第2話

B(織姫)「きゃーっ! 遅刻、遅刻ーっ!」

A「は?」

B(織姫)「昨日、夜遅くまで新しい学校の制服を機織はたおりしてたら、寝坊しちゃったーっ! 急がないと、初日から遅刻しちゃうよー! って……わわわっ⁉ い、いったーいっ⁉ もおーうっ! どこ見て歩いてんのよーっ⁉」

B(彦星)「ああんっ⁉ それは俺のセリフだよっ!」

A「ちょ、ちょっと?」


B(織姫)「えっと……今日から転校してきました、織姫です。どうぞよろしく……って⁉ あーっ! アンタはーっ⁉」

B(彦星)「げっ! 今朝の乱暴女っ⁉」

A「あ、あっれー? 一応、確認なんだけどさー……これって、『新しい七夕を作ろう』って話だったよねー? 世界観が、思ってたのとだいぶ違うんだけどー……」


B(織姫)「ちょっと、彦星くんっ! 校舎の中に牛を入れるのは、校則違反だよっ⁉」

B(彦星)「へっ、校則なんて関係ないね! 牛飼いの俺が、どこに牛を連れてこようと俺の勝手だろ!」

B(織姫)「そ、そんなワケないでしょっ⁉ 彦星くんのせいで、学校中が牛のフンだらけになって、みんなからすごい苦情が……って、あ、こらっ! 逃げるんじゃないわよーっ!」

A「もしかして、七夕を学園ラブコメにしようとしてる? っていうか、ときどき入る七夕要素が、シュール過ぎるんだけど……」


B(彦星)「お、おいっ! お前、勝手に俺の牛に触るんじゃねーよっ!」

B(織姫)「この子……今日はいつもより、廊下に撒き散らすフンの量が少なかったわ。具合が良くないんじゃないの? もしかして、最近寒かったから風邪引いちゃったのかしら?」

B(彦星)「な、なんでそれを……」

B(織姫)「これ、私が昨日機織りしてきた腹巻きなんだけど、良かったら……あら? あなた、人間の言葉が分かるの? よしよし、いい子ね」

B(彦星)「今まで俺にしか懐かなかった牛が、あいつにはあんなに…………ふん、おもしれー女っ」

A「うっわ! どこかで聞いたことのあるやつ!」


B(彦星)「俺、今まで牛以外に信頼できるやつなんていなかったんだけど……織姫、お前のことは……」

B(織姫)「彦星くん……わ、私も…………ゴホッ!」

B(彦星)「お、おいっ⁉ どうしたんだよ⁉」

B(織姫)「実は私……不治の病の『天の川病』にかかっていて……もう、長くは生きられないって言われてて……」

B(彦星)「そ、そんな……」

A「え? 恋人が難病系?」


B(織姫)「ああ……こんなことなら……もっと早く……自分の気持ちに素直になっていたら、良かったな……」

B(彦星)「お、織姫……」

B(織姫)「私……いつも、神様にお願いしてたんだよ……? いつか……この病気が治って……彦星くんと両思いに……なれます、よう……に……」

B(彦星)「織姫っ! お、織姫ーっ!」


B「と、いうのはどうかしら?」

A「あの……どうかしら、じゃなくてね? とりあえず、令和の七夕っていってた割に、平成のラブコメテンプレみたいになってるからね?」

B「そう? でも悲劇に引き裂かれる恋人たちの話なんて、いつの時代も人気コンテンツだし、問題ないでしょう? しかもこの話なら、ちゃんと短冊の願い事が『ように』で止まっている理由もあるし……」

A「いやいやいやっ! これだと、『レギュラーに、なれます……ように……』って感じで、お願いしてる人が息絶えてることになっちゃうじゃん⁉ もはや遺書じゃん⁉ 嫌だよ、そんな短冊!」


B「ちなみに。このあとたまたま通りかかった天才無免許内科医の天ノ神先生が治療してくれたおかげで織姫は奇跡的に一命をとりとめるのだけど、完治はできなくて。基本は面会謝絶なんだけど、7月7日だけ一時退院することが出来るという……」

A「ご都合主義だな! これじゃ、元の話より納得いかないよ!」

B「はいはい、分かったわよ。じゃあ、別のパターンにすればいいんでしょ?」

A「ラブコメテンプレは、もう禁止だからね⁉」

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