第30話 これからについて
「何かなそれ……犬のマネ?」
ガラスアは小馬鹿にした態度で必死に這いずる俺を文字通り見下す。
もはやそんな煽りが効くような状態ではなく、俺は血を垂らしながらもその場になんとか立ち上がる。
「二人は殺させない……次こそ守るんだ……守りたいんだ……」
「あっそ」
返ってきたのは無関心な声と無慈悲な突きだ。
途端に奴の動きがスローになる。奴の動きだけではない。周りの全てが極端に遅くなる。これが走馬灯というやつなのだろうか?
ここで死ぬのか? 俺が死んでミーアとアキは……いやそれよりもこの世界は救われるのか?
今こそこの世界では人間と魔族は停戦状態だ。
だがそれも時間の問題だろう。誰かが救世主に、希望にならなければいけない。
今度こそなるんだ……誰かを不幸にする悪魔じゃなくて、誰かを幸せにできる希望になるんだ!!
ボロボロだというのに俺の体内から力が込み上げてくる。希望が胸に満ち溢れる。
俺はこちらに向かってくる鉤爪を素手で掴み止める。
「なにっ!? クリスタルはないはずなのに……この熱さは一体!?」
奴は俺から噴き出てくる熱と光に危険を察知し逃げようとするが、俺ががっしりと掴んでいるせいでそうはいかない。
「俺は……希望にならなくちゃ……みんなを助けなきゃいけないんだぁぁぁ!!」
奴の腹に拳を一発叩き込む。
立つことも困難な体から放たれた一発だったが、鼓膜を突き破るほどの衝撃音が響き渡り奴はクリスタルを撒き散らしながら後方へと吹き飛んでいく。
「何なんだその力は……覚えてろよ!!」
全力とは程遠い力だったため気を失わせるまではいかず、奴はどこかへ逃げ去ってしまう。
「あはは……なんとかなっ……た」
強烈な疲労と眠気に襲われ視界がぐるりと回りながら暗転してしまう。
☆☆☆
目を開けば知らない天井が視界に広がっている。
「ここは……」
「リュージ様!!」
ベッドから起きあがろうとしたところ横からアキが飛びついてきて押し倒されてしまう。
「うわっ!! アキ!?」
抱きついてくる彼女に驚きつつも、軽いのでそこまで気にならず今度こそ起き上がる。
「心配でした……丸一日も寝てたんですから」
「丸一日も!?」
確かにお腹がかなり空いている。これは丸一日食べなかったと言われても納得できる。
「とりあえずこれをどうぞ。村長さんから魔物を追い払ってくれたお礼にともらいました」
手渡してくれたパンと水を口に入れ、ある程度落ち着ける。
「ここは村長の家?」
この匂いは嗅ぎ覚えがある。村長の家で嗅いだあの木材特有の匂いだ。
「はいそうです。リュージ様が倒れてしまったのでポーションで治療した後村に戻って、村長がご厚意で部屋を貸してくれました。
ミーア様も命に別状はなく今は外にいます」
「そうなのか……とにかくみんな無事でよかったよ」
誰も犠牲にせずに事を終えれた。その達成感を噛み締めるのと同時に扉が開かれミーアが部屋に入ってくる。
「もう起きて大丈夫なの?」
「多分。体に異常はないよ」
「なら起きて早々悪いのだけれどリュージに聞きたいことがあるわ。ガラスアに使ったあの力は何なの?」
ガラスアとの戦いで最後に噴き出たあの謎の熱と力。その正体は結局わからない。クリスタルが体内にあったわけでもないのに。
一度目を瞑り精神世界に行くが、それらしいクリスタルは見当たらない。
「全く何にも分からない。俺でもあんな力が出たことに驚きだよ」
「まぁそうだよね……これ以上考えても仕方ないわ。とりあえずこれを渡しとくわ」
ミーアは体内からクリスタルを六つ取り出し投げ渡す。
黄色の神々しいものが三つに青色の水のクリスタルが二つ。そして禍々しい紫色のクリスタル一つだ。
それらを取り込むと一瞬視界が歪み気分が悪くなってしまうが、数秒経てば落ち着き力を抑え込むことができる。
「今回の件についてはもう村長に話しておいたわ。時間も惜しいし病み上がりで悪いけれどもう出れるかしら?」
「俺は全く問題ないよ」
丸一日寝たおかげか体調は絶好調だ。今すぐ長旅に出ることになっても問題ないだろう。
「でもアキはどうするの?」
問題なのはアキのこれからについてだ。
あの戦いでは状況が状況だったので仕方なく参加させたが、できれば彼女にはこの戦いから身を引いて欲しい。
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