第69話 冒険者達の日常

「きええええっ!!!!」


「あーはいはい」


「ぐああああっ!!!!」


魔力を固めた木刀で殴る。


相手は、設楽九郎だ。


無論、百階層到達により人を辞め鬼腕人(オーガス)となっており、赤黒い両腕に額に角、更に牙と赤い瞳に変化していた。


ここ、武蔵大異界こと、ダンジョンシティに存在する『日本冒険者隊』の本部には、各支部に転移する為の『転移門』……、いわゆるワープゲートが設置されており、それを使って日本各地の一流冒険者が俺に挑んでくる。


広島を本拠地にし、『日本冒険者隊』の他にも『日本武道家連盟』のクラン長や『刀匠連盟』のスポンサーなどを務めている設楽は、度々こうして東京にある本部に来る。


そして、俺との立ち合いを望むのだ。


まあ、俺もダンジョンに潜っていない時は暇なので、相手してやっても構わない。


故にこうして、日本冒険者隊の本部にある演習場で、稽古をつけてやることは割と多い。


「惜しかったな〜、三手目の判断が駄目だぁ、ありゃ前に出るんじゃなく一歩退かなきゃ」


「わしの手の内が全部読まれとるんか……」


「いやだって、お前、迷ったら前に出る癖ついてんだもん。それさえ分かってりゃいくらでも潰せるわ」


「むぅ……ん。次こそは勝ってみせるけぇ、待っとれ!立ち合い、ありがとのう!」


そう言った設楽は、広島ダンジョン産の火山牡蠣という食材を置いて帰っていった。


広島ダンジョンなあ……、あそこ、セーフエリアとかに回復温泉があって、めちゃくちゃ最高なんだよなあ……。


最近はサウナもできたとか……。


また今度行くか……。


そんな訳で俺が、火山牡蠣を演習場の端っこで火魔法を使って焼いていると……。


「こんにちわですわー」


と、草薙鷹音がやってきた。


一応この女も、日本四大財閥のうち一つ、四菱の創始者の家系である草薙家の娘なんだとか。


つまり、名実共にお嬢様だな。


いや、ボディの方は身長180cm体脂肪率15%のムキムキ女だが。


しかも、白銀色の爪と牙に、虎のような手足を持ち、狼の耳と蛇の尻尾、そして鷲の羽に獅子の鬣を生やした、獣牙人(ビースター)でもある。


「暇ですの?」


「暇じゃねーよ、普通に休暇でリラックスしてんのに、お前らみたいなのが出てきて構ってくれとねだってくるんだもんよ」


「あらまあ、ごめんあそばせ?こちら、名古屋ダンジョンのダンジョン醤油ですわ」


俺はそれを受け取って、焼いている火山牡蠣に垂らす。


じゅわっ、いい香りがふんわり広がる……。


そろそろ焼けたかな、と言うところで。


「いただきィ!」


横から北斗が転移魔法でいきなり現れて、焼けた火山牡蠣を奪った。


星脳人(スターナー)となった北斗は、額に青水晶のようなものができ、全身に光る幾何学的な模様が浮き上がっている。背中からは青白い触手が数本生えていた。


その北斗は、タングステンの三倍は硬いという火山牡蠣の殻を手で砕き、中身の身を啜った。


「じゅるっ!んめー!」


そして、北斗の背中の触手のうち一本は、海老名ビールを持っており。


「あー、酒もうめー!」


触手でビール瓶の先端を切断し、そのままラッパ飲みしていた。


ふざけた野郎だ。


俺も、触手を一本千切って酒瓶を奪い、飲酒しながら牡蠣を食う。


海老名ビール……、ポーションベース水とダンジョン産の麦とホップを贅沢に利用した新作、海老名Dビールだとか?


ああ、美味い。


最高だな。


ついでに、北斗の背中の触手を魔法の火で炙って醤油をつけて食う。


「……おお、思いの外いけるな。イカっぽい感じだ」


「ええ、本当ですわね。生でもいけますわ」


草薙も、その鋭い爪で北斗の触手を切断し、俺の出している炎で勝手に炙って食っていた。


「ええい!ヤメロォ!俺を食うなァー!再生すんの結構疲れるんだぞこれ?!」


「手土産もなく日本冒険者隊隊長様に会いにくるカスは食われてもしゃーねーわ」


「オッ、今流行りのパワハラかァ〜?」


と、そんな時である。


首に鰓、背中に鰭、手足に水掻きのある、濃い顔の少年……。


海千がやってきた。


「赤堀さん、時城総理から要請がありました」


渡された書類を読む。


えーと、何々……?


「北方領土付近と尖閣諸島付近で日本冒険者隊の軍事演習、だと?」


おいおい、狂ったかあのジジイ?


俺は時城のジジイに電話した。




「おいジジイ、狂ったのかお前?」


『ご挨拶だな、婿殿よ。狂っているのはどちらかといえば世界の方だ』


はあ……?


『はあ……、その様子だと知らんのだな。少しはニュースを見ろと言っているだろうに』


「小言は結構だ、何が起きた?」


『二ヶ月前だ。アメリカから、在日米軍の駐留経費の引き上げを命じられた』


「それくらい……」


『四倍だ』


「……はあ?」


『ダンジョンショックの際に兵員の過半数を撤退させておきながら、駐留経費を四倍の八十億ドル支払えと一方的に宣告された』


そりゃあ……。


『現在、1ドル二百円を超えかねないほどの驚異的な円安の中、八十億ドルも払える訳がない。当然、儂は拒否して交渉を試みた』


「で?」


『それでも、軍国化する日本への制裁やら何やらと理由をつけられて、最低でも七十億ドルだそうだ。とてもじゃないが払えないと拒否したところ、安全の保障ができない、在日米軍をさらに減らすと言われた』


「つまり?」


『どうやら日本は狂ったと思われているらしく、難癖をつけてから占領し、戦後のようにまたGHQのようなものを置いて立て直しをするつもりらしいな。アメリカ流のやり方で……』


なるほど、まあ、理解できるな。


俺達日本人自身も、外国から見たら狂っているとしか思えない動きをしているのは自覚している。


だが、こうでもしない限り国が保たないこともまた理解しているので、何とも言えないんだが。


『それを受けて、中国とロシアが怪しい動きをしている。御影流のスパイの集めた情報によると、九州は中国、北海道はロシアで分割統治するという案が共産圏でほぼ合意された状態にあるらしい』


因みに、本州はアメリカが取るんだとか。


『簡単にまとめれば……、このままでは戦争まで秒読みだ。だから、軍事演習をして、外国の侵略を思い留まらせるようにしたい』


「ふむ……」


『威圧的な軍事演習となるが、このままだと戦争になる。それなら、やるだけやってみるべきだろう?幸いにも日本冒険者隊は近代兵器など一切使わんからな、演習をしても予算もほぼかからないし』


なるほど、なるほど。


「つまりまたいつもの、賭けに出ないと死ぬギリギリ日本ってことだな!」

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