第24話チンピラ、新しい玩具の使い方を学ぶ。

「取説もナシってのは不親切過ぎるよなァ? ってなわけでモニカ。コイツについて教えてくれよ」


 聖獣たちは「これ使って魔族殺しちゃってヨ!」と快く渡してくれはしたものの、俺としたことが使い方を聞き忘れてしまった。


 まあ、別に構わないと言えば構わない。なにせ、こっちには原作履修済みの転生者がいるんだ。わざわざあんな冷たい場所に長居することもないだろう。


「……いやマジで。今のアンタがなんでこれ授かってんのよ!? これってカルマ値が10以下かつ高ステータスで魔族鏖殺ルートじゃないと貰えない隠しチート装備なんですけど!? しかも聖剣士ウェポンマスター拳闘士ファイターのスタイルを習得していないと装備すらできないから周回前提なのに……! つかなんでこんなヤツのカルマ値が低いのよ!?」


 とのこと。


 カルマ値ってのは、この世界でどれだけ罪を犯したかによって上昇するというものらしい。つまり悪人であればあるほどその値は高く、善人であれば善人であるほどその値は低いというわけだ。


 面白いのはスキルレベルと違い、上限が存在しないということ。なるほど、人の業には際限がないとでも言いたいのか。


「俺のカルマ値が低いのは当然のことだろ?」


 だって悪いことはなに一つしてないし。


「う……ぐ……。納得いかない……! 私、拷問されたよね!?」


 拷問?


「あんなのただの水遊びだろ?」


「納得できるかァ――――――――――ッ!!!!」


 別にモニカが納得しようとしなかろうと、俺のカルマ値が低いことに変わりはないんだ。そんな現実を直視したくらいで、人目も憚らずに大きな声なんて出さないでほしいんだが。腐っても乙女だろうに、はしたないぞ。


「でェ? 肝心の使い方は? これ、どう使えば効率的に魔族を殺せるんだ?」


 原作の《無垢なる暴虐イノセント・バイオレンス》にまつわる蘊蓄うんちくを聞きたいわけじゃない。今、最も聞きたいのはその使い方だ。


「そ……それは。……魔族をむやみに殺したりしない?」


 その問いに対して、モニカはさっと俺から目を反らす。


 おうおう、いじらしくて可愛いじゃねえの。自分は雑魚勇士のくせに、学園内に潜む魔族の身を案じちゃってまあ慈悲深いことで――なわけねぇだろ。ナメてんのか、この女は。


「あァ? まだ状況が分かってねぇのか? ……まあいいさ。教えないなら教えないで。それくらいの自由は与えてやるよ。だが、その代わりに今この場で魔力解放ブーストするぜ? 俺にとっちゃなにが起こるかはお楽しみってわけだが、テメエにとってはそうじゃねえだろ?」


「な――っ!? い、いいや! まだアンタに魔力解放ブーストが使えるわけないでしょ! はったりよ、はったり!」


 お、いい勘してるな。たしかにはったりではある。魔力解放ブーストを見たのはロゼアンが最大出力の《鉄槌の処女ハンマー・メイデン》で俺を殴った際の一回のみ。


 言ってしまえば、俺は魔力解放ブーストがどのようなものかは全く理解していない。していないが、とりあえず魔力をぶち込んでみれば分かるだろうさ。


 なによりモニカ、テメエのその焦り様――コイツに魔力をぶち込んだら、とってもハッピーなことが起きるのは間違いないようだしなァ?


「そう思うか? まあ、お勧めはしねぇぜ。なにせ水遊びと違って加減の仕方が分からねぇからよォ!」


 さすがに魔法を使うことはできないが、身体の中を巡る力の流れくらいは分かる。それを腕に集中させてみれば――すぐさま変化は訪れた。


 カシャン、という音ともに《無垢なる暴虐イノセント・バイオレンス》が変形する。ちょうど、装甲の部分が肘先までせり出すようにスライドしたのだ。ロゼアンが使っていた《鉄槌の処女ハンマー・メイデン》で薄々は察していたが、こういった神聖兵装は魔力を通すと少しばかり変形するものらしい。


