第35話 手取り足取り

はい、六月。


今日は、六月一日。


五月下旬に、サラマンダー狩りを本気でやって、とりあえずの実験炉で必要な分は集めてきた。


なんで俺は、これから、嫁(予定)の杜和と一緒に、ダンジョンの浅い階層を軽く回ることとした。


これは、杜和の実力の確認も兼ねている。




「デートっすか?!」


おっと、杜和がアホなこと言い始めたぞ。


「舐めるなこの野郎」


頬をつねる。


「いだだだだ!痛いっす〜!」


殺し合いの場でそんな浮ついたことしてられるか。


俺のように、ある程度、常在戦場の意識を持っているんなら、多少油断しても構わんが、こいつはまだまだ精神面が未熟だ。


油断してもいいってのは語弊があるな。


油断と言うより、気を抜くと表現すべきか。


俺のように、自然体の状態でも危機に反応できるなら、いくらでも気を抜いていて良いさ。


だが、杜和はまだまだ未熟。


鍛えてやらねば。


まあ、一〜五階層は余裕だったな。


では次は、新六階層だ。

 

ここでは……、コボルトと角ウサギ、それに光のエレメントだ。


あらま、変わってら。


光のエレメントは、なんかこう、ピカピカ輝く結晶に羽が生えているやつ。


「杜和」


「はいっす!」


さて、どうだ?


打刀を正眼に構える杜和は……。


「はあっ!」


素早く踏み込んでコボルトを袈裟斬りにした。


うむ。


背中を叩く。


「うわっ?!ど、どうしたんすか?」


「背中にも目をつけろ」


「無理難題っすね……」


「簡単だぞ?気配を読め」


「いやー、キツいっす……」


コボルトからは『回避』のスキルスクロールが出た。角ウサギからは『跳躍』だ。光のエレメントからは『光魔法』のスキルスクロールが出るみたいだ。


角ウサギは肉が美味いぞ。高級肉として出回る予定だそうだ。


俺も食ってみたが、高級な鶏肉のような濃縮された旨味と、密度高めの肉感がたまらない美味さだったぞ。


光のエレメントから取れる『光石』も、何かに使えるかもしれないと研究されている。今のところ、永遠に光り続ける石でしかないのだが。




続いて新七階層。


モンスターは、ゴブリンシールダーとゴブリンランサー、ゴブリンメイジだ。


「よし、行け」


「はいっす!」


『ギャッ!ギャッ!』


うーん?


折角、盾持ちとか槍持ちがいるのに、あー、なんて言うんだったか……、そう!中世みたいなファランクス、密集陣形にならずに、バラバラに襲いかかってくるゴブリン。


おいおい、こんなん楽勝だろ。


「やあっ!」


おっ、足払い。


ゴブリンシールダーを転ばせてから一撃。


うーん?


ああ、そうか。


杜和は、自分の特技である模倣能力で、俺やジジイの技を、格闘ゲームのコンボパーツのように覚えてるんだ。


それを、格闘ゲームの如く、適切な場面で繰り出すようにしているのか。


うーん、まあ、上級者には通用しないだろうが、つい先日まで素人だった杜和がここまで戦えてるなら上等だろ。


守破離って言葉がある。


まずは教えられたことを守り、やがてそれを破って、離れて、自分の技を身につける。これが武術ってもんだ。


その点、「守」を完璧にできているんだから、杜和は、良い初心者だろう。


幸いというべきか、型はそのままパクりだが、技の出し時は割とわかっている様子。


才能はあるんじゃねえかな?


「やあーっ!!……やったっすよ!」


「よし、よくやった」


ゴブリンシールダーから『防御』を、ゴブリンランサーから『強突』を、ゴブリンメイジから『火魔法』をゲット。




新八階層。


ゴブリンナイト、レッドドッグ、叫びニワトリってところか。


叫びニワトリに見つかると、大声でコケコッコー!と鳴かれ、敵が集まってくるって寸法だ。


だがまあ、この辺は、愚直にレベルを上げてれば余裕だな。


特に見せ場もなく、あっさり倒した杜和。


「どっすか?」


「えらいえらい」


「投げやりっすー!もっとちゃんと褒めて欲しいっすー!」


ゴブリンナイトが『挑発』、レッドドッグが『嗅覚強化』、叫びニワトリが『探知』のスキルスクロールを落とす。


叫びニワトリの肉も、馬鹿みたいに美味いらしい。高級肉として流通が始まるそうだ。




新九階層。


剣と盾持ちのスケルトン、ジャイアントトード、お化けニンジンだ。


特に連携する訳でもないので、楽に倒せる。


スケルトンは『連撃』、ジャイアントトードは『水魔法』、お化けニンジンは『足払い』のスキルスクロールを落とす。


ついでに言えば、ジャイアントトードとお化けニンジンは食えるぞ。


カエルは俺もウシガエルを捌いて食う訓練をやらされたんだが、意外とイケるんだよな。


このお化けニンジンってのはクソデカいし味も最高だった。


近所に配ってもなお余ったので、グラッセにして食ったっけ。砂糖をあんまり入れていないのにかなり甘くなった記憶がある。




そして、新十階層……。


ゴブリンシャーマン、ゴブリンスロアー、そしてボスにゴブリンチャンピオン。


シャーマンとスロアーは雑魚なんでなんでもないが、チャンピオンは初心者の壁なんじゃないのかね?


杜和は……。


「う、やあっ!ああっ、駄目っす!なら、やああっ!」


具体的にどうとは言わないが、少々手古摺ったな?


あーあ、こりゃ再教育やろなあ。


シャーマンからは『瞑想』、スロアーからは『投擲』、チャンピオンからは『威圧』が取れた。




そうしてこうして、杜和のステータスはこんな感じ。


×××××××××××××××

白崎杜和

人間

剣士

Lv20


HP:65

MP:85

STR:41

DEX:45

VIT:36

INT:75

MND:70


SKILL

《斬撃》《強打》《強突》《回避》《威圧》

×××××××××××××××


あ、因みに、俺も『斬撃』やら『強打』やらを使ってみたが、基本的に、強い一撃を出せるってだけだな。


『斬撃』なら、普通に斬るのの三倍くらいの威力が出る感じ?その代わり、MPを2消費して、リキャストタイムが三秒ってところか。


で、十階層まで攻略した感想だが……、これってソラの大甘設定だよな?


有用なスキル持ちのモンスターを配置して、冒険者に「どうぞ強化されてください」と言っているようなもんだ。


お仕着せと言うべきか、譲歩されたと見るべきか……。


まあ、これで、冒険者も最低限は形になったかね。

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