか」楓胡が飛鳥に言った。「昔、一緒に入ったものね」
「そうですね」飛鳥も嬉しそうに頷いた。
「
「「「は?」」」
「昔、四人で入ったじゃない」
「それは幼稚園のころだろ!」
「今でも一緒に入っているし」
「「え?」」
「いつものことじゃねえ!」俺は訂正しなければならなかった。
「三回は入っているわよ。それにこの間は泉月ちゃんとも入ったみたいだし」楓胡が俺と泉月に視線を送った。
「ホントなの? ホノ兄」飛鳥が信じられない!と言わんばかりの顔をして俺に詰め寄った。
「この連中、ちょっといかれているから」
そう言わないと自分まで同類と思われるからだろう。しかし俺だって望んで一緒に入ったわけではないぞ。勝手に入って来たのは
「良かったらおじいちゃん、お背中を流しますよ」楓胡はジジイにまで色目を使った。
「それは良いのう」ジジイの顔がほころびすぎて崩壊している。
「ダメだ! それは!」割って入ったのは
何だかんだ言いながら叔父は良識がある。その良識は
結局、楓胡と泉月、飛鳥の三人が一緒に風呂に入ることになった。
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