第19話 自衛隊

今日も今日とてダンジョンだ。


ダンジョンの公開から一ヶ月。


その間、俺はレベル上げに勤しみ、三十階層のボスであるワイバーンをタイマンで始末できるまでにステータスを上げた。


そろそろ次の階層にチャレンジしようかなー?なんて考えてると……。


「やあ」


ソラのデバッグルームに誘拐された。


「何だよ?」


「とりあえず、こちらの映像を見てもらえるかな?」


「おう?」




×××××××××××××××


「撃て!」


「「「「「「了解!!!」」」」」」


『ゲギャガアア!!!』


「ぐわあああ!!!」


「退避!退避ぃー!!!」


×××××××××××××××




自衛隊が十階層のゴブリンチャンピオンにやられてた。


「うそやん」


よ、弱過ぎる……!


親方日の丸、護国の士、天下の自衛隊様じゃねえのか?!


こ、こんなもんなのか?


嘘だろ?


「因みに、地方のダンジョンもほぼ同じで、酷いところでは六階層で止まっているところもあるよ」


「いやいやいや……、いやいやいや!嘘だろ?!自衛隊だぜ?!」


「真実なんだよね」


マジか……。


「え?銃持ってるんでしょ?楽勝じゃない?」


「銃は武器レベルが上がらないからね」


「えっ」


「弓ならば、矢と、弓を引く弦が強化されて威力は上がるね。けど、銃は、弾頭と火薬のレベルが上がっても、それを使い捨ててしまうから……」


あー?


なるほど?


「じゃあ、実質的に、ダンジョンで銃は無力なのか。でも、ゴブリンチャンピオンだぜ?普通に素手でも倒せるだろ?レベルも上がってるだろうし……」


「彼らは、小隊と言って、三十人規模で来ているんだ」


「えっ」


ってことは……。


「ダンジョンは、推奨攻略人数が四人。入手できる経験値は、一人なら150%、四人なら100%、八人なら80%で……、以降、一人追加されるごとに−8%……」


「ってことは、三十人もいれば……?」


「当然、経験値は0%なんだよ……」


「あちゃ〜……」


酷いなこれは……。


「しかも、仕様をあまり理解していないのか、迷宮端末を拾わずにダンジョン入りしてる人も多くて……」


「え?そいつらステータスは?」


「付与されていないよ」


「端末持ってないと付与されないのか」


「入手しないと、だね。彼らはどうやら、入手した端末を研究機関に引き渡してしまったらしくて、肉体のフォーマットが済んでなくて……」


「……で、どうしろと?」


「君から、自衛隊という戦士団に何かアドバイスをしてもらえないかな?私から直接言うのは『ネタバレ』だから……」


ふーん?


なんかめんどくさそうなやつじゃん。




まあしゃあない。


面倒だが、この面倒を乗り越えた先に、より面白い世界が待っていると考えれば、苦ではない。


自衛隊のホームページを開く。


電話番号を特定。


電話をかける。


『もしもし?自衛隊事務局です』


女性が応答した。


「もしもし?田舎剣士です」


あ、端末のランキング欄だけど、俺は本名じゃなくて『田舎剣士』って言うペンネームにしたぞ。


『はい?』


「ランク1、田舎剣士です。半年前から家の蔵にダンジョンがあるんですが」


『……少々お待ち下さい』


保留音は『エリーゼのために』だった。クラシックは詳しくないんだが、それくらいは知っている。


そして二分後。


『お電話代わりました、防衛省の鴨田です』


「はい」


『ご自宅の蔵に半年前からダンジョンがあるそうですが、ご住所の方、控えさせていただいてもよろしいでしょうか?』


「栃木県日光市の……」


『……はい、分かりました。今日中に自衛隊が向かいますので、在宅のままでお願いします』


「はい」




その三時間後、自衛隊のジープ四台と、黒塗りの公用車……、センチュリーだっけ?それが一台、ウチの家の前に路駐した。


ピンポン。呼び鈴が鳴る。


「はーい」


『防衛省の鴨田です。ダンジョンの確認に来ました』


だってよ。


あ、全く関係ない話だが、俺は普段は甚平を着てるぞ。


髪はかなり長いんで縛ってる。


そろそろ寒くなってくるんで半纏出さなきゃな。


そんなことを考えながら、戸を開く。


「うっす、えー、鴨田さんでしたっけ?蔵はこっちです」


そして、蔵にダンジョン門があることを確認すると、自衛隊が入って検査した。


それも、五分くらい。


すぐに自衛隊員は帰ってきた。


「モンスターを確認しました、ダンジョンです」


「うむ」


敬礼しながら自衛隊が言った。


それを、三十代半ばくらいの自衛隊員が聞いていた。こいつは恐らく隊長的なのだろうな。


その、隊長的なのがこちらに振り向いた。


「では、赤堀君。話を聞かせてくれるかな?」




とのことなので、家に入れる。


「桐枝ー、お茶煎れてー」


『はーい』


とりあえず、桐枝にお茶を頼んだ。


「なっ?!モ、モンスター!!!」


「あっ、そう言うのいいんで」


「なっ?!しかし!」


「マジでいいんで、とっとと座ってもらえる?」


「だが、モンスターは危険な存在で……」


「座れ」


面倒なので、軽く気当たりをする。


「「ひっ……!」」


鴨田と隊長は、気をもろに受けてへたり込んだ。


何だ?気合入ってねえな?ごく軽い気当たりだぞ?


『お茶煎れましたよー』


「ん、どうも」


一服。


「ふう……。で?話とは?」


「あ……、ダ、ダンジョンについてのお話を」


「ダンジョンか」


俺は、もう一口、茶を飲んだ。


「まあ、そうね。明空命から教えられたんだが……、何だあの体たらくは」


「そ、それは……。こちらの方も努力はしているのですが」


「まず、ダンジョンのルールを理解してないよな?マニュアルをちゃんと読んだか?」


「マニュアルは読みました……」


「じゃあ、ダンジョンの推奨人数は四人って文字、読めなかったか?」


「し、しかし、安全マージンを取るためには……」


「良いか?内部数値を教えてやる。ダンジョンは、推奨攻略人数が四人。入手できる経験値は、一人なら150%、四人なら100%、八人なら80%だ。以降、一人追加されるごとに−8%だな」


「で、では、自衛隊はレベルが上がらないと?」


「そう言ってるんだよ」


「まさか、そんな……」


信じられない!みたいな顔されても……。


端末のマニュアルに、推奨人数四人ってちゃんと書かれてるんだよな?


ステータスも見れるはずなんだが……。


いや、経験値率とかの内部数値は非公開だし、「そのうち上がるのでは?」とか、「特定条件でのみ上がるので、通常戦闘では上がらないのでは?」とか思ってんのかな。


どの道、アホなんじゃねえのか?って感じだが。


「あんたらがあまりにも不甲斐ないから、このままじゃダメだ!と、何故か苦情が俺に来てるんだよ」


「で、ですが……!」


「とにかく、俺は伝えたからな。安全マージンを取り過ぎると逆にダメだ、と。後は知らん」


さて、これで良いだろう。


レベルさえ上がれば、自衛隊もきっと強くなるはずだしな……。

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