第163話 記者到来

イギリス、BCC社。


当社は、我が英国の公共放送団体だ。


そして私は、その会社の記者である、エリック・エドガー。


これから、日本の万博に行き、取材をする……。




日本。


ジャップ共は、我々西洋人に近代化させてもらった猿の分際で、今は何故か覇権国家のようなツラをしていて不愉快だ!と。


そんなことを、老人達はよく言っている。


だが私は、ダンジョンショック後の産まれ。


本当に豊かで、日本よりも「上」だった西洋の姿を見たことなど、一度もなかった。


そんな私からすれば、老人達こそ、今はもうありもしない過去の栄光に縋っているように思える。


太陽の沈まぬ国だとか言って、世界中に植民地を持っていた頃だって、もっと昔。近世の話だ。


五十年前の時点で、もう既に日本には資本力で負けていた。


その時代から数十年が経った今……。


我々は、その数十年前という過ぎ去った前の世代からすらも考えられないほどに、没落している……。


欧州、かつて「先進国」などと自称していた国々は皆、ゲートコミュニティ……その名の通りに門壁に囲まれた「城塞都市」のようなところ以外は無法地帯も同然。


ロンドンやバーミンガム、あるいはグラスゴーなどの都市圏は、まだまともに運営されているのだが……、少し田舎に行けば、マフィアや不法移民の暴徒が大量にいて、警察機関は殆ど機能していない。


アメリカや、欧州の他の国々も同じだ。


しかしそれも世界的に見ればかなりマシな方で、アフリカや南米は中世並みの生活に戻り、アジアやロシアでは民族浄化と奴隷化によって、人権という概念すら失われて久しいと聞く。


日本だけなのだ、五十年前よりも「良くなった」と言える国は。


確かに、国民全員が武装化して治安は悪くなったのかもしれない。モンスターというものも危険だろう。


だがそれでも、日本は今でも、マフィアが街に溢れていることもないし、ゲートコミュニティの中にいないと治安が保障されない訳でもない。


そして何より、豊かだった。


これだけで、私は、「黄色い猿が調子に乗っている」と切り捨てることはできないと思っている。


寧ろ、白人は人類の優越種!などと嘯くのならば、他人の良いところは偏見なく取り入れるべきではないだろうか?


そう思いつつ私は、撮影陣を引き連れて、飛行機に乗り込んだ……。




日本の航空会社、NALは、ボーウィング社製のジャンボジェット機をDマテリアルによってフルカスタマイズしたという。その自慢のジェット機とやらに乗り込んでみた。


NALのジェット機は、万博仕様で血のように赤い桜が描かれている。


この桜は、ソメイヨシノという桜にDマテリアル肥料を与えることで変異種となった桜、『紅蓮天乃』と言うらしい。尾翼には菊花紋もある。


そして内装は……。


「「「「おお……!」」」」


高級な木材のフローリングに、華美過ぎない質実剛健ながらも機能美溢れる調度品。


私達が乗るビジネスクラスの席でも、仕切りとリクライニングソファのようなものがあり、一人用の席に二人から三人は座れてしまいそうな広さ。


そのソファも、照明の光を反射してキラキラと照り返す、綺麗な本革の、しっかりしたものだった。


机もあり、それは、マホガニーのような木目をした、半透明のプラスチック。……いや、触れてみると、これは木材だ。きっと、そういうDマテリアルだろう。


『乗客の皆様にお伝えします。本機は、これから離陸しますが、お客様におかれましては、シートベルトや着席をせずとも結構でございます。本機は、魔法により機体を完全に制御しているため、揺れることはございません』


珍しげに機内を眺めていた私の脳内に、突然、女性の声が響く。テレパシー?これも、悪魔的存在による改造の力?


欧州なら当たり前の考えとして、神は、聖書の神のみが本当の神。多神教やアミニズムというのは、野蛮で遅れた考え方だ。


多神教の神など、悪魔や堕天使のようなものだろうに……。


しかし、その悪魔と契約して、日本人が得た力がこれか……。


これだけは、本当に理解できないな。


聖書の神によって与えられた我々人間の肉体を、悪魔の手によって改造されて、自ら化け物になるなんて。


確かに、力を得ることは大切なのかもしれないが、もっと根本的に、倫理観がないように思える。


さて、この飛行機は全く揺れずに飛ぶらしいが、にわかには信じられないな。


とりあえず、離陸前にトイレに……。


……え?あ、もうこれ、離陸しているのか?!


参ったな、本当に揺れないなんて……。


多少は揺れがあって当然だと思っていたのだが……、やはり、日本の技術力は侮れないな。


エルフのキャビンアテンダントにトイレの位置を聞いてから、トイレへ向かう。




『こちら、ウェルカムドリンクとなります』


えっ、何これは……?


……溶かした黄金?


……飲んでみようか。


一応、カメラマンに撮ってもらいつつ……。


お、これは……、うまい!


アップルサイダーだ!


『こちらは、黄金の林檎を使ったアップルサイダーでございます。一歳若返りの効果と、虫歯治療効果がありますので、差し歯や入れ歯などをお使いのお客様は、テーブル下のゴミ箱に廃棄なさってください』


「なんだって?!」


うっ……、奥歯が、奥歯が痒い!


「う、口の中に……、こ、これは差し歯!」


虫歯で昔に抜いた奥歯が……、さ、再生したのか?!


やはり、日本人の技術と悪魔の力はとんでもないな……!


悪魔の力、確かに悍ましく感じるが、イギリスの富裕層や王族が、税金で若返りの薬を買っているのは周知の事実。


悪魔の力だとしても、便利なものは使うべきだろうな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る