 さすがにヤバいと感じたのか、モニカは血相を変えて俺の腕にしがみついてきた。そこそこ身長の高い女が、まだ七歳の少女にしがみ付くこの構図にいささかの犯罪臭を感じていただきたいな。


「だぁああああっ! 教える、教えるから! 今すぐそれ止めて!」


「んだよ。だったら最初から素直に教えやがれ」


 ぶんぶん、と腕を振って暑苦しい馬鹿女を腕から引きはがす。次からは金を取るぞ、おい。


 しかし、脅した甲斐もあった。どうやら魔力解放ブーストのやり方はこれで正しいようだ。不完全燃焼感は残るが、モニカの焦った面に免じてここは収めよう。なに、俺は寛容だからな。


「で?」


「で? って……。ああ、もう! 《無垢なる暴虐イノセント・バイオレンス》は打撃武器であると同時に防具性能もある籠手ガントレットよ。他の武器と違うのは特殊な属性を扱えることと、その属性を手に持った武器に一時的だけど付与できること。はい、以上! 終わり!」


 なに勝手に話を終わらせてんだ。あやふやな言葉でこの俺を煙に巻けるとでも思っているのか?


「まだだろうが。その特殊な属性ってなんだよ」


「ぐ、ぐぐぐ……っ! ……初代勇者が持っている聖剣と同じもので、原作じゃあの剣とその《無垢なる暴虐イノセント・バイオレンス》にしか扱えない属性なの。魔力によって構成される物質の破壊……つまり魔族特効の力ね。火とか水とか風とかあるけど、はその二つだけ」


「へえ、二つだけねえ。魔族特効ってんならバンバン光属性の神聖兵装を出せばいいのに、聖獣も出し渋ってんのな」


 勇士全員に光属性の神聖兵装を渡せば、ここまで人類が魔族に蹂躙されることもなかったろうに。いや、そうなると俺の楽しみが減ってしまうが……。


「重箱の隅を突くようなことを……。まあ、身も蓋もない話、元はゲームだからね。バランスと、あとは主人公の特別感を出すためでしょ。おかげで普通の人間には扱えない、なんて設定もあるし」


「神聖兵装なんて、もろに光属性みたいな名前なのにか? 詐欺だろ」


「どこにも光なんて文字は入ってないでしょ。詐欺じゃないわよ」


 そういうもんか? そういうもんなのだろう。


 しかし、話をまとめると光属性の武器めちゃくちゃ強いが勇者限定、ってことか。つまり乱用すると魔族どもに俺の正体がバレる恐れもあるわけだな。


 当分は打撃のみに用いるのがベターだな。使うにしても確実に殺すときのみか。いや、まあ。バレても別に構いやしないが、せっかくならしな。


「となると、リナってヤツは二作目の主人公なのに光属性の神聖兵装が使えないんだろ? 難儀な話だな」


「いや、あの子は素のスペックが化け物だし。それに光属性は魔族に特効ってだけで、他の属性でも殺せるから。極端な話、魔力切れで回復できなくなるまで粘って魔核をぶち抜く腕力さえあれば素手でもね……というか、聖剣なしで殺したアンタなら心当たりあるんじゃない?」


 あー、確かに。ロゼアンくらいなら素手で殺せるわ、俺。


「でも、リナが強くなるのは姉が殺されてからだろ。大丈夫なのか?」


 聞いた話では、リナ・サンドリヨンが強くなるのは姉が殺され、その報復のためロゼアンに迫ってからだ。


「まあ、原作よりは弱くなるだろうけど……。いざとなれば私の神聖兵装があるし。戦闘用じゃないけど、逃げることには特化していてね。私と、あと一人か二人くらいなら余裕でここから助けられるわけよ」


 いざとなったら脱柵かよ。コイツ、とことん逃走本能全開だな。


「でぇ? そのリナ・サンドリヨンさんは村の状況を現在報告されてるんじゃねえの? フォローしなくていいのか?」


「――あ」


 まっずい。そう言い残して、モニカは俺を置いてどこかへと走り出してしまった。


 ……まったく。こんな可愛い美少女を置いて走り出すかね、普通。


 特にやることもない俺は、溜息を一つ吐いて走り出した馬鹿の尻を追うことにした。

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