第3話 花畑の妖精

 

「んなーっはっはっは! 勇者って最ッ高!! あ、そこの君、可愛いね〜! ねぇねぇ君も、勇者である僕のハーレムに入らない? ぐふふふ!」


 あの突然の召喚からひと月が経った。

 そう、まだたったひと月である。

 だが俺は魔王もびっくりするであろうクズ勇者に仕上がっていた。


 もしかしたら女神から貰った成長チートが作用したのかもしれない。

 もちろんマイナスの方向に。



「いやぁ〜異世界さまさまだな! 女騎士に魔導師、メイドに姫! コスプレなんかじゃなくて、ホンモノを選び放題だもんな〜」


「アキラ殿! 私とも剣のお相手をしてくれないだろうか。……もちろん夜まで予定は空けてあるぞ! 勇者のその素晴らしい技を、私に教授して欲しいのだ……」


「おおっと、カレンちゃん! もちろん構わないよ〜! ボクが手取り足取りじっくりと教えちゃうよ!」


「アキラ。剣馬鹿を相手にするより、魔法と科学が関連することで質問がある。それに勇者の身体についての研究もしたい」


「ん〜研究者ミレイの知的な表情は今日も素敵だね! まるで魔法のようだ! んん~、ファンタジー!!」


「アキラ様? 今日は王城に呼ばれているとお伝えしたはずですが? メイド業務以外の瑣末事さまつごとで私を煩わせないでいただけますか?」


「あぁ、愛しのシェリー! ん〜、相変わらず君は外ではクールだね! 二人きりの時とのように、ボクのことは御主人様って呼んでくれて良いんだよぉ? ぐふふふ」



 これが世界が待ち望んだ勇者様(笑)である。とんだチーレム野郎に仕上がってしまった。

 日々抑圧されていた理性のたがが破壊されてしまったのだろうか。でも誰も俺を止める人が居なかったから……。


「ほら、帰ってきたら相手してあげますから。さっさと用事を済ませてきてくださいな」

「うぇーい、分かったよ。王城に行けば良いんだな?」


 完全に痛いキャラとなってしまった俺は、さっさと用事を済ませて遊びたい……そんな一心で、足早に王城へ向かう。



「ふあ~ぁ、めんどくさいなァ。どうして俺がこんなことを……」


 アクテリア王国の王城は、小高い丘の上にそびえ立っている。歴史を感じさせる堅牢な城の中には、専門の庭師が丁寧に育てたのであろう立派な庭園が広がっていた。


 そこには、地球でも見かけるような花もあれば、雪の結晶のような形の花、扇風機のように風でクルクルと回る不思議な花まで、多種多様な植物が植えられている。


 そして城の中とは思えない幻想的な景色の中には――物語に出てくるような、美しい妖精がたたずんでいた。


「な、なんだあの美女は……この世界で初めて見たぞ!?」


 風に舞う花びらを纏うように微笑んでいる彼女は、俺が見ていることに気が付くと、天使のような声色で話しかけてきた。



「あら、勇者様。お初にお目にかかかります。私はロロルと申しますの。今まで御挨拶もできず、申し訳ありませんでしたわ」



 洗練された動きで一礼をする少女。

 腰まで伸びた真っ白な髪が、サラサラと風と共に流れている。


 これは間違いない、お姫さまだ。

 あのオッサン王にこんな可愛らしい娘が居たのか!?

 全く知らなかったぞ……。


「お? これはこれは。あなたはまさに、庭園に咲く一輪の白百合! いや、この世の何よりも綺麗な花だ! ぜ、是非、蕾から咲いたばかりの君という花を摘み取らせてくれないだろうか? えへ、えへへへ」


「 ×××××」


「えっ? 今なんて?」


「なんでもございませんわ。勇者様は世辞がお上手ですのね。ところで、先程から城の者が探しておりましてよ? 本日の用件は覚えてらして?」


 「……(くうっ! 清楚系お姫様かよ!

