【ボンッ☆】勇者召喚された薬剤師ですが、“化学チート”で無双できますか!?化け物だらけのハードモードだけど、社畜時代より楽しいぜやっほい!

ぽんぽこ@書籍発売中!!

第一世界編

アクテリア王国

第1話 異世界転生 in 居酒屋

新連載はじめました!

――――――――――――



「こぉの腐れゴブリン共が! 勇者舐めんなよ!? 地球産薬剤師の化学知識でお前ら全員、一匹残らず根絶やしにしてやるからな!」


「ちょっとアキラ! 雑魚ゆーしゃのクセに強がるんじゃないわよ!」


「あっ! ちょっ! 何このゴブリン、舌なっが! 俺のことメッチャ舐めてくる! や、やめて!! あっ、しゅごい!!」


「いいから早く! アンタお得意の化学でコイツらを蹴散らしなさいよおッッ!!」




 ――ほとんどの人が一度は習う

 "すいへーりーべーぼくのおふね"

 正直、普通に生きる上では不要な化学知識だ。

 例えこの世界がそれら元素エレメントの集合体だとしても。

 それらが体内で、様々な化学反応を起こしているとしても。


 ――肉眼では見ることのできない、小さな世界。

 これはそんな世界を扱う男の物語だ。




 ◆◆◇◇


「薬剤師しんどい……もうやめたい……」

「アンタ、毎週同じこと言ってない?」


 月曜日の朝からやっている居酒屋で、くだをまく男と女。

 周りにはアル中としか思えないような顔を赤黒くしたおっさんや爺さん達が、飲み放題千円の安酒をグイグイとあおっている。


「仕方ないだろ!? 飲まなきゃやってらんないんだから……」


 急患が来れば昼休憩は潰れ、入院があれば引継ぎが終わるまで帰れない。規則正しい生活をしましょうね〜、と患者様に指導しておきながら、自分はそのまま休みなしで夜勤に入るような不規則生活だ。


 俺と一緒に飲んでいる女性だってそう。看護師である彼女は、向かいの席でハイボールを片手にタバコをスパスパさせている。

 テーブルの上の灰皿は、吸い殻でもう山盛りだ。


 女や看護師がタバコなんて吸うなって?

 いやいや、何をおっしゃりますか。

 白衣の天使だって一人の人間なのだ。

 どんなに優しい子でも、一年も勤めれば白衣もヤニ色になりますわ……。



「はぁ~。どっかに可哀想な俺を優しく癒してくれる、可愛い女の子はいないかなぁ?」


 もう何杯目か分からないビールのジョッキを両手で抱えながら涙目になっている俺、アキラは三十路手前の病院薬剤師である。

 清潔感を出すために短めに切られた頭髪に多少は知的に見える黒縁眼鏡、平均的な身長に百人いたら一人くらいは振り返るかも?といった容貌(自己申告)をしている。



「ふぅん? 女である私の目の前でそんなことを言うとは良い度胸ね? いいわ。その喧嘩、買うわよ?」

「ゆ゛る゛し゛て゛!」


 そんなことをされたら、明日から職場の全女子が敵になるじゃないか。

 ただでさえナースステーションの隅っこで肩身が狭い想いをして仕事しているのに。



「おしっこ……」 


 ずっと酒を飲んでいたら、尿意を催してきた。


「いいから、早く行ってきなさいよ」

「うぅ、分かった……」


 寝不足か、飲みすぎなのか。ふらふらとトイレに向かう。小便器の前で、ちょろちょろと用を足していると……。



「~♪」

「ん? なんだ?」


 すると突然、どこからともなく壮大な音楽が聞こえてきた。BGMとも違うような……。


「~♪~~♪」

「なんかどっかで聞いた音楽だよな? テレビ? いや、音楽の授業か??」


「הַלְּלוּ יָהּ♪ Αλληλούια♪」

「いやいやいや、何語だよコレ?」


「 Hallelujah! ハレ~ルヤ~♪」

「ふえぇぇ!?」


 ジョバジョバと下品な放尿音に合わせて、何故か流れてくる荘厳そうごん音楽ハレルヤ

 ふと気付けば、天井の照明付近からキラキラと光が降ってくるではないか。


「なんだ? なにが起きている??」


 そして天より光り輝くスポットライトはカーテンのように俺を包み込み――


「俺の……体が消えていく!?」


 ――光と共に俺はその場から消えた。



 ◆◆◇◇


「はっ!?」

「おぉ、起きたようじゃの」


 な、なんだここは?

 ていうか誰だ、昔アニメで観たことがあるような頭ツルツルな爺さんは!?


