第24話 虚言
「何を言ってるんだ? お前は火のクリスタルを使っただろ?」
ガラスアは現段階では俺が言おうとしている嘘の意味すら分かっていない。
だが絶対に分からせてみせる。それしかミーアを助ける道はないのだから。
「これがその証拠だ」
俺は今度は水のクリスタルの力をオンにして、あの時鹿がやったように水球を出現させる。
その意味は奴も理解してくれたようで、一旦こちらに向けている殺意を下げ話を聞く姿勢を取ってくれる。
「説明してもらおうか。どうしてお前は火と水、二種類のクリスタルの力を使えるんだ?」
ミーアが初めて会った時に言っていた。本来クリスタルは担当の属性しか扱えないと。
つまり奴から見れば俺はイレギュラーそのものだ。
「なぜか俺はクリスタル集めに参加しているわけでもないのにクリスタルを使えるんだ。
それでだけど、本当に俺を攻撃していいのか?」
「そんなの関係ないね。殺してクリスタルを奪うだけさ」
「ダメージを与えたり殺せばクリスタルが出てくる。それが参加者ならな」
ガラスアはかなり頭が回るようで、この言葉の意味も瞬時に理解して表情を歪める。
「そんなハッタリ……」
「ハッタリじゃなかったら? もし殺してクリスタルが出るんじゃなくて消滅してしまったら? お前にはどうしても叶えたい願いがあるんだろ? それもクリスタルに頼らないと叶えられないような願いが?」
正直に言えば、この話し合いの末殺される可能性の方が高い。俺はそう踏んでいる。
だが思ったよりこの言葉はガラスアの心境に変化を与えてくれたようで、奴は氷の鉤爪と触手を解除する。
「お前の言うことも一理ある。今回は退いてあげるよ。面白いことも思いついたしね」
「面白いこと?」
「ふふっ……またね」
奴はもう一度触手を二本だけ展開して、それらを強く地面に叩きつけその反動で跳び上がりどこかに消えていく。
「うぅ……何とかなったみたいね……助かったわ……」
ミーアは唯一まともに動く左腕を使い何とか体を起き上がらせる。開いた穴からは血が止めどなく流れ続けており、彼女は苦悶の表情を浮かべながらアイテムボックスの中を探る。
「ミーアは動かないで! ポーションでしょ? なら俺がかけてあげるから」
俺はやっと少しは動かせるようになった腕でミーアの腰についてあるアイテムボックスの中を探る。
体が所々悲鳴を上げている。腕は二回も衝撃を加えられ骨が何箇所かヒビが入っているだろう。それにミーアを受け止めた時に体を強くぶつけたせいで痣にもなっているだろう。
とはいえこの命なんてどうせ一回は死んで失ったものだ。俺のどうでもいい怪我の事情よりミーアの怪我の方が優先事項だ。
ポーションを探す最中何度も痛みが響くが、俺はそれを堪えポーションを見つけ出し彼女の傷口に振りかけてあげる。
「傷は大丈夫? 他に痛いところはない?」
俺は彼女が落下の際にどこか怪我してないか気になってしまう。
「私は大丈夫よ。それよりあなたでしょ!」
ミーアは余ったポーションを俺の腕やぶつけた箇所などにかけてくれて、おかげで多少痛みは残るが大体完治する。
「今回は助けられたし、あなたの優しさには感謝するわ。でもあなたがアキに言ったように自分自身の心配もしなさいよ」
「あはは……気をつけるよ」
痛い所を突かれたが適当に受け流し、怪我も治ったことなのでアキと合流するべく目的地の村まで向かう。
「リュージ様! ミーア様!」
村が見えてきたところで、遠くの方でうずくまっていたアキがこちらに駆け寄ってくる。
「無事で良かっです……! 僕助けを呼んだらいいのかどうか分からなくて……」
先程うずくまっていたのはやるべきことが分からず結果的にああなってしまっていたということだろう。
「アキの判断は正解だよ。村の人達に助けを呼んで、もし来てしまったらとんでもないことになっていたかもしれない。
とてもじゃないけど普通の人にガラスアの相手は無理だからね」
訓練もしていない普通の人間なら、ガラスアを前にしたら数秒も立っていられないだろう。それに下手に刺激していたらさっきのハッタリ作戦だって失敗していたかもしれない。
「それに俺はアキを置いていって死んだりしないから」
根拠も自信もないが、涙を浮かべる彼女の心の支えになってあげたく虚言を吐く。
「とにかく今は急いで依頼主のところまで行きましょ。日が暮れる前に宿に戻りたいし」
そうして俺達は依頼主であるこの村の村長に会いに行くのだった。
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