第23話 希望の未来
「俺はこの国全体に魔族を弱体化させる結界を貼ったんす。ほんとは魔族を通れなくする結界を貼るつもりだったんすけど、さすがに厳しかったんすよね……………」
そう言って頭を搔く坂上さん。
「その結界ってどのくらい弱体化させられるんですか?」
「そうっすね……………人間で例えるとレベル30の人がレベル1になるくらいっすかね」
「結構強烈ですね……………」
正直そこまで弱体化されるなら十分な気もするが、魔族の強さがどの程度か分からない以上、あまり過信しすぎるのも良くないかもな。
「結界の特性上、広くなるほど効果が薄くなりやすいんすよ。しかも定期的に魔力を込めないと効果が無くなるんす。だから強力な結界は狭い範囲でないと作れないんすよ。魔族を通れなくする結界は作れても城を覆えるくらいの範囲でしたっすね」
「じゃあ城は安全って事ですか?」
「そうなるっすね。それによって国や城を守るためにさく兵士を減らす事ができ、前線に戦力を集中させることができるようになったんす。その貢献が認められた結果、S級冒険者にさせてもらったって感じっすね」
S級冒険者になったってことは城に入った事があるという事だろうか?
「坂上さんは城に出入りした事があるんですか?」
「あるっすよ。それに結界の調整で定期的に行ってるっす。今日もそれでまたまたこっちに来てたんすよ」
「お城の方で何か変わった事とか無かったですか?」
「変わった事すかぁ……………。あっ、そういえば今日、マルクス王子が一人のメイドさんと手を繋いで敷地内を散歩してるところを見たっすね」
「───っ!?そのメイドってどんな感じでした?」
「メガネをかけてる青髪の子だったっす。邪魔しないように離れたのでちゃんと顔は見てないんすけど……………それがどうかしたんすか?」
「いえ、何でもないです……………」
手を繋いで散歩している、って事は二人の関係が進展している証拠だ。
城の敷地内であれば多くの人の目に付く事になる。もう隠さなくていいという状況にならなければそこまではしないだろう。
もしかしたら王子はそのメイドと結婚するつもりなのかもしれないな。
「アマネさん………………」
リーシャが俺の服をぎゅっと握ってきた。多分不安なのだろう。
俺たちからしたら赤髪のメイドはどこかで確実にアクションを起こすのが目に見えている状態だ。
王子と進展しているのはあまり良い状況とはいえない。
「ん?天音くん。その子はどうしてローブなんて被ってるんすか?しかも認識阻害までして………………」
「っ!?えっ……………どうして魔法が掛かってるってわかったんですか?」
「結界を通してみたんすよ。だから魔法が掛かってるってのが分かったんす。天音くん、その子はどうして顔を隠してるんすか?」
リーシャは俺の背中に隠れる。
「すみません坂上さん。その質問には答えられません………………」
「それはどうしてっすか?」
「どうしてもですよ」
俺は少し圧のある口調でそう言った。
坂上さんを信用していない訳じゃないが、こっちの世界でこの話題について触れなれるのはほんとに危険だからだ。
彼もそれに気づいたのだろう。
少しして「悪かったっす」と謝り、もうその質問はしてこなかった。
「いえ、俺もすみません………………」
「それじゃあ俺は用がするんで帰るっすね。じゃないと紗枝先輩に怒られるんで」
「そうですか。ではまた…………」
俺がそう言うと坂上さんは手を振り、去っていく。
しばらくして、何か言い忘れたのか、俺のほうに振り返ってきた。
「今日のバイト、紗枝先輩の事お願いするっすよ!何があったのかわかんないんすけど、もう一人の仲間が中々帰ってこなくて紗枝先輩、忙しくしてるっすから!」
「分かりました!」
もう一人って柊さんの事かな?
