第2話
B「そもそも、『天使と悪魔』が一人の人間の頭の中の葛藤を現しているなら……財布を見つけたときの選択肢が『天使』と『悪魔』の二択だけって、少なすぎない?」
A「まあ、そうかもねー。普通の人は、完全な善人でも完全な悪人でもなくて、その中間でバランスとってる感じだろうしー」
B「だから、この多様性の時代にふさわしい『天使と悪魔』には、もっと様々な選択肢があるべきだと思ったの。真っ白と真っ黒の間のグレーゾーン……灰色のグラデーションがあるべきだと思ったの」
A「なるほどね。落ちてる財布に対して、『警察に届ける』、『拾ってネコババ』っていう完全な善と悪の二択だけじゃなく、その中間の選択肢も用意するってことね?」
B「ええ、そういうこと。理解が早くて助かるわ。じゃあ、さっそくやってみましょうか? あなたはこれから財布を見つけてね? そうしたら私が、あなたの頭の中から出てくるから」
A「うーん……改めて聞くと、変な会話してるなー、私たち」
A「あー、財布が落ちてるー」
B(悪魔)「ほわわわぁーん」
A「出た⁉ お約束の、登場の効果音!」
B(悪魔)「へっへっへっ。その財布、拾ってネコババしちまえよ? バレやしねーって」
A「これはまだ、普通の悪魔だねー?」
B(あくし)「ふっふっふっ。
A「『あくし』? 聞いたことないワードが出てきたな……。あ、
B(てくま)「ひっひっひっ。可哀想だから、千円くらいは残しといてやるかぁ? ま、それ以外は全部いただいちまうけどなぁ!」
A「今度は、一文字目が
B(あんま)「はっはっはっ、お前たち、もっとスマートに行こうぜ? 俺なら、クレカだけ抜いて、ここぞとばかりにネット通販で高額商品を買いまくるぜ!」
A「つーか、さっきからこれ、グラデーション出来てる⁉ どいつもこいつも、やってること悪魔とほとんど変わってないよねっ⁉ グレーゾーンのグレーが、ほぼほぼ真っ黒なんだけど⁉ ……あと、悪人の演技上手いな⁉」
B(てんま)「だ、だめですよ⁉ そんなことしちゃあ!」
A「あ……良かった。ここから、天使成分が多めになるんだね?」
B(てんま)「きっと、落とした人は困っていますよ? だから、拾った財布はちゃんと警察に届けてあげなくちゃ!」
A「でも今度は、天使が100%になっちゃってない? もう、極端だなー」
B(てんま)「ただ、警察に届ける前に財布から現金だけ抜いておけば、お金も手に入って、落とし主に恩も売れて……一石二鳥ですね⁉」
A「と、思ってたら……あ、あれー?」
B(あんし)「でも……落とし主が貧乏人だったら、恩を売ってもあんまり意味なくないです?」
A「おい、意味ないとか言うな!」
B(あんし)「だから……落ちていたのがブランド財布だったら、きっと持ち主もお金持ちで恩返ししてくれそうだから、お金を抜いて警察に届ける。それ以外の安っぽい財布なら、きっと持ち主は貧乏人で恩返しも期待できないから、そのまま頂いてしまうってことにすれば……」
A「結局ネコババしてる! むしろ、計画性があるところが悪魔よりもタチ悪くなってない⁉」
B(てくし)「あ、あと、最近は個人情報もお金になるらしいですよー? だから、財布の中に免許証かマイナカードでも入ってたら、その情報だけはネットで売りさばいておけばー……」
A「ちょっ、怖い怖い怖い! 『いいこと思いついた』みたいな感じで、一番怖いこと言いだしたよ⁉ どこが天使成分多めだよ!」
B(天使)「みなさん……そんなことをしてはいけません……」
A「ああー! ようやく天使様が出てきてくれた!」
B(天使)「神は、いつもあなたの行いを見ていますよ? 悪いことをすれば、いつかは必ず罰があたるのです」
A「うんうん。やっぱりまともなこと言ってもらえると、安心するわー。私も別に善人ってわけじゃないけど、さっきまでの奴らがクズすぎて、もう普通に天使様の声に従っとけばいいやー、ってなってるよ」
B(天使)「悪いことをすれば必ず罰があたる……でも、バレなければいいのです」
A「……ん?」
B(天使)「財布から抜いた現金は、しばらくの間はどこかに隠しておいたほうがいいでしょう。下手にすぐ使ったり、自分の財布に入れていて、それがキッカケで足がついてしまうとも限りませんから……。それから免許証やマイナカードに触ったら、ちゃんと指紋を拭き取っておきましょう……」
A「おおい⁉」
B(天使)「クレジットカードやキャッシュカードも、使うと持ち主に通知がいってしまう場合があります……。自分で使うのではなく、番号だけ控えて、免許と同じようにネットで売ってしまうのが安全でしょう……」
A「いやいやいや! 天使どこ行った⁉ こいつ、普通に悪魔じゃん! むしろ、下っ端を統率する悪の親玉みたいになっちゃってるけど⁉」
B(天使)「神は、いつもあなたを見ています。ですから……やるならバレないように慎重にやらなくてはいけないのです」
A「その言葉、そういうふうに使う言葉じゃねーだろっ⁉」
B「……ふう。これくらいの選択肢を用意すれば、多様性としては充分かしら?」
A「あのー……選択肢、ありました? 悪魔から別の悪魔にマイナーチェンジするときのグラデーションしかなかったっていうか……結局、全員真っ黒だった気がするんだけどー?」
B「そうかしら? まあでも、そこは財布を見つけた人にもよるでしょう? 善人の頭から出てくる『天使と悪魔』は、やっぱりどっちも天使寄りだろうし。悪人の場合は、その逆で……」
A「だとしたら、私のことどう思ってるの⁉ 極悪人が主人公の『インサイド・ヘッド』みたいになっちゃってたんだけど⁉」
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