第4羽

 ナイマン男爵からの依頼だと聞いていたからてっきり、また自尊心を満たすための不要不急のモニュメントでも作って、そのお披露目セレモニーでも開催するのかと思っていたら孤児院で開催されるバザーへの資金提供――!


 結局はお貴族様の自尊心を満たすための行動なんだろうけど――。


「がんばって準備したのに……」


「楽しみにしてたのに……」


「いたいけな子供たちを巻き込んでるなら事前に言っておいてほしかったーーー!」


「ぴー……」


 神父様の足にしがみついて泣きそうな顔をしている子供たちを見ているとつられてこっちまで泣きそうになってしまう。

 でも、泣かない。

 子供たちが泣くのを必死に堪えているのに大人の私が泣くわけにはいかないし、かわいいかわいいぴーちゃんを肩に乗せてる私は最強だから!


「大丈夫ですよ。チラシが間に合わなくてもみんなで元気いっぱいに太鼓を叩いてお客さんを呼べばいいんです。きっと、たくさんのお客さんが来てくれますよ」


 足にしがみついている子供たちの頭をなでながら神父様が微笑みかけた。こんな田舎町に派遣されるしてはずいぶんと若くてイケメンの神父様だ。

 町を歩けば女性たちがうっとりとした顔で振り返る。取り囲まれてワーワーキャーキャーとならないのは気品ある雰囲気のせいか、神に仕える身だからか。

 この町にやってきたばかりの私にもにっこりと人の良さそうな微笑みで挨拶をしてくれるし、何くれとなく気にかけて助けてくれる。


「私も最近、この町に来たばかりなんですよ。新参者同士、仲良くしてくださいね」


 なんて言ってニッコリ微笑みながら何くれとなく助けてくれる顔も性格もいい奇跡の神父様だ。


「ぴー! ぴ、ぴーーー!」


 ぴーちゃんに毛嫌いされていることと、どこかで見たことがあるような気がする顔だなーというのが少々、気になるところだけれども。

 それはさておき、顔も性格もいい奇跡の神父様だ。


 そんな神父様といたいけな子供たちが開くバザーの危機である。神父様は太鼓を叩いて大きな声で宣伝すれば人が集まってくると言ってるけど、事はそう簡単ではない。

 この町の人口なんてたかが知れている。隣の町までは歩いて半日かかってしまうから情報が届く頃にはバザーも終了。

 一週間前――せめて今日中にチラシを配らないとバザーの集客は絶望的。売上も絶望的。メンツを潰されたと思うだろうナイマン男爵のご機嫌も絶望的だ。

 孤児院への援助がただの善意ならそこまで絶望しなくてもいいかもしれないけれどナイマン男爵が援助する理由は自尊心を満たすため。完全に自分のため。人が集まらなければナイマン男爵を取り囲んで褒めそやしてくれる人も集まらない。

 これはもう、完全にナイマン男爵のご機嫌も絶望的だし、次の孤児院への支援も絶望的だ。


「たくさん人が集まって、楽しいバザーになると思ってたのに……」


「楽しみにしてるチビたちになんて言おう……」


 今にも泣き出しそうな顔をしているのに必死に涙をこらえ、それどころか孤児院に置いてきた年下の子供たちの心配をしているのだ。見ているとつられてこっちまで泣きそうになってしまう。

 でも、泣かない。

 子供たちが泣くのを必死に堪えているのに大人の私が泣くわけにはいかないし、私の肩にはかわいいかわいいぴーちゃんが乗っているから。


「ねえ、ぴーちゃん。またぴーちゃんの力を借りてもいい?」


「ぴ?」


 今回の件はぴーちゃんの力を借りれば恐らく一瞬で解決するから。

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