 いくら俺に魅力チートがあっても、そう簡単には落ちないよな〜)」



「あ、あぁ。覚えてる覚えてる。オッサン達が集まってるだろうから、加齢臭を辿っていけば行けるハズさ。あ、そうだ。謁見が終わったら是非、一緒にお茶でもどうかな? 君の為ならいつでも予定空けるからさ!」


「ふふふ、本当に勇者様ったら面白いお方。……きっとまた、近いうちにお会いできますわ」



 彼女は雪の様に透き通る白い手を口に当ててクスクスと笑いながら、優雅に城の奥へと去って行った。


 あぁ、そのふんわりとした横髪。

 何よりも高身長ならではのスラリとしつつも、程よくムチムチな日焼けのない白い御御足おみあし!!

 横髪フェチ&足フェチにはたまんねぇわ!


 本日のベストショットを脳に焼き付けながら、俺は本来の目的である謁見の間へとフラフラと向かって行った。




「おぉ、勇者殿。壮健そうでなによりだ。どうだ? かなりこの世界にも慣れたという報告は聞いているが」


「王様もお元気そうで。えぇ、剣術も魔法もどんどん覚えてますよ。それにエッチな技術もね! ぐふふ……」


「ふふふ、それは重畳ちょうじょう。さて、今日呼んだ用件だがな……勇者殿にはそろそろ本格的にモンスターの討伐へ向かってもらおうかと思ったのだ。とはいえ、いきなり魔王に立ち向かうには、さすがにまだ早いだろう。したがって修行がてら世界を回り、勇者としての力を得る旅に出てもらうことにした」


「えぇ〜、もうですかぁ? 俺、城下街の飲み屋のお姉様巡りもまだまだなのに……」


「はははは! なに、心配するな! この王都程ではないが、世界各地にも飲み屋は星の数ほどある。なにより、これから訪れてもらう予定の聖都ジークには、女神を信仰する多くの女性神官がおるのだ。肌を重ねることは許されぬが、魔王を倒す仲間であれば勧誘することもできるかも知れぬ。神官を仲間にできれば、勇者の旅もはかどるであろう?」


「えへへ、そうですね!! あぁ、神官さんと背徳的なアレやコレを……ぐふふ!!」


「(コイツ……日増しに馬鹿さ加減が増してないか?)……うぉっほん。勇者殿がその気になってくれたようでなにより。早速だが旅の供になる者をこちらでも用意した。さぁ、入ってくるが良い」



 王が呼びかけると、とある一人の少女が入ってくる。


「き、きみは……!」


 ――現れたのは、先ほど出会ったばかりの美しい妖精、ロロルだった。



「失礼いたします。この度、私めが勇者アキラ様の旅のお世話をさせていただくことになりました。浅学菲才せんがくひさいの身でございますが、精一杯務めさせていただきますのでよろしくお願いいたしますわ」


「えぇっ、さっきの白百合ちゃんじゃないですか!! ちょっと王様!? こんな華奢で可愛らしい女の子を、危険な旅に連れて行けと言うんですか!?」


「うん? なんだ、もう知り合っとったのか。心配なのは分かるが、これでも彼女は王妃直属の近衛騎士団と同等の武力を有しておる。そうだ、そなたも知っておるカレンのお墨付きだぞ?」


「騎士団長の……し、しかしそれでもにわかには信じられませんが」


「まぁ、万が一何かあっても勇者の力でどうにでもなるだろう? 旅の詳細も彼女に伝えてあるから、しっかり打ち合わせをして安全な旅をしてほしい。……では、私はこの国で勇者殿の旅の無事を祈っておるからな。頼んだぞ、勇者殿?」


「そ、そんな……俺には……」


「うふふ、私になにかあったら、ちゃんと守ってくださいね? 私の勇者サマ?」


「――はい! よろこんで!!」




 こうして正統派美少女を仲間にした俺は、まんまと世界を回る旅をする羽目になったのであった。




――――――――

次回は明日の夜7時過ぎに更新予定!

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