「か、亀仙○ですか!?」

「誰が亀仙人じゃ!」

「ほぐっ! い、痛いッ!?」


 ……ちょっと確認しただけなのに。

 木製の杖で、思いっきりガツンッと殴られた。

 

 ちくしょう、どう見たって仙人にしか見えなかったのに。

 もう一度目の前を確認してみると、そこには白い髪と髭をしたクソジジイと、その隣に肌も服も髪の毛先まで全て真っ白な美少女がいた。


「いったい何なんだよ。なにもいきなり頭を殴ることないだろ……って頭? あれっ? な、無い!?」


 つい反射的に殴られた頭を撫でようとするけれど、撫でる手が、無い。

 いや、それどころか、そもそもの頭さえもない。

 足元を見ればあるはずの足もなく、自分の存在がフワフワと宙に浮いていることに気付いた。


「な、ナニコレぇ?」


「まぁ混乱するのは分かる。じゃが、ワシもそう暇じゃないんでの。手短に言うと、お前さんは過労と脱水、アルコール中毒、循環器不全その他もろもろでポーンと昇天しおった。それで今ココにおる」


「昇天って……まさか。し、死んだってことか!?」


「うむ。で、これからお前さんにはこことは別の世界で転生してもらうからのぅ。ちなみにワシは神様。で、この娘は弟子の見習い神じゃ。ちなみに転生させる魂としてお前を選んだのもコイツじゃ」


 白いジジイは、隣にいる白い少女を指差す。

 ていうか、さっきからこの女の子……目は閉じたままだし、一言も口を開かないんだけど……大丈夫??


 ――って、今はそれどころではない。


「は? いやいやいや、おかしいでしょ! え、まさかあの光と音楽って……」


「あ、あの演出どうじゃった? ワシって転生なぞさせるの初めてじゃし、ちょっと演出を凝ってみたんじゃ」


「ええええぇぇえぇぇぇ!?」


 ピロン♪


「ほっほ。昇天した時の顔も傑作じゃったが、驚いたその顔も最高じゃのう!!」


「てめぇジジイ! なに写メ撮っとるんじゃゴラァ!! ていうか、なんで神がスマホ持ってるんだよ!」


 カシャカシャカシャカシャ!!


「連射すんじゃねぇぇぇぇ!!!!」


「残念でしたぁ、これは自撮りですぅ~。お主なんて撮ってません、プークスクス!!」


「このクソジジイィィィィ!!!!」



 ◆◆◇◇



「とまぁ、そんな訳での。彼女も居らず、しょうもない理由で死んでしまった情けないお主がそのまま転生しても、どうせ可哀想な結末になりそうじゃ。だから現在、日本で流行っているらしいチートをくれてやろう。何か希望の能力はあるかの?」


「えっ!? チートをくれるの? 希望ってなんでも?」


「まぁ転生先の世界観を壊すような能力は無理じゃの。つまらんし」


「つまらんて……世界観てオイ」


「お主は小説やら漫画で、『自分がそうなったら〜?』とか、よく妄想しとったんじゃろ? ホレ、さっさと言うだけ言うてみぃ」


 ……くっ、なんで俺が日頃から俺ツエーでハーレムなウハウハ妄想しているってバレているんだよ。

 いいじゃんか、脳内でケモミミに囲まれてモフモフ天国していたって!


「な、なんで俺がそんな事してるって知ってるんだよ! 社会人にとって妄想は現実逃避に最適なんだよ。……そうだなぁ。まずは強靭な肉体に不老不死だろ? あ、魔法とかあるの? なら無限の魔力に成長チートに、取り合えず望んだものが叶う能力! ……どうだ? この中から一個ぐらいくれるのか?」


 神様相手だったら謙遜した方が結果的に良チートを貰えるのはあるあるだけど、このジジイに取り繕ったって逆効果な気がする。

 第一、遠慮しまくってストレス溜めまくった結果が、この負け犬人生だったしな!


 ――さて、この願いにどう出る神様よ!?


「ハイ決定! もう面倒だし、それで決まり!! 色々無茶苦茶言うとるけど、なんかお主頭悪そうだし、大したことできなさそうじゃからそれで!」


「えぇぇ……なんかすっごくディスられてるような……」


「すごく(どうでも)いいと思うぞい! じゃ、ワシ急ぐから早速いくぞい!」


「えっちょまっ!」


 まだ心の準備なんて出来てないんですけどー!?

 もうちょっとプロローグ的な説明とかあってもいいんじゃないの!?

 ていうか、そっちの白い天使ちゃんとはまだ絡んでないんだって!


「ほいっ、ちちんぷいぷーい」

「えぇぇええー?!」


 ジジイが杖を掲げてチープな呪文を唱えると、またもやハレルヤな音楽と光が現れ、徐々に俺の姿が消えていく。

 そして――


「さーて、儂の仕事は終わったし、飲みにでも行くかの!」

「てめぇジジイ! まさか飲みたいからって、テキトーな能力を付与したんじゃ……」


 ――再び光が周囲に満ち溢れていった。


 そしてそれが収まった頃、俺たちがいた空間には誰一人残らなかった。

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