第28話 三枚舌外交

先日のソラの会見の、「チャンスは用意してやるから努力しろ」宣言により、世の中の人々にトレーニングブームが起き始めた。


トレーニングジムや学習塾が、『冒険者志望者向け特別メニュー!』とか言って、新しい短期コースをこれ幸いと作り始め、各地の格闘ジムが『君もダンジョンにチャレンジだ!』みたいな無責任な台詞とともに会員を大募集。


乱降下していた株価は、先日の会見から回復し、今もなお上がり続けているらしい。そもそも俺は株価とかよく知らん。ツブヤイターにそう書いてあったってだけだ。


そんなこんなで、日本は今、ダンジョンブームが訪れていた……。




「駅前のジムってどうなの?」「近所でIQ訓練の冊子配ってたぞ」「やっぱり魔法とか使いたいよねー」「ねー」「学力で平均点上げようぜ」「やっぱり勉強かー」


学校は、半年後のダンジョン開放に向けた話で持ちきりだ。


「お前らはどうすんだ?必死こいてトレーニング(笑)しなくていいのか?」


俺はキチレンジャーを煽った。


「どれか一科目で九十点以上でも、合格なんだろう?僕なら可能だね」


青峯はこう見えて、IQ200を超えるそうだ。


本来ならこんな田舎の高校にいるべき奴じゃないんだが、本人の趣味でここにいるらしい。


「私も、センター試験程度であれば満点を取れるかと」


黄場も、実は、瞬間記憶能力がある。


休日は遠征と称して遠方の図書館に行き、本を読んで知識を蓄えているとのことだ。


「センター試験ってことはマークシートやろ?ボク、マークシートなら外さんからヘーキやな」


緑門は、異様な直感力がある。


マークシート方式のテストなら、ほぼ満点を取れるだろう。


この直感力であらゆるギャンブルに手を出して荒稼ぎしているそうだ。


「うーん、アタシは、その他特技のテストでどれだけ点が稼げるか、かなあ」


桃瀬は、外国人だろうが動物だろうが虫けらだろうが、目を見れば、相手が何を考えているか分かると言う特技がある。


この特技により、話術のみで、売春を伴わないパパ活で荒稼ぎしているそうだ。


相手の考えていることが大体分かるのだから、一番言って欲しい言葉を投げかけ続けて甘やかせば、嫌ってほどに金を出してくれる、ってことらしい。


このように、キチレンジャーには各々が『必殺技』と言えるような技能を持っている。


俺の『御影流』、青峯の『超知能』、黄場の『瞬時記憶』、緑門の『超直感』、桃瀬の『読心』……。


まあ、どんなクズにも特技はあるってことだな。




そんな感じで、馬鹿な日本人達が騒いでいるのを横目にダンジョン攻略。


法的に問題ないのか?と言うと、実は問題ない。


現在、全てのダンジョンが閉鎖されているが、実は、入っても罰されはしないのだ。


具体的に言えば、ダンジョンに入ることで与えられる罰則が、法律で定められていないってこと。


その、ダンジョンに入って良いかどうかを決めるのが『冒険者資格』であり、無資格者がダンジョンに入ることによる罰則などの法律も、冒険者資格が出回り始める頃に施行されるだろう。


つまり、俺が今ダンジョンに潜っているのはグレーゾーン的な行為であった。


まあ、俺の予測だが、冒険者資格を得られる奴はそう多くないとは思う。


何故か?


資格を得るためのテストが難しいからだ。


センター試験の平均点を合格点とすると、全員の中から平均点以上の人のみが合格なんで、つまりは半分。


もちろん、知力、知識、体力、武力、その他特技の平均点のため、他の科目で頑張ればある程度挽回できるのかもしれないが……、知識テストの段階で二人に一人は不合格な訳だ。


そして、その二人に一人の中から、更に体力的に優れる人間を厳選して、その上で何かしらの特技を持っている必要もある。


そんな人間、そうそういないだろ。


そして、仮にいたとしても、そんな風に賢くてスポーツもできる奴が、命の危険があるダンジョンにわざわざ挑むか?と言えば首を傾げざるを得ないだろう。


そんな賢くてスポーツもできるやつは、もっとまともな仕事をやるはずだ。


とまあ、そんな訳で、冒険者はそんなに数は多くないだろうと思われる。


俺は……、まあ、武力テストで合格する自信があるから問題ないな。




さ、て、と。


現在、俺は、ひっじょーーーに忙しい。


それもそのはず、先日の会見で、「ポーションはありまぁす!」と政府が宣言したからだ。


それにより、我らが赤堀ダンジョン研究所には、「ポーションを売ってくれ!!!」と言う要望の声がドシドシ来ちゃってる訳だ。


うちの両親は結構な外道なので、大分、相手の足元を見た価格でダンジョンの産物を売っているようだ。


自衛隊が未だに十階層前後でウダウダやっている最中、俺は三十五階層まで進んだ。


つまり、二十層以降のポーションを得られるのは俺だけ。


そのアドバンテージを充分に活かす、鬼畜な値段設定だそうだ。


まあ、俺と同じソロ攻略者の親父は、「一般人が三十五階層に来れるのは少なくとも三〜五年はかかるんじゃないか?」とか言っていたからこそのことだろうが。


うちの両親は、研究者にありがちな、「研究一辺倒で他は何もできません!」みたいなタイプじゃなくて、自らの足で社交界やら何やらに出てスポンサーを捕まえて研修資金の足しにするし、経営の知識なんてのも持っているからな。


だから、極めて悪どい稼ぎ方をする。


しかも、さじ加減も絶妙で、恨まれない程度の暴利を貪るからタチが悪い。


うちの親戚は両親を見て「往年のイギリスのようだ」と称した。三枚舌ってことだろう。


インドの植民地支配をするイギリスのような手法を多く使うらしく、現在も、ポーションを求める存在に三枚舌で対応しており、他の組織同士を煽って対立させ、自らに向けられるヘイトを逸らすなどの悪辣な手段で、商圏を手中に収めているそうだ。


今回の、ポーションの情報が漏れたことも、下請けのせいにして本人達はお咎めなしとなったらしい。


因みに、情報を漏らした下請けは株価が大暴落したそうだ。


まあ、そんなこんなで、とにかくポーションが売れる。


最低級の一階域ポーションでも、末端価格にして最低でも三十万円の値段でやり取りされるのだ。


自衛隊も、一階域ポーションを流してはいるのだが、いかんせん数が圧倒的に足りていない。


あらゆる国家、あらゆる組織から、ポーションを手に入れろとせっつかれ、自衛隊は大いに疲弊しているそうだ。


なお、うちの研究所は、A国には「B国の方が先に順番待ちしていて……」などと言い、B国には「A国の方が高い金を出してくれたので……」などと三枚舌四枚舌でのらりくらりと躱している。


まあ何にせよ、仕事だ仕事。


嫁とペットのために働かねば。

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