「俺達も戻るか」
「そうですね………………」
俺は「帰還」と口にした。
『帰還に失敗しました』
目の前にそう表示された。
忘れてた、一日居ないと帰れないんだった。
その事実に絶望し、肩を落としていると、周りにいた冒険者達が俺達を囲ってきた。
「えっ!?ちょ、何?」
「な、何ですか!?」
大勢に持ち上げられ、俺たちは空に投げられた。
これが俗に言う胴上げというやつをされていた。
「二人とも最高だぜ!」
「さすがだな!」
「街を守ってくれてありがとう!」
「ア、アマネさん!こ、これは攻撃じゃないですよね!?」
当然のことに動揺し、リーシャは慌てていた。
「ああ!大丈夫だ!」
その後、俺たちはされるがままに冒険者ギルドへと連れられた。
中に入った途端、一人の冒険者が声を上げた。
「嬢ちゃん達聞いてくれ!この二人が竜を倒したぞ!今からお祝いでもしようぜ!」
「良いよ!そこまでしなくて───」
すると受付の方からぞろぞろと受付嬢が集まってきた。
そうして一斉に「ありがとうございます!」と俺たちに頭を下げてきた。
何と言うか照れくさい。
「ミサちゃんも治療ありがとうな」
「う、うん…………みんなもお疲れ」
どうやらミサのレベルが上がっていたのは前の酒場での飲み会にいた冒険者達と仲良くなり、ミッションを共にしていたかららしい。
※
「「「乾杯!!」」」
向こうの世界に帰ることが出来ないので、俺たちは酒場でみんなとご飯を食べる事にした。
もちろん酒蒸しトラップには注意しながら。
「プハッ〜…………!もう一杯!」
「やるな!ミサちゃん!」
さすがの飲みっぷりである。
「皆さん!竜討伐の報酬ですよ!」
「おぉ〜!!きたきた!」
今回は竜討伐に参加した冒険者全員に報酬が渡された。
強敵だった事もあり、相当報酬はいいようだ。
「アマネ様、あなたは今回の討伐に多大なる貢献をしました。よってあなたには500万ラーツを進呈したいと思います」
5、500万……………なんという大金!!
「そんなに貰ってもいいんですか?」
「もちろんです!あなたは国を救ったも同然ですから」
俺だけじゃ被害ゼロで倒せていなかった。
坂上さんや他のみんなからの協力があってこそ倒せたんだ。
「よし!この報酬はみんなで山分けだ!」
「うおっ!!ほんとかよ!!」
「兄ちゃん太っ腹!!」
「あんた最高だよ!」
そうは言いながらも心優しい冒険者達は半分以上はお前が貰ってくれ、と結局300万ほど戻ってきた。
「さぁ夜どうし飲むぞ!!」
「「「おーー!!」」」
まだ日が昇っているにも関わらず、夜どうし飲むといい始め、酒場はものすごい賑わいをみせていた。
その後も酒場で盛大なパーティーは続き、いつの間にか日が沈んでいた。
酔っ払った冒険者達は地べたでだらしなく眠っていた。
受付嬢まで酔いつぶれてる……………。
「アマネさん、ちょっと来てください」
「?わかった…………」
俺はリーシャに付いていき、ギルドの外に出た。
するとギルドの屋根へと続く氷の階段を作り、登った。
「見てください…………月がきれいですよ」
「……………ほんとだな」
リーシャの指さす先には大きな満月が夜空に輝いていた。
「アマネさん、おそらくこの竜討伐は王国の耳にも入ります」
「もしかしたら呼び出しがあるってことか?」
「はい…………」
「なら、そこが最大のチャンスだな」
「そうですね…………」
そう言うリーシャは希望と恐怖が混ざっているような複雑な表情を浮かべていた。
「城に行けるチャンスはそう多くない。もし声を掛けられた時は少し無茶をしてでもメイドの正体を暴くつもりだ。それでも大丈夫か?」
「はい、それが多分最前の手だと思います。というかそれしか無いですね」
「だな。手持ち無沙汰も良いとこだ」
俺たちは自分たちの持っている情報の少なさとまず訪れるかも分からない不確かなチャンス、不可能に近い程に高い難易度だと気付き、絶望を通り越して少し笑ってしまった。
「もし失敗したら、一緒に逃亡生活だな」
城に入る以上、俺の顔も割れてしまう。
失敗すれば仲良く共犯者になる訳だ。
「アマネさんが居ればそうなっても大丈夫かもしれませんね」
そんな冗談を言うリーシャ。
「リーシャは俺を神様とでも思ってるのか?」
「フフッ、違いますよ。アマネさんは凄く頼れるて………面白くて………私の中で一番大切な人です……………よ」
そう言ってリーシャは俺の肩に寄りかかってきた。
「っ!?きゅ、急にどうしたんだリーシャ………………」
や、やばい。
告白みたいな事されて照れくさいのにこんなんされたら───。
「スゥースゥー……………」
リーシャから一定のリズムで吐く息の音が聞こえてきた。
俺は横目でリーシャを見る。
そこには可愛らしい寝顔を浮かべてスヤスヤと眠るリーシャが居た。
寝たのかよっ!!
俺は心の中でそうツッコんだ。
『お疲れ様です。アマネ様。条件が揃いましたのでいつでも現実世界に戻れます』
やっとかシェリア……………お前のせいでもうクタクタだ。代わりに学校行ってきてくれ。
『それは出来ませんが……………竜討伐のためにアマネ様を勝手に召喚した事は反省しております。なので今、アマネ様が最も気になっている未来を一つお教えしましょう』
俺が気になっている未来?それってもしかして───。
『はい、アマネ様の考えている通り、城に向かえるかどうかです』
それでどうなんだ?行けるのか?
『はい、近日中にアマネ様達は城に招待されます』
「よし!」
俺はリーシャを起こさないよう静かにガッツポーズをした。
これで希望は見えた。
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