第17話 パピコはわけあえば美味しい

それをきっかけに一は何かが吹っ切れた。


忘れることはない。

思い出すことだらけ。


それでも踏み出した最初の一歩は大きく。

そして優しい道だった。


次の日。

一は、軽音部に来た。


「……」


一と。


「……」


葉月。


ふたりだけの世界。


「冷房効かないね」


葉月がポツリと言う。


「うん。

 修理は来週になるみたい」


一の言葉に葉月は頬を膨らませる。


「えー、今日は水曜日じゃん」


「うん」


部室の温度は36度。


「ああああ、アイス食べたい」


「そうですね」


「でも、朝に1個食べちゃったんだ」


葉月はそういってため息を吐く。。


「もう1個行っちゃう?」


「いかない。屈しない。

 アイスになんかは、絶対に負けない」


そう言って1時間が過ぎた頃、葉月はふらっと部室を出る。

そして数分後……


ご機嫌な様子でパピコを持って戻ってきた。


「負けてるじゃん」


一の言葉に葉月は言う。


「このパピコはアイスじゃないのだ。

 氷菓なのだ」


「そうなのですか?」


葉月はニッコリと笑いパピコをふたつに割る。

そして、それを一に渡す。


「え?」


「奪い合いは誰かが傷つく。

 でも渡し合いはしあわせを呼ぶんだー」


そういった葉月の目はどこまでも優しく暖かく。

そしてパピコは甘くて美味しい。


そんな春。

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